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3-19 エピローグ [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

 橋川に戻ったのは、結局、事件が解決して3日目だった。
「おお、もどったか。ご苦労様。札幌署の吉武君から概要の報告が届いたぞ。皆、随分活躍したそうだな。札幌署の署長からも、お礼の電話が、署長にあったそうだ。」
鳥山課長が、札幌署から届いた書類を手に持って、笑顔で皆を労った。

神林病院に戻った、レイや優香、遠藤は、君原副院長とともに、院長室に居た。
「これからの事ですが・・。」とレイが切り出した。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。命を預かる病院で信用を傷つけることをしてしまって・・すぐに出て行きます。」
遠藤と優香は深々と頭を下げる。
「そうね・・二人とも以前と同じように働くのは無理でしょうね・・。でも、どこか行く当てはあるの?」
レイは、心配そうに訊いた。
「まだ何も考えていません。全て終わったら・・二人で死のうって決めていましたから・・。」
優香が言う。
「まだ、人生を諦める年じゃないだろう?」
そう言ったのは、君原副院長だった。
「一つ、提案があるんだが・・聞いてくれるかい?」
君原の言葉にレイも少し驚いた。
「まだ、院長にも報告していなかったんですが・・今度、豊城市で病院を新設することにしたんです。もともと、親父が小さな医院をやっていたんで、時々手伝っては居たんですが・・豊城市には満足な総合病院がない。皆、橋川市民病院まで来ることになる。高齢化も進んでいて、何とか地元に恩返しできないかと考えていたんです。来年の春には開院する予定で・・そこのスタッフを探し始めるところだったんです。」
君原の説明に一番驚いたのはレイだった。
これまで、君原には、神林病院立て直しに大きく貢献してもらった。神林病院のスタッフの多くは君原が集めたと言っても過言ではなかった。
「君原さん・・その話・・」
レイは何と言っていいのか、言葉に詰まった。
「すみません、院長。ご報告が遅くなって・・しかし、ここはもう充分機能している。あんな事件があっても患者さんは減っていません。スタッフみんなが頑張った成果でしょう。もう、私が居なくても大丈夫です。それに、今度の新病院は、すぐには総合機能を持てません。ですから、神林病院と提携することで、もっと多くの患者さんのお役に立てると思うんです。いわば、第2神林病院と考えていただければ良いんです。」
君原の言葉にレイは少し安心した。
「新病院の中心スタッフとして、二人に来てもらえると僕も助かるんだが・・どうだろう?もう一度、自分たちの人生を取り戻すためにも、新しい場所で始めるというのもいいんじゃないかな?」
優香と遠藤は顔を見合わせた。そして、レイを見た。
「いいお話だと思うわ。豊城市なら、近くだし、何かあれば相談にも乗れるでしょうし。私は賛成よ。」
優香は躊躇しているようだった。
遠藤が、優香の肩に手を置いて言った。
「優香、お世話になろう。この先、少しでもお役に立てることがあるのなら、そうしよう。僕も君と一緒にもう一度人生を生き直したい。」
安藤の言葉は心強かった。幼い頃、あの施設で心を癒し言葉を取り戻せたのも遠藤の存在が大きかった。いつも、傍に居て見守ってくれているのは、優香も判っていた。この先、遠藤とともに生きていく、それは優香にとって最も大きな喜びであった。
「ありがとうございます。お世話になります。」
そこには、もう何の屈折のない、笑顔があった。

「ところで、一つ、疑問があるんだが・・。」
レストランヴェルデで、一樹は亜美と夕食を摂りながら、呟いた。
「なあに?」
亜美は、目の前のステーキをナイフで切りながら、ぼんやりと答える。
「遠藤さんは、優香さんのために自分の人生を投げ出したようなものだが・・どうしてそんなことができたんだろう?」
一樹の言葉に亜美は思わず吹き出してしまった。
「ちょっと俺には理解できないな・・。」
一樹は、亜美の反応を気にもせず、独り言のように呟く。
「私には、あなたのその鈍さが理解できないわ・・。」
亜美は、少しげんなりした表情で呟いた。

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