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追跡-1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「剣崎さん、いったい、どこまで判っているんですか?」
一樹がいきなり訊いた。
「あの建物はいったい何ですか?そろそろ全て教えてもらってもいいんじゃないですか?」
一樹は不満そうに言った。
「そうね・・。」
剣崎はそう言うと、ソファに座り、一樹、亜美、レイ、それにカルロスを前にゆっくりと話し始めた。
「このチームは、警視総監直属の部署で、特殊犯罪捜査課というのも、公式には存在していていない。警視庁幹部の中でもごく一部の人しか知らない存在なの。そして、このチームには特命がある。」
剣崎の表情が少し険しくなる。
「レイさんの能力や、剣崎さんの能力を使った特別な捜査なんでしょう?」
亜美が言うと、剣崎の表情が少し和らいだ。
「もちろん、そういう特殊能力を活かした捜査というのも特別よ。でも、特命というのはそういうのじゃないわ。」
剣崎の言葉に、一樹が反応する。
「通常の捜査では捕まえられないのが対象の事件。つまり、警察組織の上層部、あるいは、もっと上位の権力者が関与する事件の捜査という事ですよね。」
「そうよ。」
「でも、事件の始まりは、EXCUTIONERの例の映像だったんじゃ・・。」
亜美が訊く。
「実は、あなたたちがチームに入る前から、調べていた事があったの。そう、MMに関する捜査よ。行方不明者を使って闇で殺人などを行う組織の存在は、上層部にも悩みの種だった。それを捜査していたんだけど、これといった情報が掴めない。そんな時、例の映像が見つかった。身元が判らない女性が無残に殺された。私たちはMMとの関連があると睨んで、レイさんの力を借りることにしたわけ。」
「じゃあ、EXCUTIONERの逮捕が目的ではなかったということですか?」
亜美が驚いて訊く。
「いえ、EXCUTIONERも立派な犯罪者よ。必ず逮捕する。そうすれば、MMの全貌も判るはずだった。でも、MMという組織は、それほど甘いものじゃなかった。今回のことで、組織のためなら、顔かたちを変え、命さえも差し出す、それも相当な訓練を積んだ者たちの特殊な集団だと判ったわ。これより先に踏み込むことは、私たち自身の命も狙われるということになる。」
剣崎の言葉に、皆、黙り込んだ。
「そして、組織のトップには、警察上層部の人間がいる。刑事の一人二人が命を落としても、何とでも処理できるということですね。」
一樹が、剣崎に言う。
「レイさんは?」と、亜美が訊く。
「おそらく、レイさんの存在もすでに知られている。この先、命を狙われる可能性があるわ。・・だから、こうして、ここに来てもらったのよ。ここなら、安全でしょ?」
レイは小さく頷いた。
レイは、剣崎と思念波で話をしていて、既に覚悟しているようだった。
「MMという組織を壊滅させない限り、俺たちの命も危ういという事か・・。」
一樹が確認するように言った。
「あの・・生方さんは?彼がそのMMとの内通者ということですか」
と、亜美が訊く。剣崎は首を横に振る。
「彼や、カルロス、アントニオ、顔を合わすことはないけど、あちこちにいるチームメンバーは私自身が選んだ人間。警察内部とは縁はない者ばかり、信用できるわ。・・ただ、このトレーラーや機材は、本庁が手配したものだから・・おそらく、生方のいる部屋やパソコン等は全て、MMの組織とどこかで繋がっているはず。内部からの情報漏えいじゃなく、外部から監視された状態にいるということなのよ。」
剣崎ははじめからそういうカラクリに気付いていたようだった。
「ここは?」
と、亜美が自分たちのトレーラーの事を聞いた。
剣崎は小さく笑顔を見せて言った。
「あなたたちを捜査に加えることになった時、急遽、居場所が必要になったと言って、アメリカの知り合いを通じて手配したの。だから、ここはセーフティーゾーン。矢澤刑事は、わかっていてここへ、私を呼んだのよね?」
一樹は、そこまでは考えていなかった。むしろ、生方が情報を漏らしている人物かもしれないと考えていたのだった。
「まあ、いいわ。ここからは、MMへの反撃開始よ。EXCUTIONERは、これまでMMの存在を私たちに知らせるため、殺害動画をネットにアップしていた。でも、最後のライブ映像は違った。あれは、彼らのMMへの復讐の手段。警察組織とMMとをあの場所へおびき寄せる事で、MMへの制裁ができると考えていたのでしょう。しかし、それほど甘くない。むしろ、彼らは、これからMMに追われる立場になった。私たちと同じ境遇になったわ。」
剣崎はそう言うと、先ほどの現場から持ち帰ったいくつかの品をテーブルに並べ始めた。
「何を始めるんですか?」と亜美が尋ねる。
「MMに反撃するには、能力を使いきらないとね・・。」
剣崎はそう言うと、目の前の品の一つをそっと手にする。そして、目を閉じた。
手にしていたのは、手術台の下に落ちていた「ピアス」だった。
頭の中に映像が広がる。
≪どこかの部屋に入るところからの映像が広がる。目の前には、あの所長の後ろ姿。銃声。少しだけ映像は途切れる。次は、倒れている所長を抱え、男と一緒に運び出している。一瞬だけ、男の顔が見えた。初めて見る顔だった。そのまま、ストレッチャーを押して手術室へ入り、所長を手術台の上に乗せた。≫
そこで、映像は途切れた。おそらく、その時、片淵亜里沙の耳からピアスが抜け落ちたのだろう。
剣崎は、大きく息を吐き、それをテーブルに戻す。

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