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追跡-2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

次は、手術室にセットされていたパソコンに着いていた「毛髪」だった。そっと摘まみ上げて、目を閉じる。
≪パソコンの画面が見えた。そこに開いていたのは、見慣れた警察のデータベースのようだった。次々に画面が変わる。そこから、メールアドレスを探し出し、入力を始めた。そこに記録されているのは、なじみのあるアドレスだった。それから、カメラをセットして、横たわる所長を映し出した。≫
そこで、映像は途切れた。
「片淵亜里沙と一緒に居たのは、警察関係者のようね。」
剣崎が口を開く。
「まさか・・EXCUTIONERは、警察官というんですか?」
亜美が聞き直した。
「ええ、警察のデータベース、それもかなり上位者の情報にアクセスしているところから、どうやら、本庁の人間でしょう。」
剣崎が答えた。
「顔は判ったんですか?」
今度は、一樹が訊いた。
「ええ、一瞬だけどね。今まで逢ったことはない人物ね。」
「じゃあ、生方さんに調べてもらえばすぐに判るんじゃないんですか?」
亜美が言うと、今度は、一樹が答えた。
「おそらく、無理だろう。こちらのシステムはハッキングされているんだ。もし、生方さんが調べ始めれば、シャットダウンするか、偽の情報を流すに違いない。これまでも、俺たちの先回りをしてきた頭のいい相手だ。そんなに簡単には尻尾を掴ませないだろう。」
剣崎も一樹の答えに同調した。
「じゃあ、どうすれば・・。」
亜美が言うと、レイが口を開く。
「剣崎さん、遺留物のサイコメトリーで見えた映像は、最近のものでしたか?」
「ええ」
と、剣崎はレイの質問に、少し驚いた表情を見せた。
「それなら、剣崎さんと私の力を合わせれば、もっとはっきりしたことが判るかもしれません。」
「シンクロとサイコメトリーを合わせる?」
一樹が言い換えるように訊いた。
「剣崎さんが見る映像から、二人の思念波を捉えるんです。もしかしたら、二人の居場所が判るかもしれません。」
レイが答えると、剣崎はレイの手を握る。
「そうね、やってみましょう。」
レイは、剣崎と手を握り合ったまま、目を閉じ、力を最大限に引き出そうとしている。そして、剣崎が、「ピアス」を手にして、同じように目を閉じた。
先ほどの映像が再び、剣崎の脳裏に広がる。それをレイが受け取った。レイはそこから、片淵亜里沙の思念波をキャッチしようと力を高めていく。
レイの中に、片淵亜里沙の思念波が流れ込んでくる。
真っ暗な海が広がっていた。
そこにぽつりと片淵亜里沙が立っている。哀しい目でじっと何かを待っているようだった。
≪こんな・・思念波って・・≫
レイはこれほど悲しみに満ちた思念波を感じた事はなかった。誘拐されたり、殺されたりする直前の、恐怖に満ちた思念波はこれまで何度も捉えた事はあった。それらはいずれも、何かしらの色を持っていた。だが、片淵亜里沙の思念波には、色がないだけではなく、真っ暗なのだ。何の感情もないかのように、広がる黒い空間の中にぽつりと浮かんでいるような思念波なのである。
目を閉じたまま、レイは涙を流した。そして、剣崎も同じように涙を流す。レイが捉えた片淵亜里沙の思念波が、剣崎にもフィードバックして、伝わっていたのだ。
次に、剣崎がパソコンに付着していた髪の毛を手にする。
いきなり、怒りの思念波がレイに突き刺さった。よろけそうになるレイを剣崎が支える。
≪これは・・間違いなく、復讐を誓った思念波・・恐ろしく強い信念・・≫
剣崎が、髪の毛をテーブルに置く。
レイはまだ、二つの思念波を体の中で感じている。そのまま、トレーラーから外へ出た。目の前には山中湖が広がっている。
一樹と亜美、そして剣崎がレイの後を追って外に出た。
レイは二つの思念波を感じながら、ぐるりと周囲を見ながら、最も強く感じる方角を調べている。
「それほど遠くない・・この方角に思念波を感じます。」
そう言って、レイは南の方角を指さした。すぐに一樹がスマホでマップを見る。
「南の方角か・・御殿場、沼津方面ということになるが・・。それとも、その先の伊豆?」
「行きましょう。」
剣崎が、レイの肩を抱きかかえるようにして、トレーラーへ戻る。一樹と亜美もすぐにトレーラーに戻ると、アントニオがトレーラーを発車させた。
「きっと、MMも彼らを見つけようと必死になっているはずよ。MMの正体を知っている片淵亜里沙は生かしておくわけにはいかないでしょうから。」
剣崎は、窓の外を見ながら呟くように言った。
「私たちも同じなんでしょう?」
と、亜美が言う。
「そうね。ここまで調べた以上、彼らにとっては私たちも似たようなものでしょうね。でも、片淵亜里沙が居なければ、確たる証拠が消え、闇に葬ることは容易いでしょう。とにかく、MMより先に、片淵亜里沙に辿り着かなくちゃ・・。」
御殿場を過ぎ、沼津インターに近付いたところで、レイが口を開いた。
「西へ向かってください。」
アントニオは、新東名を名古屋方面へ向けて走らせる。
「レイさん、少し休んだほうがいいわ。」
亜美が労うように言う。

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