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2-10 謎の女性 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

一樹はすぐに、駅ビルの駐車場管理事務所へ向かった。
駐車場の入り口には、必ず、監視カメラがついている。あの女性が自分の車に乗ったのなら、ナンバーだけでも判るはずだ。そう思って、事務所へ飛び込んだ。警察バッジを見せて、カメラ映像を見せるように話す。
「その時間に出て行った車はありませんよ。」
管理事務所の警備員はやや冷めた表情で言う。
「いや、きっとあるはずだ。」
一樹が語気を強めて言う。
「この駐車場は23時で閉鎖し、翌朝6時までは開かない。だから、出て行った車はないんです。」
警備員はあっさりと言った。
一樹は事務所を飛び出し、バスの降車場、監視カメラ、そして二人が歩いて行った方角、それを再確認する。そこには送迎用の停車スペースがあった。
「迎えの車があったという事か?」
駅ビルの管理室へ向かう。
先ほどと同じように監視カメラ映像を見せるよう要請すると、すぐに用意された。そこには、小さなセダンに乗り込むマリアと女性の姿が確認できた。車のナンバーも確認できた。先ほどの失敗を繰り返さない為に、少し後の映像も見た。
「亜美、車両ナンバーの紹介を頼む。静岡501 あ・・・。」
一樹は管理室からすぐに亜美へ連絡した。そして、映像コピーを入手して、剣崎のところへ戻った。
戻ったところで亜美から連絡があった。
「その車両の持ち主は、須藤英治。住所は、静岡市清水区蒲原・・。」
剣崎は、すぐにトレーラーをその場所に向かわせた。
「いったい、何者なんでしょう?」
亜美から聞いた住所地へ向かう途中、一樹が訊く。
「判らない。ただ、マリアが能力を使わず、会話をしているところから、知り合いと考えるべきでしょうね。でも、日本に知り合いがいるなんてことがあるかしら?」
「あの服装。中年の女性のようでしたが、マリアの身内ということは?」
「両親は事故で3歳の時に亡くし、その後、養護施設に入れられ、そこからアメリカの・・。」
と、剣崎が口にしたところで、一樹が言った。
「その・・養護施設の人間・・例えば、保母さんとか・・。」
「まさか、3歳から2年ほどしか居なかったはず。そんな頃の記憶があるかしら?」
剣崎はそう言うと、運転しているアントニオを見た。
それとなく聞いていたアントニオが首を振る。
「普通の子どもなら、ぼんやりと覚えている程度でしょうが、マリアには特殊な能力がある。記憶能力も特別という事はありませんか?」
剣崎は一樹の話を黙って聞いている。
「その記憶に残っていた女性だったという事は考えられませんか?だから、彼女は能力を使わず、彼女と会話をした。危害を加えられることはないと感じた。」
それを聞いて、剣崎は、
「確かに、そう考えると、一緒に行った説明はつくわね。」
それから、二人は暫く沈黙した。
トレーラーは国道1号線を東へ進み、高い防波堤でどうにか守られている道路を進み、由比の漁港を通過すると、ようやく蒲原へ入った。そこから、住所地へ向かうには狭い道路を進まなくてはならず、後ろにいたカルロスの車に乗り換える。亜美から届いた住所の場所へ向かう。
「ここね。」
車を停め、降りたとたん、一樹が驚いて言った。
「何かの間違いじゃないか?」
目の前には、更地が広がっていた。
「ここじゃなさそうね。」
剣崎も車を降りた。
一樹は、亜美に電話をして、もう一度、住所地を確認し、電子マップで照合する。
「間違いないようですね。」
近くの民家で、話を聞くと、2年前までそこには、何かの施設があったようだが、突然、撤去され更地になったのだと判った。
「持ち主だった、須藤さんはどうされているかご存じありませんか?」
更地から数軒離れた家にいた方からは、「自治会長に、聞いてみてください」という返事が返ってきて、住宅地の入り口にある自治会長宅へ向かった。
「えっ、あの更地の持ち主?須藤さん?」
出てきた頭髪の薄い老人が自治会長だった。老眼鏡で、住民の記録を開いて、覗き込むように見てから、首を傾げた。
「あそこは、須藤さんじゃないよ。富士FF学園という学校が所有していた施設だったはず。子どもの声がしていたから、多分、寄宿舎みたいなものだったんじゃないかな。・・ただ、町内との関係は良くなかったから、よく判らない。」
「関係が良くなかったとはどういうことです?」
一樹が訊く。
「訳ありの子どものようで。先生たちも不愛想だったし、とにかく、不気味な感じがしたんだ。夜中に変な声が聞こえたり、脱走してしまう子どももいて、警察もしょっちゅう来ていたんだ。」
「警察が?」
一樹はそう聞いて、地元警察に情報があるのではと期待した。
「ああ、だが、地元の駐在じゃないようだったな。地元の駐在なら、自治会長の私のところへ事情を説明に来るのが筋だが、一切、そういうことはなかった。」
「警察だとなぜわかったんです?」
「ああ、一度だけ、聞き込みっていうのかい?あんたみたいに突然やってきて、バッジを見せて、変わったことはないかと聞きに来たから。とにかく、不気味な施設だったよ。自治会長としては、撤去されて良かったというのが本音だね。」
「富士FF学園の連絡先は判りませんか?」
「実は、撤去される少し前に、近所の方から苦情があって、文句を言いに行ったんだが、取り合ってくれず、富士FF学園に連絡をしたんだが、電話は通じなかったんだ。一応、これが電話番号だよ。」
そう言って、自治長は、小さな紙切れを渡してくれた。
自治会長の目の前で電話番号を押してみたが、確かに繋がらなかった。
「須藤英治さんという名前に心当たりはありませんか?」
「いや・・ここらでは聞いたことはないな。」
「そうですか・・。」
一樹は、自治会長から聞いた内容を剣崎に伝え、同時に、亜美に『須藤英治』の素性を調べるように頼んだ。
「ここに在った施設に、マリアは一時居たんでしょうか?」
一樹が剣崎に訊く。
「おそらく、そうでしょう。」
「両親を亡くした子どもは、身寄りの者が引き取るか、最寄りの児童養護施設へ入るはずですが・・ここもそういう施設だったんでしょうか?・・・それにしては、怪しい感じがしますね。」
剣崎は一樹の問いには応えなかった。
暫くすると、亜美が連絡をしてきた。
「須藤英治というのは、富士FF学園の理事長でした。ただ、富士FF学園というのは実態がよく判らないんです。学校法人ではなく、社団法人で登記されていました。登記簿では、子どもの福利厚生の事業を行っている事になっていますが、所有する施設は、一つでした。昨年末に解散していました。」
「じゃあ、須藤英治の所在も判らないのか?」
一樹が亜美に訊く。
「いえ、同一人物かどうかは定かではないけど、十里木高原の別荘地内に住所登録している人物はヒットしたわ。もしかしたら、その人じゃないかしら。」
剣崎は亜美からの報告を聞いて、すぐに、十里木高原へ向かう事を決めた。剣崎は何か思い当たることがあるような様子だった。 

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