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4-16 出雲行幸 [アスカケ外伝 第3部]

大蛇アギムによって、牢獄に閉じ込められたまま、命を落とした先代の王の弔いが始まった。
墳墓は、王が即位した年から作られ始め、すでに完成していた。
神殿が見える古志の郷の山を拓き、四角い土盛をして、表面に石積みを施した大きなものだった。頂上には、石室が作られ、中には石棺が置かれている。そのなあkに、様々な王の持ち物とともに亡骸を安置した。隣には、古志の長の墳墓も作られ、命を落とした者達も近くに埋葬された。
墳墓の頂上には舞台のような平地があり、そのうえで、ヤガミ姫や若い巫女たちが一昼夜踊り続け、王の魂を黄泉の国へ送る儀式が営まれた。
それが終わると、スミヒトが中心になって、ヤガミ姫の女王への即位の支度が着々と進められた。
古のしきたりに捉われることなく、新しい出雲国を民に示すためにどうすればよいか、スミヒトは、トキヒコノミコトやタケル達に相談した。
そして、女王即位之儀が執り行われる日を、冬を迎える前、十一月二十日と定め、国中に遣いを出した。
タケルは、ともに戦った吉備や安芸、長門の兵たちを通じ、諸国へ出雲の女王即位之儀を知らせる事にした。もちろん、都にも遣いを頼んだ。
日が近づくと、諸国からの船が、神門や能代の港に次々と到着した。
船にはそれぞれの国の王や国主が乗っていて、祝いの品も大量に届いた。船が着く度に、港の民は大いに喜び、祝いの品を神殿に運んだ。また、祝いの品とは別に、戦禍で苦しむ民のために、各地から米や稗・粟、海産物なども大量に届き、国内の郷へ振り分けた。
最後に、ヤマトの都から、皇アスカと摂政カケルも、長門の国ヨシトの船とともに神門の港へ着いた。皇の行幸である。
「ヤマトの皇様がご到着なさいました。」
港からの報せに、タケルは真っ先に出迎えた。
皇アスカと摂政カケルは、伴の者とともにゆっくりと船を降りて来る。そして、港で、出迎えたタケルの姿を見つけると、小さく手を振った。
港に降り立つと、タケルは二人の前に跪く。
「ご苦労でした。よくやり遂げましたね。」
皇アスカが微笑みながら、労いの言葉をかける。
「皇様、摂政様、ここに居る皆の尽力のおかげです。私一人の力ではありません。それに、皇様、摂政様が、遠く都から御力を下さったからでございます。」
タケルは、しっかりとした口調で答えた。
「また一つ大きな仕事を成し遂げたな。だが、それは、其方ひとりが成したのではない。ここに集い、正しき世を求める者の心こそが成し遂げたのだ。そのこと、心に刻んでおきなさい。」
摂政カケルも、タケルに労いに言葉をかけた。後を追うようにして、ヤガミ姫とトキヒコノミコトも姿を見せ、タケルに並んだ。
「このような地までの御行幸いただき、まことに畏れ多い事でございます。」
ヤガミ姫が深々と頭を下げて礼を言う。
「あら、女王とお聞きしていたのに、何とも、愛らしい御方なのですね。」
思わず皇アスカが言うと、ヤガミ姫は顔を赤らめた。
「おひさしゅうございます。トキオでございます。」
トキオは晴れ晴れとした顔で、挨拶する。
「うむ。ご苦労でした。山背のムロヤ殿から、大よその事を聞きました。難波津を離れ、たった一人、よく辛抱して、大仕事をやり遂げました。トキオ殿は、ヤマトの誉れ。後世まで語り継がれるでしょう。」
摂政カケルが、労う。
「いえ、私一人が成したわけではありません。都や難波津で多くの事をお教えいただいたからこその事。それに、タケル様の御尽力があったからこそ、ここまでやり遂げる事が出来ました。」
「まあ。タケルもトキオも、良きミコトとなりましたね。」
皇アスカも褒める。
「いえ、ヨシトも良きミコトとなりました。長門の国には、なくてはならぬ者となっております。」
ヨシトが言い添えた。
それから、皇アスカたちは、神殿の脇に作られた館へ入った。
皇と摂政到着を知った諸国の王や国主達は、入れ替わりに挨拶に訪れる。懐かしい顔も居れば、前国主の後を継いだ新顔もいた。
皇アスカと摂政カケルは、一人一人と丁寧に話をし、引き続き、国の安寧に努力するように告げる。
長門の国主タマソが、ヨシトを連れてあいさつに来た。
「出雲でお会いできるとは考えてもおりませんでした。」
タマソは変わらず元気であった。以前と変わらず、真っ黒に日焼けした姿を見る限り、今も、中津の海を船を走らせているに違いなかった。
「お久しぶりでございます。」
タマソの後ろから、ヨシトが挨拶する。
「あら、ヨシト殿ですか?見違えました。まるで、タマソ様そっくりになられて、海が似合う男になられましたね。」
アスカが少し悪戯っぽく言った。
「はい。ヨシトはもはや我が息子同然です。皇様が返せと言われても、御断り申します。・・いや、私より、娘のサキが許しません。」
「ほう、サキ様が・・。」
今度は摂政カケルが、ヨシトの顔を見ながら言う。
「夫婦になります。どうか、我らをお許しください。皇様と摂政様のような夫婦になります。」
ヨシトが、余りにも真面目な顔で言うので、皆、噴き出してしまった。
すでに、ヨシトとサキの婚儀の事は、アスカもカケルも、タケルからの報せで、承知していたのだった。
その日は、皇と摂政に、極近しい者だけで、小さな宴が開かれ、タケルとトキオ、ヨシトがこれまでの日々を、アスカとカケルに話した。
「私は、出雲で生きようと思います。これが私のアスカケです。」
トキオがアスカとカケルに宣言した。
「うむ、私も、長門の国で善き国作りに励みます。これが私のアスカケです。」
続く様に、ヨシトが言う。
タケルは少し迷っている。まだ、ヤマトを率いるような身ではない。自らのアスカケは、まだまだ先にあるような気がしていた。

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