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AC30 1.ジオフロント73 [AC30]

西暦3000年の世界。
22世紀、人類は、石油資源の枯渇、温暖化、食糧問題、水問題など、生存に関わる様々な問題を、科学力を以て、見事にクリアしていた。しかし、西暦23世紀初頭、巨大な彗星が地球に衝突することが予見され、世界各国は、世界連合を結成し、全ての科学技術を集めて、彗星の衝突回避への試みを始めた。
巨大な宇宙船がいくつも建造され、彗星へ向かい、幾度も幾度も、軌道の変更を試みた。結果、僅かに彗星の軌道が変わり、彗星衝突の危機は去った。しかし、度重なる破壊行為によって、彗星の一部が割れ、その最も小さい破片の落下は避けられない事態となった。
世界連合は、引き続き、その小さな破片を回避するために、幾つものミサイルを発射したが、結局回避できないことが判った。世界連合は、大きな地下シェルター「ジオフロント」を各大陸に造った。さらに、海上にも巨大な海上都市型シェルター「パシフィックフロント」も造った。

彗星の破片の落下はすさまじいものだった。
一つは太平洋上に落下した。その衝撃で、100mを超える大津波が発生し、太平洋を取り巻く国々を襲い、大都市はすべて破壊され、水泡に帰した。また、別の破片が北極近くに衝突し、その衝撃は、地下マントルにも達して、地球規模の地殻変動を引き起こした。
彗星の破片落下から数百年もの間、大地震と噴火、大陸の隆起と沈下が繰り返し起きた。さらに、地軸の傾きが変わってしまったのだった。その結果、地球の環境は大きく変わってしまった。
地上の気温は、夏季には60℃以上、冬季はマイナス60℃以下となり、植物も熱帯性と寒冷性の両方を身に着け、特異な進化を遂げたものだけが、地表を覆うようになった。赤道上はほとんどが砂漠化し、両極の氷もすべて溶けてしまった。
地上の哺乳類のほとんどは死滅し、昆虫や両生類、爬虫類などの下等な生物の一部だけが生き残り巨大化した。海洋では、魚類や甲殻類、貝類が巨大化した。
こうして、西暦3000年には、21世紀とは全く別の地球となってしまっていた。
世界各地に造られた「ジオフロント」「パシフィックフロント」に多くの人類は逃げ込んだ。
しかし、地殻変動で多くのシェルターは破壊されたり、地中深く呑み込まれたり、あるいは、海中に沈んでしまった。僅かに幾つかのシェルターは残り、そこに数万人単位の人類は生き残っていた。
ここは、地上の大型のシェルター「ジオフロント」のひとつ、全長20kmほどもあり、地下100mに造られていて、「グランド・ジオ73」と呼ばれていた。ここは、奇跡的に、無傷で残った貴重な場所だった。
大型シェルターは、数百年の間、人類が生き続けられるための機能が備えられていたはずだった。
内部はいくつものエリアに分かれた巨大な地下都市であった。彗星落下から200年ほどは機能していたが、現在では大半が機能していなかった。それでもライフエリアは、頑強に造られていて、そのまま維持できていた。
ライフエリアには、セルブロックと呼ばれる箱状のものが、フロントを支える柱に木の葉のごとくつながり、それら一つ一つのセルブロックに一人、住んでいる。ライフエリアの中でも、セルブロックのある場所をライフツリーと呼んでいた。そしてライフツリーの真ん中には、コムブロックと呼ばれる広い場所があり、日中の大半はここで過ごす事がここのルールであった。
最も人口が多かった頃には、こうしたライフツリーは1万本以上に人が住み、このジオフロントには、10万人規模の居住者が居たはずだったが、今では、ほんの1000人ほどまでに減少していた。

それから、随分と長い時が流れた。
今、グランド・ジオ73で暮らす人々は、ここを築いた人類を「先人類」と呼んでいた。もはや、まったく新しい人類と言うべき存在だった。