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偽名の男-4 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

マスターが話した通り、地元の高校生が行方不明になったのは事実だった。
当時、かなりの警官が動員され、周囲の聞き込みを行い、片淵亜里沙の足取りを調べていた。
週末の金曜日に、高校を下校してすぐに行方知れずとなっていた。足取りでは、高校を出て、繁華街の防犯カメラで姿が確認されたのを最後に判らなくなっていた。周囲には、幾つものブランド店が建ち並び、そこからわずかなところに映画館もあった。警察の捜査では、これらの店を全て調べたが、立ち寄った形跡はなかった。そして、有力な目撃情報もないまま捜査は打ち切られていた。
捜索願を出したのは、母親だった。シングルマザーだったようで、片淵亜里沙の身内はその母親以外にはなかった。そして、その母親も昨年亡くなってしまっていた。
「自宅とは反対の方角、何か予定があったのだろうか・・。」
母親からの聞き取りでは、特に、その日の予定は聞いていないと書かれている。
家出するような状況でもなかったようだった。
片淵亜里沙は、神戸由紀子とは違って、拉致された被害者に間違いない。
きっと母親以外にも、彼女の行方を追っていた人物はいるはずだ。例えば、高校の同級生はどうだろう。あるいは、付き合っていたような男性がいたかもしれない。もし、その男性が、MMという組織の事を知り、何らかの方法で、その糸口を見つけたとしたらどうだろう。EXCUTIONERは、そういう人物という事もあるのではないか。
一樹はウイスキーで少し酔っているのか、いつになく、発想が広がっていた。
一樹は会議室の机に、気になる所を開いて、捜査資料を広げていった。きっとこのどこかに、EXCUTIONERと繋がる情報があるはずだ。
「あの・・まだ、時間がかかりますか?」
捜査資料を持ってきた生活安全課の警官が、一樹に訊く。
「すみません。じっくり見たいので・・お構いなく。」
一樹がそう言うと、警官は何か言いたそうな表情を浮かべている。
「あの、なにか?」
「いえ・・実は、その事件について、以前にも調べたいという方が居られたので、もしかしたら、何か参考になるかもと思いまして・・。」
「え?この事件を調べたいと?どんな人ですか?」
「警視庁から来られたので・・ああ、この人です。」
その警官は、捜査資料の最後のページに記載されている氏名を指さした。
捜査資料の最後のページには、事件の関係者の名前の一覧が記載されている。そして、そのページの一番最後の欄には、「市原義男・捜査2課・警部補」と記載されていた。
「間違いありませんか?」
「ええ、身分証で確認しました。」
「警視庁が、この事件を調べにくるなんて変に思いませんでしたか?」
一樹は、警官に厳しい顔をして訊いた。
自分が訪ねてきた時はあれだけ慎重に対応したのに、この時は、身分証一つでパスしている。やはり、警視庁という看板は大きいのかと痛感していた。
「当時、ここらでは、行方不明になる女性が続いていたので、大きな事件になって警視庁が動いているのだと思いました。」
「1件だけじゃなかったんですか?」
「ええ、他にも未遂も含めて4件ほど発生していました。黒塗りのバンに女の子が乗せられているのを見たという通報はもっとありましたが・・ただ、行方不明の捜索願がでたのは、この1件だけでした。」
「他は?」
「家出した子とか、水商売の女性とかでした。」
「そうですか・・。」
「市原警部補には、一応、大きな捜査になっているのかと尋ねたのですが、慎重に再捜査をしている最中で、捜査情報を漏らすわけにはいかないと言われたので、それ以上の事は聞きませんでした。」
警官の回答は模範的だった。
だが、身分照会の際、どうして、きちんと確認しなかったのか、本庁に問い合わせていれば、すぐに偽名だと判るはずだ。いや、そこまで考え、情報も用意していたという事なのか、それならば、警察内部でもかなり中枢にいる人間に違いない。
一樹は、すぐに、亜美に連絡し、「市原義男」の身分照会を頼んだ。
暫くして、亜美から連絡が入った。
「市原義男という警官は、確かに居たわ。でも、捜査2課でもないし、警部補でもなかった。それも、5年ほど前に病気で退職していたわ。」
「彼はどこの部署に居たんだ?」
「ええと・・確か、情報管理部門に居たようね。」
「存在していたとなると、やはり、内部で情報操作しているということか・・。」
「その偽名の男って・・ひょっとしたら・・。」
と、亜美が言うと、
「ああ、おそらく。きっと、片淵亜里沙と一緒にいる人物の偽名。EXCUTIONERに違いない。一度、そっちに戻る。」
電話を切った後、一樹はもう少し捜査資料を読み込んだ。
「片淵亜里沙が通っていた高校は、かなりの進学校だったようだ。それに、部活も全国レベルのところばかりだ。片淵亜里沙は、成績は良い方だったみたいだ。やはり、家出するような状況とは思えない。何故拉致されたんだろう?」
一樹は、片淵亜里沙の交友関係をじっくり読んだ。そこに、ある男子生徒の名前があった。
「これは?」
行方不明になって、すぐに捜索願が出された経緯の中に、その男子生徒が片淵亜里沙の母親に相談したという記録があった。
「待ち合わせの約束をしていたのか・・。そこに現れなかったから、母親に。待ち合わせ?・・その日は、進学塾の模試があったからとあるが・・だが、塾とは反対の方角だよな。」
一樹はその男子生徒の名前を手帳に記した。
一通り、捜査資料を読み、必要な記録は取ったところで、署を出た。
舗道を歩きながら、街の様子をぼんやり見ていた。
橋川市とは随分と違って、派手な看板が立ちならび、にぎわっていて、ずいぶん遅い時間にも拘らず、若い男女があちこちで騒いでいる。
「あんな中にも、家出した娘とかいるのだろうか?」
一樹は、何だか、今回の事件にはこうした自由過ぎる社会にも原因の一端があるのではないかとまで考えるようになっていた。
一樹は、急いで品川駅に向かい、最終の新幹線で名古屋に戻った。

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偽名の男-5 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

最終の新幹線は意外と混んでいた。
「ああそうか、週末なんだな。」
一樹は、二人掛けのシートの窓際に座り、ふと呟いた。
「この中にも、家出した女の子とか、いるんだろうか?」
一樹は、キオスクで買った弁当を食べながら、周囲の様子をぼんやりと見ていた。
三島駅で大勢の客が降り、車内はかなりまばらになった。前方に、まだ中学生くらいに見える若い女性が座っている。
「まさか・・な・・。」
一樹は、少し、その女の子を心配しながらぼんやりとしていた。
暫くすると、客の様子と乗車券のチェックのために、新幹線のパーサーが回ってきた。
一樹から、極めて無表示に乗車券を受け取り、座席を確認し、チェックをした。そして、その後、前方に座っている女の子のところに行った。
パーサーは、お辞儀をして、女の子からチケットを受け取る。そして、改めて、チケットを女の子に見せながら、何か伝えようとしている。だが、小声のために、内容までは判らない。どうやら、乗車券のことで揉めているようだった。
そのうち、女の子は顔を伏せ、泣き始めたようだった。パーサーは困った表情を浮かべたまま、立ち尽くしている。
一樹は立ち上がり、パーサーの許へ行き、警察バッジを見せ、事情を聴いた。
「この御客様の乗車券は、先ほどの三島駅までだったんです。この先は、もう名古屋にしか停車しませんので、追加料金をお願いしたんですが、持ち合わせがないと申されまして。」
パーサーは随分困った表情を浮かべている。おそらく、名古屋までにすべての席のチェックを終えなければならない。この子にかけている時間はない。そういう事が表情からはっきりと判った。
だが、女の子は顔を伏せたまま泣き続けている。やはり、中学生か高校1年生くらいに見える。
「判りました。私が立て替えましょう。」
一樹はそう言うと財布から現金を出してパーサーに支払った。
「大丈夫です。名古屋駅に着いたら、親御さんに連絡しておきますから。」
一樹がそう言うと、パーサーは一旦引き上げて行った。
まだ、女の子は顔を伏せて泣いている。
一樹は仕方なく、彼女の隣の席に座った。女の子の扱いには慣れていない。どう切り出してよいか悩んだまま、しばらく黙っていた。暫くすると、女の子の鳴き声が止んだ。
「名前は?」
一樹は出来るだけ優しく訊いたつもりだが、女の子は体をびくっとさせて、顔を伏せたまま、口を開こうとしなかった。
「家出か?」
今度は女の子がかすかに顔を動かした。
やはりそうかと一樹は自分の想像通りの現実に落胆した。
「これは独り言として聞いてくれ。」
と、前置きして一樹は話し始めた。
「今、ある事件の捜査をしている。あまり詳しくは話せないんだが、家出した女性たちを集め、全身整形して、殺人や人身売買、売春、覚せい剤の販売などの凶悪犯罪をさせている組織があるんだ。」
一樹が話し始めると、女の子は少し興味を持ったようで、顔を一樹の方へ向けた。
「先日、その組織のアジトの一つが証拠隠滅のために爆破され、多くの女性が亡くなった。そう、家出した女性たちだった。」
女の子の顔色が変わる。
「だが、ほとんどの女性は、身元が判明しない。家出した女性たちは、本名など必要ない。そのうえ、整形されていては、身元を示すものなどない。おそらく、このままでは、身元不明者として、名前もなく、葬られることになる。」
その女の子は驚いて一樹を見た。やはり、まだ中学生のようだった。
「その女性たちはおそらくいろんな事情があって、家を出たのだろう。夢を叶えようと考えていた女性もいただろう。家に居られない事情があって逃げて来たという女性もいただろう。だが、結局、身元不明者となってしまった。」
その中学生は、徐々に、一樹の話の意味が理解できるようになった。
「女性たちの中には、拉致された女性もいたんだ。」
「拉致?」
と、初めて女の子が言葉を発した。
「ああ、無理矢理、連れて行かれた。・・その女性は、高校生だった。母親と二人暮らし、随分頑張って、進学校に入学し、これからという時に拉致された。行方不明になってすぐ母親が捜索願を出したんだが、広域の捜索活動でも見つからず、法的に死亡と判断され戸籍は抹消された。」
「死んだという事?」
その女の子が訊いた。
「ああ、だが、つい最近、その女性が生きていると判った。だが、母親は昨年死亡してしまったので、その女性は、母親に会いたくても、もう逢えない。」
感受性の高い中学生の女の子は、一樹の判りにくい説明でも、その事がどれほど哀しい事かを感じ取った様子で、急に、ぽろぽろと涙を溢した。
「一時的な感情で、無茶をすると取り返しのつかないことになる。」
一樹が言うと、女の子は、素直に頷いた。
「じゃあ、名前と住所を教えてくれ。」
女の子は、素直に名前と住所、連絡先を話した。
一樹は、車内で愛知県警に連絡をした。
名古屋に着くと、改札口に愛知県警の警官が数人待っていた。
「家出の事情は訊いていない。まあ、親子喧嘩くらいだと思うが・・。」
一樹が言うと、迎えに来た警官が答えた。
「先ほど親御さんと連絡が取れました。今、車でこちらに向かわれているようです。随分心配されていました。」
一樹は安堵した。
「ちゃんと家に戻れよ。」
一樹が言うと、その女の子は小さく頷いた。
その頃には、深夜2時を回っていた。アントニオに連絡をすると、すぐに名古屋駅西口に迎えに来た。既に、亜美は休んでいた。

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偽名の男-6 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

翌朝、食事を摂りながら、一樹は亜美に言った。
「剣崎さんをここへ呼ぼう。・・ここなら大丈夫だろう。」
一樹が意図している事は、亜美にも理解できた。亜美が剣崎の携帯に連絡する。
剣崎も、なぜそうするのかは訊かず、トレーラーハウスへ姿を現した。
「すみません、お呼び立てして。」
一樹が謝罪すると、剣崎は小さく笑顔を見せて言った。
「情報が洩れているという事なんでしょう?」
一樹は驚いた。
「これまでの捜査の状況を振り返ってみれば、あなたたちがそう考えるのは当然。EXCUTIONERに先回りされているし、信楽の館の爆破なんてタイミングが良すぎるでしょう。EXCUTIONERだけじゃなく、闇の組織にも私たちの動きが知られているのは確かよ。」
「じゃあ、生方さんもその・・」と亜美が言う。
「いえ、生方を疑っているわけじゃなく、私たちの通信がどこかで傍受されているようなの。そんなことができるのは、警察内部の人間しか考えられない。ここもどうかとは思うけど、私のトレーラーハウスよりは良いでしょう。」
剣崎は、ひとしきり話し終えると、アントニオに飲み物を注文して、ソファに深々と座った。
「それで、何か収穫があったのかしら?」
一樹は、神戸由紀子と水野裕也の関係、そして、同じ町で連れ去られた片淵亜里沙、それを追っている偽名の男のこと。さらに、MMという闇組織の噂を纏めて話した。
「市原を名乗った男は、恐らく、警察内部の情報中枢にいる人物ではないかと思います。身分証を見せ、所轄で捜査状況を確認するなど、大胆な事は、それだけの準備をしていないとできないでしょう。」
一樹は剣崎に言うと、剣崎は「そうね」と小さく答えた。
剣崎は、一樹の話を聞き終えてから、アントニオが持ってきたジンジャエールを飲み干した。
「実は、こちらでも幾つか判ったことがあるわ。」
剣崎はそう切り出して話し始める。
「MMという組織は、危険なスパイ集団。生方が、爆破された館にあったパソコンを復元して、幾つか興味深い情報が見つかったわ。」
剣崎はそう言うと、アントニオに、お代わりを持ってくるように言った。
「その中に、裏サイトのアドレスがあって、そこを探ってみたの。そしたら、MMという名前のサイトがあったわ。情報スパイだけじゃなくて、殺人や替え玉派遣、人身売買など、あらゆる犯罪を請け負う集団のようだった。」
「やはり、そうですか・・。それで、過去の仕事の内容とか、依頼者とか判ったことはあったんですか?」
一樹が訊いた。
「いえ、やり取りは、全て暗号化されていたの。今、解析中だけど、おそらくむりでしょうね。」
剣崎と一樹のやり取りを聞きながら、亜美が驚きを隠せない表情で訊いた。
「そんな組織が本当に?」
それを見て、剣崎はうっすらと笑みを浮かべた。
「紀藤さんのお父様は確か、橋川署長だったわね。きっと、真面目なお父様なんでしょうね。」
何か含みのある言い方だった。
その上で、剣崎は続けた。
「海外の国では、政府自らスパイ組織を作っているのは知ってるでしょう?」
「ええ・・それは・・。」
「日本はそうじゃないって言えるの?」
「そんな・・日本は・・」
亜美は答えに窮した。
「日本にだって、スパイ組織はあるわ。警察内部でも、特定の人しか、その実態は知らない。日本を守る組織と言えば、正義のように聞こえるけれど、権力者を守るためなら何でもやるというのが実態よ。」
「そんな・・じゃあ、警察って・・」
亜美は少し悲しそうな顔をしている。
剣崎は小さく笑顔を見せてから言った。
「そういう組織に守られているのは、一部の権力者よ。多くの国民は、私たち警察が守るのよ。」
剣崎の言葉に亜美は少し笑顔を見せる。
「おそらく、MMという組織は、誰かが、私的に作ったものでしょうね。もしかしたら、今の警察組織にもつながりを持っている人物もいるかもしれないわ。」
剣崎は、何だか、目星がついているとでも言いたげだった。
「私たちの行動が、EXCUTIONERに知られていたのは、そういう人物が動いていたのかもしれないわ。」
剣崎が言うと、一樹が反論した。
「いや、そうじゃないでしょう。MMは、今の警察権力の中枢と繋がりがあって、利害関係にあるはずです。EXCUTIONERがあれだけの事件を起こしていても、未だに表沙汰にならない。信楽の爆破事件だって、事故として報道され、たくさん見つかった遺体のことだって、うやむやになっている。報道さえも規制されている。きっと、警察上層部、いや、政府の力が働いているからでしょう。EXCUTIONERは、そういうからくりに気付いて、自ら関係者を処刑しているに違いない。」
「あら?EXCUTIONERは、悪の根源と戦う正義のヒーローみたいな言い方ね。」
剣崎は一樹をたしなめるように言う。
「ヒーローなんてもんじゃない。」
一樹は、自分の気持ちを見抜かれたように感じて少し高潮した表情で言った。「きっと、復讐に違いない。あの残忍な殺し方には、強い恨みが感じられる。それに、ヒーローなら、全てを白日の下に晒すように動くはずだ。それが出来ず、俺たちを使ったんだろう。」
一樹はそう言いながら、自分たちはEXCUTIONERから提供される殺害映像から、今回の事件を調べて、MMへ辿り着いた。いわば、EXCUTIONERの手下の様に動かされたことに憤りすら感じていた。
「なるほど・・それなら、辻褄が合うわね。」
剣崎がそう答えた。そこで、剣崎の携帯が鳴った。

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復讐の結末-1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

暗闇の中、1台の車が止まる。車から男女が降りて来る。
「ここよ。」
女の囁くような声がした。
「いよいよ、仕上げの時だ。後悔はしてないな。」
「もちろんよ。私からすべてを奪った奴らを許す事はできない。必ず、復讐すると決めて今日まで耐えてきたんだから。」
「じゃあ、行こうか。」
車のドアを静かに開け、降りた。
ここは、御殿場山中にある、研究所。5年ほど前までは、政府の研究機関があったが、その後、民間に払い下げられた。
周囲は高い金網と鉄条網が張り巡らされ、侵入を許さない強固な造りだった。
研究所の入り口には、検問所があり、深夜当直勤務の男が座っている。
女性の方が、闇に紛れるようにして、素早く走り、検問所のドアをノックする。
「こんな時間に誰だ?」
当直勤務の男は、拳銃を手にしてゆっくりとドアに近付き、ドアノブに手を掛けた。そして、銃を構えてドアを開ける。
ほんの10センチほど開いた時、当直の男は呻き声も出さずに、その場に蹲った。
女性がドアの僅かな隙間から、ナイフで男の心臓を貫いたのだった。すぐに女性は門を開き、連れの男を中に入れる。
二人は、暗闇に身を隠すようにして、建物に忍び込んだ。
研究所の中は、夜遅くになっていて、人影はほとんどなかった。
女性は、建物の構造を熟知している様子で、迷うことなく、階を上がっていく。男もその後を追う。明かりがついている部屋があった。
「あれが所長室。きっと、あいつはあそこにいる。」
部屋から漏れる明かりに、ようやく女性の顔がはっきりと判った。片淵亜里沙だった。
彼女は、隙間から中の様子を確認すると、躊躇うことなく、所長室に入った。
所長は、窓から外を眺めていた。深夜近い時間、そこには暗闇が広がっているだけだった。音も立てず背後から所長に忍び寄る。
急に、所長が振り返った。手には、サイレンサーの付いた拳銃を持っている。
「ここに来ることは判っていたわ。」
女性の所長、胸の名札には、栗林と書かれている。
所長はそう言うと、片淵亜里沙に向かって一発発射した。小さな衝撃音と薬莢の匂いが立ち込める。片淵亜里沙は、その場に蹲った。
「大丈夫。急所を外しておいたから。でも、早く手当しないといけないわね。」
栗林所長が放った弾丸は、片淵亜里沙の腕を撃ちぬいていた。横に居た男が飛び掛かろうとするが、栗林所長は、銃口を男に向けたため、止む無く、片淵亜里沙に駆け寄った。
「亜里沙!あなたは知らないだろうけど、あなたの体にはマイクロチップが埋め込まれているのよ。この施設に入った時、すぐに分かったわ。そして、私の命を狙うために来たのだろうって。」
亜里沙は栗林所長をキッと睨む。
「あなたたちは、組織への復讐のつもりなんでしょうけど、それは、無駄よ。神戸由紀子を殺した時、そう思わなかった?・・彼女、殺されることを喜んでいたんじゃない?他に人達もそうでしょ。名前も戸籍も、体さえ失って、全くの別人として生きていくなんて、あり得ないもの。」
栗林の言葉を聞き、亜里沙が反論する。
「そんな人間を作ったのは、あなたでしょ!」
「あら、私がこの組織の首謀者だと思ってるの?・・それは違うわ。わたしも、20年前に、拉致され、名前も戸籍も顔さえ奪われた。彼らは私の整形技術が欲しかった。そのために、全てを奪われた。私もあなたも同じ境遇なのよ。」
「そんな・・。」
亜里沙は、栗林の言葉に動揺した。それを見て、栗林は続ける。
「私だって、組織に刃向かいたい気持ちでいっぱいだった。でも、出来なかった。命を絶つことも出来ず、結局、ここで私を同じように女性たちから、全てを奪う仕事をしてきた。・・このままじゃ・・」
栗林は銃口を男に向けたまま、呟いている。
「ねえ、あなたが、EXCUTIONERなんでしょ?」
栗林が、男に訊いた。
「それなら、私にも、復讐の手伝いをさせて。」
その言葉に、ようやく、男が口を開く。
「どういうことですか。」
「あなたたちがここへ来たという事は、組織もすでに承知しているわ。すぐに、始末人がここへ来るはず。このままじゃ、私もあなたたちも、殺されるでしょう。遺体はどこかに隠し、死んだことさえ判らずに終わるはず。・・例え、遺体が出たとしても、身元不明者として処理されるだけ。それなら、組織の秘密を暴こうとしている、あの人達になんとか手掛かりを残したい。」
「手がかり?」
「ええ、そう。あなたが、剣崎刑事に、神戸由紀子や他の人たちの情報を送り付けたように、ここが、組織の中枢を担った研究所だと知らせたい。」
「いや・・無駄でしょう。結局、その情報は握りつぶされるだけ。剣崎刑事たちも、事件の真相には簡単に辿り着けない。いや、辿り着けたとしても、組織をつぶす事などできないでしょう。」
男は全てを判ったうえで、今回の行動に出たのだった。
「あなた、組織の首謀者・・いえ、この組織の全貌を知っているの?」
栗林は驚いた顔で、男を見た。男は哀しい目をして、頷いた。
「抗う事に意味がないほどの組織でした。調べていくうちに、自分の無力さを痛感しました。でも、亜里沙を何としても見つけて、救い出したい。その思いだけでここまで来ました。」
「どうしてそこまで?」と栗林が訊く。
「彼女が拉致されたのは、僕のせいなんです。」
男はそう言うと、片淵亜里沙を見た。
片淵亜里沙は、撃ちぬかれた腕の傷からの出血を押さえながら、男の話を聞いている。

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復讐の結末-2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「彼女とあんな場所で待ち合わせをしたから・・彼女の行方を調べていくうちに、判ったんです。彼女は、間違って拉致されたのだと・・。だから、命に代えても彼女を救い出したい。・・見つけられるかどうか判りませんでした。容姿もすっかり変わってしまっていた。でも、彼女の中に僅かに僕との記憶が残っていた。」
「石堂くん・・。」
片淵亜里沙が初めて男の名を口にした。
男は、これまでの事を思い出し、目に涙を浮かべている。
「水野裕也と神戸由紀子が、あの日、彼女を拉致したことは、すぐに判りました。警視庁のデータベースの中に、当時の捜査記録が残っていました。捜査で二人の名前は上がっているのに、それ以上は進んでいない。それに、この情報はシークレットとされていたんです。警察の上層部が関与しているのは間違いない。公にできない事情がある。それが判ってから、誰にも知られず、亜里沙の行方を追ったんです。」
「よく、亜里沙を見つけたわね・・。」
栗林所長は半ば感心して言った。
「神戸由紀子が、東京にいるのは、すぐに判りました。彼女なら、亜里沙の居場所を知っているかもしれない、そう思ったんです。」
「でも、由紀子は組織の人間。見知らぬ男が近づけば、組織からマークされるでしょう。」
栗林が訊く。
「ええ・・だが、その頃、私はサイバー犯罪対策室に配属され、特殊任務に就くことになったんです。」
「まさか・・。」
栗林所長の顔色が変わった。
「ええ、そうです。僕がシークレット情報にアクセスした事が判明し、組織が取り込もうと動いた。それで、僕は、疑われることなく、組織に入り、特殊任務に就くことができました。すると、組織の内部情報が手に取るように判った。」
「そんな事が・・。」
栗林は驚いていた。
「当時、神戸由紀子は、水野裕也と揉めていたようでした。それで、神戸由紀子に近づき、何度か恐ろしい目に遭わせたんです。その後、彼女のスマホに、水野裕也が命を狙っているとメールを送ったんです。予想通り、由紀子は、すぐに姿を消しました。しかし、行方はすぐに判りました。そう、あなたが言った通り、神戸由紀子にもマイクロチップが埋め込まれている。それを辿れば良いだけです。」
石堂の話を聞きながら、栗林は、その後の一連の殺害事件は容易に出来ただろうと想像した。
「駒ヶ根も、名古屋も、全て手に取るように判りました。しかし、亜里沙には辿り着けない。マイクロチップの信号をキャッチできなかった。」
石堂の言葉に、栗林が答えた。
「そうね・・彼女のマイクロチップは特殊なの。私が仕込んだから。由紀子や裕也のマイクロチップは、発信型。彼女たちは、市中を動き回り、女達を集める仕事。何処にいても居場所を特定できなければならないのよ。でも、亜里沙は別。特殊訓練を受け、特別な任務に就いてもらう必要がある。普通の発信型では不都合だったのよ。」
「それもすぐに判りました。・・だから、神戸由紀子の殺害映像を特殊捜査チームへ送った。剣崎という刑事は、サイコメトリーという特殊能力を使って、事件の全容を掴むはず。亜里沙の居場所も見つけてくれると考えたんです。」
一連の殺害事件は、すべて、石堂が亜里沙に辿り着くために仕組まれたものだった。石堂は、剣崎の特殊能力についても承知していた。警視庁の中でもごくわずかの物しか知らない情報だった。
「特殊捜査チームは優秀でした。信楽の拠点まで、すんなり辿り着き、挙句の果てに、内部の映像まで見せてくれた。そこに亜里沙が居る事が判ったんです。」
「もう良いわ。あなたがいかに優秀かはよく判ったわ。」
栗林は構えていた拳銃を降ろした。そして、少し黙って考えを整理していた。
「このままじゃ、また、亜里沙と同じような境遇の女性が生まれることになる。この組織を壊滅させなければならないわ。」
栗林所長も、自らの境遇を嘆き、組織への復讐を果たしたいという思いを強くしたようだった。信楽の爆発事故以降、締め付けが厳しくなり、この研究所もいずれは廃棄されるに違いない。そうなれば、自分も命を奪われるに違いない。そう思うと、このままでは済ませたくないという思いが沸々と湧いてくるのだった。
「もうすぐ、始末人が来る。いいわね、私を囮にしてここから逃げなさい。」
栗林所長は、小さな声でそう言うと、この後の段取りをメモ書きして石堂に渡す。
すると、石堂が栗林所長に飛び掛かり、一撃で気絶させた。
すぐに、二人は、所長を廊下まで運び、ストレッチャーで、手術室へ運ぶ。
「ここよ。」
ドアを開くと、広い手術室に幾つもの手術台が並んでいる。
「さあ、支度をしましょう。」
片淵亜里沙が言うと、石堂は、手術台の上に所長を横たえた。まだ、気を失っている様子だった。
「衣服は脱がせて。」
その手術台は、一般的なものとは随分構造が違っていた。両手・両足の所には、革製ベルトの拘束具が取り付けられている。
石堂は、所長の着衣を剥ぎ取るようにして脱がせ、全裸にすると、手足を拘束具で縛り上げる。そして手際よく、注射器を右腕に差し、その先にチューブを取り付けた。徐々に真っ赤な血液が流れ始める。
片淵亜里沙は、手術室に遭った備品庫から、止血剤や絆創膏、包帯などを取り出して、自分の傷の手当てをしている。急所は外れているものの、出血は止まらない。少し、意識が薄れていくように感じていた。
石堂は、所長室から運んできたパソコンを開き、カメラを接続し、操作を始めた。
「よし、これでいい。」
それから、何通かのメールを送った。
「これで、彼女たちが、きっとここへ来る。」
石堂と片淵亜里沙は、全てを終えると、研究所を出た。

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復讐の結末-3 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

逃走のため、車へ向かったが、森の中を走る車のライトがちらちらと見えた。
「始末人が来たようね。車は諦めましょう。」
片淵亜里沙は、そう言うと、ザックの中から、小さなライトを取り出すと、その光を頼りに森の中へ入っていく。
「大丈夫なのか?」
亜里沙の後ろを石堂が歩きながら不安げに訊いた。
「この森は、私たちの訓練の場所。ここへ連れて来られて暫くしてから、森の中に置き去りにされる訓練があった。既定の時間までに研究所まで戻れないとひどい目に遭わされた。死んだ子もいたわ。でも、私は、監視の目を抜けて、この森から街へ逃げ出そうとした。すぐに連れ戻されたけど・・さあ、行きましょう。3時間ほど歩けば、町へ着くはずだから。」
片淵亜里沙は、迷いもなく前へ進む。深い森の中を1時間ほど歩くと、前方に街明かりが見えてきた。
「ほら。」
片淵亜里沙は、明かりを指さした。その顔は晴れやかだった。
「ああ、もうすぐだ。」
石堂も、成し遂げたという充実感を感じ始めていた。
「急ぎましょう・・。」
亜里沙は少し気が緩んでいた。目の前に大きな風穴が口を開いている事に気付かなかった。富士山の麓、演習場の周囲には、古い溶岩流の跡が残っていて、大きな窪みや崖を作っている。
「あっ!」
小さく叫んだあと、亜里沙の姿が消えた。
暗闇には慣れて来たものの、突然亜里沙の姿が消え、石堂は慌てた。そして、急いで、二、三歩前に進んだ。結果、石堂も同じ場所から、穴の中へ落ちてしまった。
2メートルほどの深さの穴、その底で二人は重なるように落下した。
「亜里沙・・大丈夫・・か?」
石堂が、ポケットから小さなライトで何とか取り出して照らした。
亜里沙は、体のどこかを強く打ち付けたようで、気を失っていた。石堂自身も、足を強く打ち動けなかった。
「暫く、ここに隠れているしかなさそうだ。」
石堂は、亜里沙の体を引き寄せ、密着する形でその場にとどまった。
ふと、睡魔が襲ってきた。痛みよりも疲れの方が大きい。石堂はそのまま、暫く眠ってしまった。
外が明るくなってきた。見上げると、空が白み始めていた。
もう、研究所に、剣崎たちは来ただろうか。そんな事を考えていると、亜里沙が目を覚ました。
「大丈夫か?」
目を開けた亜里沙に訊く。
「ええ・・少し、痛みはあるけど大丈夫。」
亜里沙はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
大きな怪我は無いようだった。ただ、栗林所長に撃たれた腕の傷は芳しくない。腫れあがって色が変わっていた。このままでは壊死してしまう。
「あと少し行けば、町の入り口に入れる。腕を治療しよう。」
石堂はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
穴は溶岩が通り抜けた跡。前方に少し明かりが見えた。
二人は穴の中を歩き、外にでた。そこから暫く林の中を歩くと、白い建物があった。診療所の看板があった。
周囲に人影はない。玄関に、開院は月と木の週2日だけとあった。今日は何曜日だろうと、スマホを見た。火曜日だった。石堂は、診療所をぐるりと回って、入れるところはないかを探す。裏口の鍵が簡素なものだったので、壊して中に入った。灯りをつけると周囲の住民が異変に気付き、通報される可能性がある。薄暗い中で、腕の治療の薬を探した。
「大丈夫。私が探すわ。」
亜里沙は、暗殺者として育成され、薬の知識も持っていた。
手早く消毒液や化膿止め、痛み止めの薬を探し出した。それから、メスや鉗子、糸と針などを探し出して、自分で治療を始めた。
「これも、あの研究所で叩き込まれたわ。」
悲しそうに、亜里沙は呟くと、手早く治療を終えた。
その間に、石堂は、診療所を物色し、保管されていた僅かな飲料を持ってきた。
「さあ、行きましょう。」
もう陽が昇る。
二人は診療所を出て、街に入る。バスを乗り継いで、駅まで出た。そろそろ通勤者が増えて来る時間帯になってくる。
「高速バスを使おう。」
石堂はそう言うと、バス乗り場へ向かいチケットを買って戻ってきた。
「もうすぐ出発の時間らしい。急ごう。」
石堂は、亜里沙を連れて、バス乗り場に着いた。
「ここでお別れだ。」
石堂が唐突に言った。
「えっ?どういうこと?」
亜里沙が訊く。
「僕は組織の一員になった。それは、あのマイクロチップが埋め込まれたという事なんだ。おそらく、組織はマイクロチップで、居場所の特定をしているだろう。このまま一緒にいると捕まる。君は、目的を果たして、もう自由の身だ。一人なら組織に捕まることはない。」
「そんな・・。」
石堂の話に亜里沙は驚きと悲しみが急に湧き上がってきて、これまで見せた事の無い涙を流す。
「さあ、これをもって。大丈夫。組織は僕を追ってくるはず。」
石堂はそう言うと、チケットを亜里沙に渡し、高速バスに乗せた。亜里沙は拒む態度を見せたが、石堂の言う事は正しい。しかたなく、バスに乗り込んだ。
「これで良いんだ。君は、もう一度生き直すんだ。」
バスのドアが閉まり、動き始めた。石堂は、バスが動き始め、初めの交差点を曲がるまでじっと見送った。

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復讐の結末-4 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「あら、生方からだわ。」
剣崎はそう言うと、スマホをスピーカーモードにした。
「剣崎さん、何処ですか?大変です!次の・・次の殺人が、起きています。」
生方の悲鳴のような声に、三人は顔を見合わせた。
「すぐ、戻るわ。」
剣崎は電話を切ると、一樹や亜美とともに、自分のトレーラーハウスへ戻った。
中に入ると、大きなモニター画面に映像が映し出されていた。
「これは?」
剣崎が生方に訊く。
「先ほど、本庁のサイバー犯罪対策室宛てに怪しいメールが届いたそうで、そこにあるURLへアクセスすると、この映像が流れていたんです。」
剣崎たちは映像を見つめる。
病院の手術室のような場所だった。全裸の女性が、手術台の上に横たわっている。手や足は、拘束具できつく縛り付けられていて身動き取れない様子だった。そして、彼女の右手には、注射針が刺さっていて、チューブから血液が流れ出ているのが判る。その横にある心電図モニターは、鼓動の波形を示していて、生きているのだと判った。
チューブを伝って流れ出る先には、ビーカーが置かれていて、出血量が判るようになっていた。すでに目盛り二つほどの出血が確認できた。
「これは?」
剣崎が生方に訊く。
「見ての通り。失血死へのカウントダウンショーです。ちなみに、これはライブ映像なんです。」
「酷い!」
亜美が目を覆う。
「場所は?」
「今、警視庁のサイバーテロ対策室や特殊情報犯罪対策課で調べています。」
「これはきっと、俺たちへの挑戦状だろう。ライブ配信しているのが何よりの証拠。今までは、殺した様子を収めた映像で、場所のヒントを送っていた。今回もきっと同じさ。」
一樹はそう言うと、映像の隅から隅まで食い入るように見る。
「この女性は誰?」
剣崎が生方に訊く。
「判りません‥警視庁のデータベースにはありませんでした。」
「きっとどこかにヒントがあるはず・・。」
一樹はそう呟きながら映像を食い入るように見つめる。
「MMって、女性の整形手術をしていたんでしょ?きっと、ここはその施設よ。」
亜美が思いついたように言った。
「音声は?」
と一樹が生方に言う。生方は慌てて、スピーカーボリュームを上げた。虫の音が聞こえる。遠くで何か大きく響く音がする。
「工場だ。それにこの虫の音。どこかの山中だろうな。」
皆、じっと映像と音声に集中する。沈黙を破るように、生方が叫ぶ。
「特殊情報犯罪対策課からの連絡です。・・・映像の発信元は、静岡東部、おそらく、御殿場付近ではないかとの事です。本庁からも向かっているようです。」
「私たちも向かいましょう。」
剣崎はそう言って、トレーラーを走らせた。
「レイさんにも手伝って貰わなければ・・。」
剣崎はそう言って、亜美にレイへ連絡するように言った。
途中、新東名の浜松サービスエリアでレイと合流する。
「レイさん、彼女の居場所を突き止めたいの。手伝ってもらえるわね?」
剣崎が訊く。レイは小さく頷いて、映像を見つめた。
「御殿場付近らしいんだけど・・どうかしら?」
剣崎が訊く。レイは映像を見つめながら、小さく頷いた。
トレーラーは、新東名を東へ走る。その間も、ライブ映像は続いている。
御殿場に入ると、レイが目を閉じ、映像の女性の、思念波を捕らえようとした。
レイは、両手を広げ、自分の体を思念波を捕らえるためのアンテナの様にしている。
「北の方角です。」
レイが初めて口を開いた。
運転席のカルロスが、ナビを見る。生方もPCでマップを開き、その先を探る。
「この先には、自衛隊の東富士演習場があります。」
生方の言葉で、トレーラーは新東名を降り、須走から富士五湖道路に乗った。
「止まって下さい。」
レイが言う。トレーラーが止まると、レイが西の方角を指差す。そこは、東富士演習場がある場所だった。
「間違いない?」
剣崎がレイに確認する。
「しかし、接続道路がありません。」
PCでマップを確認していた生方が言う。
「いや、林間の道路がすべて記載されているわけじゃない。おそらく、この道路のどこかに、脇道があるはずだ。」
一樹が言うと、カルロスは、ハイビームにして周囲の様子を探る。
「アントニオ、後ろにいるわよね。チームに連絡を。」
剣崎が言うと、スピーカーからアントニオが「イエス」と答えた。
暫くすると、もう1台トレーラーが現れ、後部から、大型のジープを降ろした。
「さあ、行くわよ。」
剣崎は、一樹、亜美、レイを連れ、ジープに乗り込んだ。
「さあ、出発しましょう。」
カルロスがドライバーとなり、富士五湖道路をゆっくりと進む。少し先に、脇道があった。
「そこです。」
レイの言葉にカルロスはハンドルを切る。100メートルほど、草が生い茂る林道を進むと、急に開けて、舗装道路があった。さらに山へ向かって進んでいく。

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復讐の結末-5 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

前方に建物がある。入口の検問所は、開いたままになっていた。
「ライトを消して!」
剣崎がカルロスに指示する。剣崎は車を降りると、検問所のドアを開ける。そこには警備員の遺体があった。剣崎は、警備員が持っていた銃に触れる。
すると、警備員が襲われた時の残像が見えた。
「いきなり襲われた様ね。犯人の顔すら見ていない。」
レイは、思念波を捉え続けている。
「あの建物・・奥の方です。・・もう、思念波が・・。」
レイはそう言うと、車の中で意識を失いそうになる。
「レイさん、しっかりして!」
レイは、手術台の上に横たわった所長とシンクロしている。早く居場所を特定しないとレイの意識も混濁する。
「行きましょう。紀藤刑事はここに残って、レイさんを守ってあげて。」
剣崎はそう言うと、一樹とカルロスに拳銃を持たせて、建物に向かった。
玄関を入る。
不思議な事に、全てのドアが開錠されている。EXCUTIONERがそうしたのか、不確かなまま奥へ進む。廊下の案内図で、手術室の場所を特定した。
「静かに!」
剣崎は小さく呟くと、身を伏せる。一樹とカルロスも壁際に身を隠す。
奥から音が聞こえる。じっと耳を澄ますと、人が動く音のようだった。
「剣崎さん、レイさんの意識が途切れました。おそらく、女性が・・。」
シンクロしていたレイが意識を失うのは、思念波を出していた女性が亡くなったことを意味していた。
すると、前方から、黒服の男が3人現れた。服装からMMのメンバーだと判る。
剣崎は、一樹とカルロスに目配せをする。二人は頷いて、構えた。
男たちが目の前を通過した時、一気に飛びかかった。男たちは抵抗する間もなく取り押さえられた。
剣崎は、手術室に走る。だが、そこには、喉元を切り裂かれた所長の姿があった。
「ライブ映像は?」
剣崎が生方に無線で訊く。
「駄目です。画面は切れていました。」
「そう・・。」
剣崎は、想定済みな事だと聞き流し、手術室の中を注意深く歩いた。そして、全裸で喉を切り裂かれた所長に近づき、そっと手を当て目を閉じた。
いきなり、脳裏に、殺害の直前の映像が広がった。
眼前にオペライトが見える。これは、所長の目から見える風景だった。ドアが開き、黒服の男達が入ってくる。軽く周囲を伺い、迷うことなくナイフを喉に突き当てた。所長は一言も発することなく、息絶えた。
ふうっと剣崎は息を吐く。
「もう少し何か教えてくれないとね・・。」
剣崎はそう言うと、所長の傍を離れる。足元に、何か光るものが落ちている。
「これは?」と取り上げた時、いきなり、記憶に無い男の顔が見えた。
「これって・・。」
すると、廊下で男たちを押さえていたカルロスが叫ぶ。
「剣崎さん!」
剣崎が急いで戻ると、男達は三人とも、口から泡を吹いて死んでいた。
剣崎は、男たちの様子を調べる。
「青酸カリね。・・おそらく、奥歯にでも仕込んでいたんでしょう。・・捕まった時、秘密が漏れないよう、訓練されていたんだわ。」
剣崎は、黒服の男の額に手を当て、目を閉じる。
今度は、薄暗い部屋の中の風景だった。耳元で声がする。おそらく、男が誰かと電話で話しているようだった。
「すぐに行け!奴らより先に行って、あの女の息の根を止めるんだ。良いな。」
ドスの利いた年配の男の声が聞こえる。
「はい、ボス。」
男は電話を切る。そして、近くにいる男達に合図を送り、薄暗い部屋を出て、車に乗り込んだ。そこで風景は消えた。
「やはり、誰かが指示を出しているようね。」
剣崎は、携帯電話を持っていないか、男たちの衣服のポケットを探る。だが、何も出て来ない。
一樹は、一足先に建物の外に出て、黒服の男達が乗ってきたはずの車を探した。だが、車は見当たらない。
「どういうことだ?」
一樹が呟くと、無線で生方が答えた。
「おそらく、こうなることも想定して、ここへ送り届けた者がいたんでしょう。無事、仕事を終えれば、また迎えに来る予定だったのかも。」
生方の答えは正解だった。
それから、ほどなくして、警視庁から何台ものパトカーと救急車が到着し、現場は騒然となった。
「引き揚げましょう。」
剣崎は、到着した警視庁の刑事たちに大まかに状況を説明し、トレーラーへ戻った。剣崎は、現場からいくつかの物を持ち帰っていた。
「どうするんです?」
生方が訊いた。
「いいから・・あなたは、EXCUTIONERの足取りを追って。」
剣崎はそう言うと、生方がいる部屋との仕切りを閉め、カーテンで目隠しをした。
トレーラーは、山中湖畔にいた。
一樹と亜美は、自分たちのトレーラーに戻り、そこにはレイも居た。
レイは、ようやく目覚めたところだった。
トレーラーのドアが開き、剣崎が姿を見せた。
≪ごめんなさい。大丈夫だった?≫
剣崎はレイの手を握り、思念波で会話する。
≪ええ、もう大丈夫です。女性を助けられなくて残念です。≫
レイも思念波で答えた。そして互いに笑顔を見せた。

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追跡-1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「剣崎さん、いったい、どこまで判っているんですか?」
一樹がいきなり訊いた。
「あの建物はいったい何ですか?そろそろ全て教えてもらってもいいんじゃないですか?」
一樹は不満そうに言った。
「そうね・・。」
剣崎はそう言うと、ソファに座り、一樹、亜美、レイ、それにカルロスを前にゆっくりと話し始めた。
「このチームは、警視総監直属の部署で、特殊犯罪捜査課というのも、公式には存在していていない。警視庁幹部の中でもごく一部の人しか知らない存在なの。そして、このチームには特命がある。」
剣崎の表情が少し険しくなる。
「レイさんの能力や、剣崎さんの能力を使った特別な捜査なんでしょう?」
亜美が言うと、剣崎の表情が少し和らいだ。
「もちろん、そういう特殊能力を活かした捜査というのも特別よ。でも、特命というのはそういうのじゃないわ。」
剣崎の言葉に、一樹が反応する。
「通常の捜査では捕まえられないのが対象の事件。つまり、警察組織の上層部、あるいは、もっと上位の権力者が関与する事件の捜査という事ですよね。」
「そうよ。」
「でも、事件の始まりは、EXCUTIONERの例の映像だったんじゃ・・。」
亜美が訊く。
「実は、あなたたちがチームに入る前から、調べていた事があったの。そう、MMに関する捜査よ。行方不明者を使って闇で殺人などを行う組織の存在は、上層部にも悩みの種だった。それを捜査していたんだけど、これといった情報が掴めない。そんな時、例の映像が見つかった。身元が判らない女性が無残に殺された。私たちはMMとの関連があると睨んで、レイさんの力を借りることにしたわけ。」
「じゃあ、EXCUTIONERの逮捕が目的ではなかったということですか?」
亜美が驚いて訊く。
「いえ、EXCUTIONERも立派な犯罪者よ。必ず逮捕する。そうすれば、MMの全貌も判るはずだった。でも、MMという組織は、それほど甘いものじゃなかった。今回のことで、組織のためなら、顔かたちを変え、命さえも差し出す、それも相当な訓練を積んだ者たちの特殊な集団だと判ったわ。これより先に踏み込むことは、私たち自身の命も狙われるということになる。」
剣崎の言葉に、皆、黙り込んだ。
「そして、組織のトップには、警察上層部の人間がいる。刑事の一人二人が命を落としても、何とでも処理できるということですね。」
一樹が、剣崎に言う。
「レイさんは?」と、亜美が訊く。
「おそらく、レイさんの存在もすでに知られている。この先、命を狙われる可能性があるわ。・・だから、こうして、ここに来てもらったのよ。ここなら、安全でしょ?」
レイは小さく頷いた。
レイは、剣崎と思念波で話をしていて、既に覚悟しているようだった。
「MMという組織を壊滅させない限り、俺たちの命も危ういという事か・・。」
一樹が確認するように言った。
「あの・・生方さんは?彼がそのMMとの内通者ということですか」
と、亜美が訊く。剣崎は首を横に振る。
「彼や、カルロス、アントニオ、顔を合わすことはないけど、あちこちにいるチームメンバーは私自身が選んだ人間。警察内部とは縁はない者ばかり、信用できるわ。・・ただ、このトレーラーや機材は、本庁が手配したものだから・・おそらく、生方のいる部屋やパソコン等は全て、MMの組織とどこかで繋がっているはず。内部からの情報漏えいじゃなく、外部から監視された状態にいるということなのよ。」
剣崎ははじめからそういうカラクリに気付いていたようだった。
「ここは?」
と、亜美が自分たちのトレーラーの事を聞いた。
剣崎は小さく笑顔を見せて言った。
「あなたたちを捜査に加えることになった時、急遽、居場所が必要になったと言って、アメリカの知り合いを通じて手配したの。だから、ここはセーフティーゾーン。矢澤刑事は、わかっていてここへ、私を呼んだのよね?」
一樹は、そこまでは考えていなかった。むしろ、生方が情報を漏らしている人物かもしれないと考えていたのだった。
「まあ、いいわ。ここからは、MMへの反撃開始よ。EXCUTIONERは、これまでMMの存在を私たちに知らせるため、殺害動画をネットにアップしていた。でも、最後のライブ映像は違った。あれは、彼らのMMへの復讐の手段。警察組織とMMとをあの場所へおびき寄せる事で、MMへの制裁ができると考えていたのでしょう。しかし、それほど甘くない。むしろ、彼らは、これからMMに追われる立場になった。私たちと同じ境遇になったわ。」
剣崎はそう言うと、先ほどの現場から持ち帰ったいくつかの品をテーブルに並べ始めた。
「何を始めるんですか?」と亜美が尋ねる。
「MMに反撃するには、能力を使いきらないとね・・。」
剣崎はそう言うと、目の前の品の一つをそっと手にする。そして、目を閉じた。
手にしていたのは、手術台の下に落ちていた「ピアス」だった。
頭の中に映像が広がる。
≪どこかの部屋に入るところからの映像が広がる。目の前には、あの所長の後ろ姿。銃声。少しだけ映像は途切れる。次は、倒れている所長を抱え、男と一緒に運び出している。一瞬だけ、男の顔が見えた。初めて見る顔だった。そのまま、ストレッチャーを押して手術室へ入り、所長を手術台の上に乗せた。≫
そこで、映像は途切れた。おそらく、その時、片淵亜里沙の耳からピアスが抜け落ちたのだろう。
剣崎は、大きく息を吐き、それをテーブルに戻す。

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追跡-2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

次は、手術室にセットされていたパソコンに着いていた「毛髪」だった。そっと摘まみ上げて、目を閉じる。
≪パソコンの画面が見えた。そこに開いていたのは、見慣れた警察のデータベースのようだった。次々に画面が変わる。そこから、メールアドレスを探し出し、入力を始めた。そこに記録されているのは、なじみのあるアドレスだった。それから、カメラをセットして、横たわる所長を映し出した。≫
そこで、映像は途切れた。
「片淵亜里沙と一緒に居たのは、警察関係者のようね。」
剣崎が口を開く。
「まさか・・EXCUTIONERは、警察官というんですか?」
亜美が聞き直した。
「ええ、警察のデータベース、それもかなり上位者の情報にアクセスしているところから、どうやら、本庁の人間でしょう。」
剣崎が答えた。
「顔は判ったんですか?」
今度は、一樹が訊いた。
「ええ、一瞬だけどね。今まで逢ったことはない人物ね。」
「じゃあ、生方さんに調べてもらえばすぐに判るんじゃないんですか?」
亜美が言うと、今度は、一樹が答えた。
「おそらく、無理だろう。こちらのシステムはハッキングされているんだ。もし、生方さんが調べ始めれば、シャットダウンするか、偽の情報を流すに違いない。これまでも、俺たちの先回りをしてきた頭のいい相手だ。そんなに簡単には尻尾を掴ませないだろう。」
剣崎も一樹の答えに同調した。
「じゃあ、どうすれば・・。」
亜美が言うと、レイが口を開く。
「剣崎さん、遺留物のサイコメトリーで見えた映像は、最近のものでしたか?」
「ええ」
と、剣崎はレイの質問に、少し驚いた表情を見せた。
「それなら、剣崎さんと私の力を合わせれば、もっとはっきりしたことが判るかもしれません。」
「シンクロとサイコメトリーを合わせる?」
一樹が言い換えるように訊いた。
「剣崎さんが見る映像から、二人の思念波を捉えるんです。もしかしたら、二人の居場所が判るかもしれません。」
レイが答えると、剣崎はレイの手を握る。
「そうね、やってみましょう。」
レイは、剣崎と手を握り合ったまま、目を閉じ、力を最大限に引き出そうとしている。そして、剣崎が、「ピアス」を手にして、同じように目を閉じた。
先ほどの映像が再び、剣崎の脳裏に広がる。それをレイが受け取った。レイはそこから、片淵亜里沙の思念波をキャッチしようと力を高めていく。
レイの中に、片淵亜里沙の思念波が流れ込んでくる。
真っ暗な海が広がっていた。
そこにぽつりと片淵亜里沙が立っている。哀しい目でじっと何かを待っているようだった。
≪こんな・・思念波って・・≫
レイはこれほど悲しみに満ちた思念波を感じた事はなかった。誘拐されたり、殺されたりする直前の、恐怖に満ちた思念波はこれまで何度も捉えた事はあった。それらはいずれも、何かしらの色を持っていた。だが、片淵亜里沙の思念波には、色がないだけではなく、真っ暗なのだ。何の感情もないかのように、広がる黒い空間の中にぽつりと浮かんでいるような思念波なのである。
目を閉じたまま、レイは涙を流した。そして、剣崎も同じように涙を流す。レイが捉えた片淵亜里沙の思念波が、剣崎にもフィードバックして、伝わっていたのだ。
次に、剣崎がパソコンに付着していた髪の毛を手にする。
いきなり、怒りの思念波がレイに突き刺さった。よろけそうになるレイを剣崎が支える。
≪これは・・間違いなく、復讐を誓った思念波・・恐ろしく強い信念・・≫
剣崎が、髪の毛をテーブルに置く。
レイはまだ、二つの思念波を体の中で感じている。そのまま、トレーラーから外へ出た。目の前には山中湖が広がっている。
一樹と亜美、そして剣崎がレイの後を追って外に出た。
レイは二つの思念波を感じながら、ぐるりと周囲を見ながら、最も強く感じる方角を調べている。
「それほど遠くない・・この方角に思念波を感じます。」
そう言って、レイは南の方角を指さした。すぐに一樹がスマホでマップを見る。
「南の方角か・・御殿場、沼津方面ということになるが・・。それとも、その先の伊豆?」
「行きましょう。」
剣崎が、レイの肩を抱きかかえるようにして、トレーラーへ戻る。一樹と亜美もすぐにトレーラーに戻ると、アントニオがトレーラーを発車させた。
「きっと、MMも彼らを見つけようと必死になっているはずよ。MMの正体を知っている片淵亜里沙は生かしておくわけにはいかないでしょうから。」
剣崎は、窓の外を見ながら呟くように言った。
「私たちも同じなんでしょう?」
と、亜美が言う。
「そうね。ここまで調べた以上、彼らにとっては私たちも似たようなものでしょうね。でも、片淵亜里沙が居なければ、確たる証拠が消え、闇に葬ることは容易いでしょう。とにかく、MMより先に、片淵亜里沙に辿り着かなくちゃ・・。」
御殿場を過ぎ、沼津インターに近付いたところで、レイが口を開いた。
「西へ向かってください。」
アントニオは、新東名を名古屋方面へ向けて走らせる。
「レイさん、少し休んだほうがいいわ。」
亜美が労うように言う。

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追跡-3 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

レイは山中湖を出てからずっと、思念波を捉え続けている。これほど長い時間、能力を使う事はなかったはずで、精神の消耗は著しいに違いなかった。
「でも・・。」
レイは、捉えた片淵亜里沙の思念波を放してしまう事を恐れていた。
「大丈夫よ。・・しばらく休んで。」
剣崎が言うと、レイはその場に一気に崩れ落ちた。
「相当、無理をしたんだな・・。」
一樹がレイを抱き上げ、隣室のベッドに横たえた。
「ここからは、私たちの出番。彼らの行き先を推理するのよ。」
剣崎が一樹と亜美に言う。
「西へ向かっているということは、どういうことかしら?」
剣崎が訊く。
「この先は、静岡、浜松、名古屋・・二人が隠れるとすれば都市だと思います。田舎町では、余所者はすぐにわかる。東へ向かったなら、片淵亜里沙の故郷ということもあるでしょうが、西なら、おそらく名古屋あたりではないでしょうか?」
一樹が言うと、剣崎は小さく頷いた。
「ただ、少し気になることが・・。」
と、一樹が言うと、剣崎が「何かしら?」と訊く。
「二人は、所長を監禁してすぐにその場を去ったはずです。私たちが、あの場所へ到着するまで、3時間以上掛かっている。もし、その場をすぐに去ったのなら、すでに、名古屋を越えていてもおかしくないんです。どこかに立ち寄っていたのか、それとも、途中で行先を変更したのではないかと思うんです。」
「そうね・・おそらく、何か予定外のことが起きたのでしょう。」と、剣崎。
「あの・・」と亜美が口を挟む。
「今、西へ向かっているのは、本当に二人なのでしょうか?」
「どういうこと?」
「片淵亜里沙の思念波を追っているんですよね。・・もう一人の男はどうなんでしょう?一緒ではなく、別々ということはありませんか?」
亜美の疑問に、一樹も剣崎もハッとした。
「あるいは、途中でMMに捕らえられてしまったという事も考えられるわね。男の方は既に殺されているかも・・そして、捕まえた片淵亜里沙だけをMMのメンバーが連れ去っているということも視野に入れておいた方が良いかも。」
剣崎は、そう言うと、レイの様子を気にしている。
「だめですよ!相当疲れているはずです。これ以上負担をかけると、レイさんが壊れてしまう・・。」
亜美が、剣崎の思惑に気付き、必死に止める。
「それより、剣崎さん、遺留品からEXCUTIONERの情報をもう少し引き出せないんですか?警察関係者だという事は判ったんでしょう?」
亜美は、レイへの負担を止めるため、思わぬことを口にしてしまった。
「そうね。」
剣崎は、自省するような表情を浮かべて答える。
「判ったわ。サイコメトリーをもう一度やってみましょう。」
剣崎は姿勢を正して、机の上に置かれた「毛髪」に手を伸ばし、深呼吸をすると、「毛髪」に触れた。
初めは、先ほどと同じ映像だった。
少し時間を巻き戻そうと意識を集中させると、頭の中で映像が逆回転し始めた。その映像を感じながら、「毛髪」の持ち主を特定できる映像を探す。額から玉のような汗が流れている。自分でも想定しなかった能力の遣い方をしている事は承知しているが、予想以上に、頭の中が熱くなっているのが判る。このままでは自分も長くは持たないと感じている。
早く・・剣崎は必死で時間を巻き戻そうとしている。
不意に時間が止まった。
≪警視庁の庁舎内の廊下だった。廊下を歩いているのはEXCUTIONERと思しき人物に違いない。そして、ドアの前に立った。目の前にはセキュリティチェックのボックスがある。光彩と指紋、そして声の3段階認証だった。その男は、慣れた手順でセキュリティを抜け、部屋の中に入る。薄暗い部屋、整然と大型のモニター画面が並んでいる。男は、一つの席に座り、画面を見つめている。ふと、胸元に視線が行く。名札らしきものの映像が見えた。そこで急に真っ暗になった。≫
剣崎は、ソファに座ったまま、意識を失っていた。余りに過酷な能力の遣い方をしたせいだった。
「剣崎さん!」
亜美が肩を叩くが、反応しない。完全に意識を失っているようだった。その上、ひどい熱。脳が異常に活性しているようだった。
「ひどい熱!」
亜美が驚いて叫ぶと、アントニオがすぐに冷凍庫から、氷を取り出し、タオルに捲いて剣崎の頭と首筋に当てる。
しばらくして、剣崎が意識を取り戻した。
「やはり・・予想していたとおり・・だったわ。」
まだ、ぼんやりとしているようだった。
「何が見えたんです?」
一樹が訊く。
「EXCUTIONERは、警視庁・・・サイバー犯罪対策室の人間だったわ。」
「えっ?」
亜美が、剣崎にグラスに入ったアイスティーを手渡しながら反応した。
「最初の映像が届いた時から、何か違和感はあったのよ。」
剣崎はようやく普段の様に話せるまで回復した。
「無数にある闇サイトから、ピンポイントで、異常な映像が発見されたでしょ。まるで、この特別捜査チームが立ち上がるのを待っていたかのように。」
「確かに・・タイミングが良すぎる。」と一樹。
「偶然にしては出来過ぎてるように感じていたの。私たちの捜査状況も完全に把握していた。こんな事が出来るのは、警視庁内部、それも相当に高い技術を持ったところが動いているんじゃないかとは考えていたんだけど。」
「じゃあ、初めから、剣崎さんはEXCUTIONERは警察内部の人間だと考えていたんですか?」
一樹が改めて訊く。
「ええ。だから、あなたたちをこのチームへ入れたの。警視庁とは無縁な現場にいて、レイさんの特殊能力を受け入れているあなたたちが居なければ、犯人に辿り着けないと思ったのよ。」
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追跡-4 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

剣崎が独白しているところに、レイが姿を見せ、そっと剣崎の肩に手を置く。
「剣崎さん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。あなたは?」
「もう大丈夫です。」
二人は互いを労う。そこには二人にしかわからない辛さがある。
「レイさん、片淵亜里沙の思念波の近くに、もう一人の男の思念波は感じた?」
剣崎が訊く。
レイはそっと目を閉じ、自分が捉えていた思念波を思い出そうとした。しかし、はっきりと思い出せない。余りに遠く微弱な思念波だっただけではない。強い思いが徐々に消えていくような、まるで線香花火の最期のような思念波だったからである。
レイは小さく首を横に振り、「判りません」と言った後、「でも、強い恐怖は感じませんでした。」と付け加えた。
「まだ、MMに捕まってはいないという事でしょうか?」
と、一樹が剣崎に訊く。
「おそらく、二人で居るということでしょう。復讐を果たし、少し、安堵した状態なんじゃないかしら。」
「MMは彼らを追っているんでしょうか?」
「おそらく、血眼になって追っているはずよ。片淵亜里沙は組織の深いところまで知っているはず。必ず始末をするはずよ。」
「いったい、どこへ向かっているんでしょう?」と亜美。
「とにかく、西へ少しでも早く彼らの許へ。」
剣崎はアントニオに指示する。
新東名を大型トレーラーが疾走する。
剣崎は、レイの手を握り、互いの力を合わせ、再び片淵亜里沙の思念波を捉えようとしている。
傍で、亜美がそんな二人を心配そうに見つめている。
一樹はひとり、窓から外を眺め、二人のこれからの行動について考えていた。
組織や警察が追っていることは承知しているはずだ。ただ、正体ははっきりとは判らないため、検問があったとしても問題なく突破できるだろう。彼らが一番恐れているのは、やはり、組織に違いない。名古屋には、組織の拠点があった。そこに近付くことはリスクが大きい。かといって、片田舎ではおそらく目立つだろう。一体どこへ向かうつもりなのか。
「片淵亜里沙の縁者はいないのだろうか?」
ふと、口をついて言葉が出た。
亜美が、片淵亜里沙の資料を開く。だが、これといった有力な情報はない。
「どこかに、何かヒントになるものがあるはずなんだが・・。」
「サイバー犯罪対策室の方がどうかしら?」
亜美はそう言うと、生方に連絡した。生方は、次第を十分に把握していないまま、サイバー犯罪対策室の捜査員情報にアクセスした。だが、そのとたん、全てのシステムが一斉にダウンした。
「これはいったい・・どういうことだ?」
生方は、目の前で起こったことを理解できないでいた。
しかたなく、自分の個人パソコンを使って、警視庁のサーバーをハッキングし、サイバー犯罪対策室へ侵入した。
「済みません。サイバー犯罪対策室へアクセスしたとたん、システムがダウンし、リカバリーできません。詳細は判りませんが、なんとか、勤務実態だけは入手しました。すると、ここ数日、休暇を取っている者が見つかったので、今、情報を送ります。」
生方から亜美のスマホに連絡が入った。そしてすぐにメールが届いた。
剣崎はメールを開く。
「石堂昭という職員が休暇を取っているわね。おそらく、彼がEXCUTIONERなのでしょうね。顔写真も何とか入手したみたい。」
剣崎はスマホの画面を、一樹や亜美に見せた。
「この男、どこかで・・。」
一樹が記憶を辿るが、はっきりとは思い出せなかった。
続いて、生方から経歴も送られてきた。
「片淵亜里沙と石堂昭は、同じ高校の同級生のようね。」
「じゃあ、同級生を救出するために、これだけの事件を?」
剣崎の言葉に、亜美が驚いて訊いた。
「あ!そうか、こいつは。」
亜美の言葉をかき消すように、一樹が叫ぶ。
「駒ヶ根の映像を見たい。おそらく、こいつは、あの黄色い髪の男だ。」
今まで誰もが、黄色い髪の男は水野裕也だと思っていた。だが、石堂昭なら、全ての辻褄があう。
「黄色い髪の男の首筋には、おかしな入れ墨があったわ。水野裕也じゃないの?」
亜美が一樹に確認するように言った。
「いや、そうじゃない。」
自分たちのトレーラーにおいていたPCに保存しておいた映像を一樹が探す。
「ほら、そうだ。」
一樹が示したのは、首筋の入れ墨の近くにあるほくろだった。
「入れ墨も気になったが、このほくろ。奇妙に三つ、綺麗に並んでいた。初めは、入れ墨の一部かと思ったんだが、さっきの写真にも・・。」
一樹はそう言うと、剣崎のスマホに送られてきた顔写真を探し出して、並べた。
「ほら、全く同じ位置にほくろがあるだろ。」
これで、一連の事件に石堂が関与している事は確実だった。
「入れ墨はおそらく組織の一員である証。それが、石堂にもあるという事は、彼は、片淵亜里沙を探すために組織に潜入したという事になるけど・・。」
剣崎は一樹に確認する。
「きっと、彼は彼女を救出しなければならない理由があったんでしょう。」
それを聞いて、一樹は手帳を取り出した。
「確か・・ああ・・これだ。片淵亜里沙の捜索記録にあったんですが・・彼女が拉致された時、男子生徒と待ち合わせをしていたようなんです。その男子生徒は・・木島昭という名前でした。」
「石堂昭じゃなく、木島昭?」と亜美。
「石堂昭は、母方の苗字です。おそらく、自分が彼女と待ち合わせの約束をしたことで彼女が拉致されたと思っているようね。それで償いのために彼女の救出を考えた・・それと、組織への復讐。」

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追跡-5 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

片淵亜里沙を高速バスに乗せて見送った後、石堂は、まだ駅前にいた。
周囲を注意深く観察する。確実に、組織の人間が近づいているはずだった。マイクロチップの信号はキャッチされて、自分の居場所は特定されているに違いない。出来るだけ、亜里沙から遠ざからなければならない。かといって、身を隠せるような場所などない。組織はおそらく気づかれない様な場所で自分を抹殺するに違いない。そう考えると、出来るだけ、人目に付きやすい場所にいた方が良い。剣崎たちの動きも気になっていた。研究所からきっと自分たちを追ってきているに違いない。何処へ行けば良いのか、石堂は思案していた。
目に入ってきたのは、駅前交番だった。
「すみません。」
石堂はそう言うと、交番に入る。そして、ポケットから警察バッジを取り出した。
居合わせた警官は、石堂の階級を確認すると、その場に直立し敬礼をする。
「昨夜、御殿場の殺人事件で捜査をしています。ご協力をお願いします。」
石堂はそう言うと、交番の奥の部屋に入り、「捜査情報の漏えいになりかねない」と言って、交番にいた二人の警官に立ち入らないよう釘を刺した。
石堂はようやく一息ついた。ここならば、暫くの間は、組織の人間も安易に手出ししないだろう。だが、長居はできない。
石堂は背負っていたリュックの中から、モバイルパソコンを取り出した。そして、暫くの間、組織の様子を探ることにした。近くに始末人がいるなら、マイクロチップの信号をキャッチするはずだった。周囲5kmの範囲では、信号はキャッチできない。それから、石堂は、警視庁の自分のパソコンにアクセスし、起動した。そして、その中のバックドアに隠しておいた組織の情報をダウンロードし、小さなUSBメモリーへコピーした。
それから、石堂は、警視庁の自分のパソコンから、剣崎が使っているトレーラーに搭載されたコンピューターシステムのシャットダウンプログラムを解除した。
同時刻に、剣崎の許に生方から連絡が入った。
「剣崎さん、システムが突然回復しました!」
剣崎はそれを聞いて、石堂が動き始めた事を直感した。
生方が、警視庁のシステムへ入ろうとした時、突然画面に、URLが浮かんだ。
「何だ?」
生方はすぐに、剣崎にその事を知らせた。
「それを私のスマホに転送して!」
送られてきたURLへ接続する。そこには、男の姿があった。
「初めまして・・というべきでしょうか?」
画面の男が口を開く。
「石堂さんね。」
「そこまで判っているんですね。じゃあ、EXCUTIONERの意味もご理解いただいているんでしょうね。」
石堂は、大人しい口調で剣崎に訊いた。
「ええ。MMという組織のことも随分わかってきたわ。」
「さすが、やはり、私が見込んだとおりの、優秀な方ですね。」
剣崎は、スマホの画面を、一樹たちのトレーラーの大型モニターへリンクした。
「もう、復讐は終わったんでしょう。自首しなさい。」
「ええ、最初はそのつもりでした。しかし、無理なようです。」
「無理?」
「はい。おそらく、私はもうすぐ消されるでしょう。体に仕込まれたマイクロチップの信号で、この場所もすでに組織は特定しているはずです。」
生方は、システムを使って、石堂の居場所を特定した。そして、大型モニターの下にテロップで表示した。
大型画面に示された場所をアントニオも見ていた。そして、すぐにトレーラーを動かし始めた。
「あとどれくらい時間があるの?」
剣崎が訊く。
「さあ、まだ、始末人の姿はありませんが、1時間はないでしょう。もう、良いんです。私の目的は達成された。殺されることは初めから覚悟していました。ただ、亜里沙だけには、新しい人生を手に入れさせたい。だから、お願いがあります。」
そう言うと、石堂は、先ほどの小さなUSBメモリーを画面に映した。同時に、画面は真っ暗になった。
会話は終わった。
「石堂は何をお願いしたんでしょう?」
画面を食い入るように見ていた一樹が、剣崎に訊いた。
「判らない。ただ、あのUSBメモリーが鍵なのは間違いないわ。」
新東名を西に向かって走っていたが、一旦インターチェンジを出て、反転した。目指すのは、三島駅だった。
「石堂は、三島駅前の交番に居ました。おそらく、そこなら安全だと考えたんでしょう。そのまま、居てくれればいいんですが・・。」
生方が、無線越しに言う。
「あとどれくらい掛かる?」
剣崎が、アントニオに訊く。
「あと30分。」
沼津インターチェンジを出て、一気に目的の場所へ向かう。
「剣崎さん、ここから先は止めた方が良いね。」
アントニオが悔しそうな声で言った。三島駅前は、道が狭く大型トレーラーが入るのは難しい。一樹がトレーラーを降り、必死に交番へ走った。
一樹は、交番に着くと、警官バッジを見せながら、居合わせた警官に訊く。
「ここに、男が来ていないか?」
警官は顔を見合わせ、少し不思議そうな顔を浮かべている。
「どうした?」
「いえ・・つい先ほど、同じように石堂警視を追ってきた刑事が来られて・・なんだか、再現シーンのようだったので・・。」
「石堂を追って刑事が?」
「ええ、石堂警視は偽者だと。事件の重要参考人だと言ってました。」
「それで?」
「いや、我々も気づかなかったんですが、裏口から出て行ったようで、姿を見ていないんです。・・あの、石堂警視は偽者だったんでしょうか?」
「いや、本物だ。おそらく、追って来た刑事も本物だ。俺も。」
何だか、よく判らない答え方をして、一樹はその場に座り込んでしまった。
暫くして、亜美と剣崎も交番にやって来た。

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追跡-6 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「やはり、ここにはいませんでした。」
一樹は、剣崎の姿を見るとすぐにそう答えた。
剣崎は「そう」とだけ答えて、交番の中に入る。そして、先ほどまで石堂がいた奥の部屋へ入った。
「この部屋で何をされていたのかは知りません。重要な事件の捜査で情報漏えいをしない為、中を覗かないように、言われていましたので・・。」
警官が、言葉を言い終わらないうちに、剣崎が、「黙って、外に出ていて。」と言って、警官を睨みつけた。
一樹と亜美が、奥の部屋のドアを閉める。
剣崎は、注意深く部屋の中を見回し、石堂が座っていた辺りに手を置いた。そして、ゆっくりと目を閉じる。
≪石堂が座ってパソコン画面を見ている。手元には小さなUSBメモリー。一度それを取り上げ、カメラに映し出して、パソコンを閉じた。それからゆっくりと立ち上がり、姿が消えた。≫
剣崎たちが、トレーラーのモニターで見た場面だった。
剣崎は目を開ける。交番の奥の部屋には書棚が置かれている。法律関係の本や、事件判例集などが整理されて並んでいた。
剣崎は、それらの本に手を当てる。何冊か本を触っているうちに、突然、石堂の顔が浮かんだ。
剣崎は書棚から、古い辞書を取り出す。堅い函に入れられた辞書。剣崎はそっと辞書を引き出す。厚みのある辞書は、中央部分が少し内側に湾曲した形になっていて、函と本の間には空洞がある。剣崎が函を逆さまにすると、小さなUSBメモリーが転がり落ちた。
「これを見せて、頼みがあると言ってたわね。」
剣崎が摘まみ上げようとして、突然、強い衝撃が走った。
≪これって・・石堂の念なの?・・なんて強い。≫
そう感じた時、剣崎の頭の中に、駅前の映像が飛び込んできた。
≪長距離バスの停留所。目の前には片淵亜里沙が居て、涙を流している。石堂が視線を上げたのか、急に、映像は空の風景になった。そして、また、視線を片淵亜里沙に戻し、手を取って、何かメモを渡した。≫
石堂が片淵亜里沙を別の場所へ行かせようとしている光景だった。ふと、剣崎は頭に浮かんだ映像を巻き戻すように思い浮かべた。
≪視線が上に向く瞬間、バスのボディに映し出されていた行先を示す電光掲示板が見える。東名高速バス、名古屋行きと読めた。≫
片淵亜里沙は、名古屋へ向かったと判った。
「もう良いわ。出ましょう。」
剣崎は、そう言うと、一樹と亜美と一緒に交番を出た。
「石堂はどこへ行ったんでしょう?」
トレーラーに戻りながら、一樹が剣崎に訊く。
「おそらく、東。片淵亜里沙から少しでも遠ざかることが今の彼の目的。そうして、組織の人間を亜里沙から遠ざけたいと思っているはず。」
剣崎が答える。
「でも、彼自身、命を狙われているんでしょう?」
と、亜美が言う。
「覚悟の上でしょうね。少しでも時間を稼ぎたいはず。」
「石堂を追っている組織の人間は、確か、石堂のマイクロチップの信号を追っているんでしたね。」
「ええ・・そのようね。」
一樹は剣崎の答えを聞いて、歩きながら何かを考えているようだった。トレーラーが見えてくるころに、急に、一樹が立ち止まる。
「マイクロチップの信号がどれほどの性能かは判らないが、もし、始末人が、信号だけを追いかけているのだとすれば、人が少ないところに逃げればすぐに見つかる。雑踏の中の方が判りにくい。あるいは、高いビルの中とか、地下外のような電波が届きにくい所を選んで、動き回れば、そう簡単には見つからない。」
一樹はそう言うと、くるりと向きを変える。駅前は雑踏である。それに、駅前のデパートは高層、そして、その下には地下街もある。
「人通りが多ければ、その場で殺すなんてできないはず。無用に追いまわせば、騒ぎにもなる。そういう場所をきっと動き回っているはずだ。」
一樹はそう言うと、今来た道に戻っていく。
「なるほど・・そういう考え方もあるわね。・・紀藤刑事、一緒に行きなさい。」
剣崎はそう指示して、一人、トレーラーに戻って行った。
トレーラーには、レイが残っていた。
「亜美さんたちは?」
と、戻ってきた剣崎にレイが訊く。
「石堂は雑踏に紛れていると考えて探しに行ったわ。」
そう聞いて、レイは、窓越しに街を眺めている。
「私たちにもできることはある。一刻も早く、石堂を見つけ確保しなければ・・レイさん、協力してくれる?」
剣崎の言葉にレイは頷く。
剣崎は、交番で発見した小さなUSBメモリーを取り出し、テーブルに置いた。
「これは、石堂が残したもの。さっき強い衝撃を感じたの。おそらく、ここから彼の思念波を捉えられるはず。」
剣崎はそう言うと、右手でレイの手を握り、左手でUSBメモリーに触れた。ドンという衝撃に近い思念波を、剣崎もレイも感じた。憎しみやくやしさ、悲しみ、苦しさ、様々な感情が絡み合い、それはまるで大きな蟻塚のようだった。どこの穴からも、どす黒い感情が噴き出そうとしていて、触れる事すら許さない。片淵亜里沙の思念波は、ただ真っ暗な海の中を彷徨うような、小さな灯りのようなものだったが、石堂の思念波はもはや醜い生き物のように思えた。
二人は、観念という広い空間にいて、真ん中にある蟻塚のような思念波の塊を見ている。
≪これは何?≫
剣崎が、心の中でレイに訊く。
≪おそらく、あの真ん中には大事な想い出の塊があるはず。でも、それを悔しさや悲しさ、後悔などの感情が覆いつくし、もはや、コントロールできないほどになっているんです。≫
剣崎とレイの共通の観念の世界。レイは、ゆっくりとその塊に近付いていく。その様子は、まるで、迷子になった子どもを救いにいく天使の様に見えた。レイが近づくと、徐々にその塊が解れていく。外側を覆う醜い塊が剥がれ落ちて、徐々に光を発するようになった。
≪これが、彼本来の思念波なのね。≫

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追跡-7 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

レイはそっと、石堂の思念波に触れる。温かい。同時に、剣崎の意識の中で、石堂が見ている風景が広がった。
人並みの中を歩いている。周囲を警戒しながら、リュックサックを胸に強く抱き、近づいてくる人の顔を注意深く見ながら、進んでいる。
どうやら、デパートの中のようだった。
「デパートの中。近くにおもちゃ売り場がある。」
剣崎は、サイコメトリーしながら言葉を発する。それを聞いていたアントニオが、一樹のスマホに連絡した。
一樹と亜美はデパートの入り口辺りに居た。剣崎からの連絡を受けて、デパートの中へ飛び込んだ。おもちゃ売り場は3階だった。エスカレーターを乗り継ぎ、3階へ着く。一樹と亜美は、それぞれ別の通路を進みながら、石堂を探した。だが、石堂の姿は見えない。
「この中にいるのは確かなんだが・・。」
一樹は、急ぎ足で通路を進みながら、石堂を追う。
「空が・・空が見える。」
剣崎はサイコメトリーを続けている。
「空?・・屋上か?」
一樹は亜美に、上に行くという合図を送って、エスカレーターに乗る。
屋上には、休憩スペースとちょっとした軽食の屋台があった。デパートの中に比べて、人数は少ない。視界を遮るものも少なく、一目で周囲の様子を把握できた。
だが、そこには石堂の姿はない。だが、デパートには不似合いな黒服の男が数人立っている。
「あいつら、MMのメンバーか?」
一樹は、休憩スペースの壁際に隠れるようにして、男たちの様子を見る。そこに少し遅れて、亜美が姿を見せた。一樹が合図を送ると、亜美は、何食わぬ顔で、軽食の屋台の方へ歩いていき、店員に何か話しかけた。買い物客を装っている。亜美は、そこでドリンクを二つ買って、ゆっくりと一樹のところへやって来た。
亜美は、そっとそれを手渡しながら、笑顔を浮かべて
「あの男たちは、きっと始末人ね。イヤホンをして、何か会話をしている様子だった。それに、手に何か小さなモニターも持っていたわ。」
まるで、恋人同士で来て、楽しい会話をしているような表情を浮かべて言った。
「そうか。」
一樹も、精いっぱいの笑顔を作って、ドリンクを受け取りながら答えた。二人は男たちの動きが見える場所を探し、ベンチに座った。
「まだ、石堂を見つけていないようだな。」
「そのようね。」
様子を見ていると、剣崎からまた連絡が来た。
「石堂はデパートを出たわ。・・ここからは、レイさんの出番。」
アントニオが、剣崎のスマホをスピーカーモードに切り替え、一樹と亜美のイヤホンとつなげた。
レイはまだ、観念の世界に居て、石堂の思念波に寄り添っている。時間とともに、石堂の思念波を取り巻いていた黒い塊はすっかりととれていて、小さな光となっている。レイはそっと、その光に触れる。
≪随分疲れているのね≫
レイは思念波と会話をしている。
≪今、あなたを救うためにあなたを探しているの≫
その言葉に呼応するように、光が少しオレンジ色に変わる。
≪どこに向かっているの?≫
光は少し色を変えた。何か危険を察知したのだろう。光は徐々に点滅をし始める。
「彼が危ない。」
レイが叫ぶ。
それと同時に、屋上にいた黒服の男達も、石堂がデパートを出た事に気付いたのか、急いでエレベーターに向かった。一樹と亜美も、彼らに気付かれないように席を立ち、後を追った。
≪何処?何処にいるの?≫
レイは繰り返し光に語りかける。急に、風景が広がった。流れる街並みが見える。
「タクシーに乗ったようね。」
レイを通じて、思念波を感じていた剣崎も同じ風景を見ていた。スマホは繋がっている。一樹と亜美もその言葉を聞いて、デパートを出た。駅前にはタクシー乗り場がある。おそらくそこからタクシーに乗ったのだろう。
後を追いかけるとしても、どこへ向かえば良いのか。先ほどの黒服の男達の姿はない。どこか近くにいるはずだと確信し、二人は駅前の車の動きを注視した。
黒塗りの大型のワゴン車が急発進した。
「あれだ!」
一樹と亜美は、止まっていたタクシーに乗り込み、黒いワゴン車を追うように運転手に言った。同じころ、トレーラーも動き始めた。
≪何処に向かっているの?≫
レイは、思念波の光に語りかける。光が徐々に悲しみの青い色を発し始めた。
駅前通りを南へ抜け、国道一号線に出ると、黒いワゴン車は東へ向かった。その先は、箱根路である。
狭い街並みを抜け、山道に差し掛かると、黒いワゴンは一気に速度を上げた。
「お客さん、あの車を追いかけるのは無理だ。」
タクシー運転手がぼやく。
山中城跡あたりで、一樹と亜美はタクシーで追跡するのを諦めた。すぐに、トレーラーが追いついた。
「乗ってください!」
運転席から、アントニオが叫ぶ。
二人が乗り込むと、アントニオが「ちゃんとつかまっていてくださいね。」と笑顔を見せてウインクした。エンジン音がこれまでになく大きく響く。
巨体のトレーラーが、箱根の山道を登るのはかなり厳しいはずだった。だが、ぐんぐんと加速している。
「メイドインUSA!日本の車とは性能が違うよ!」
前を行く黒いワゴン車の姿が見えた。そして、その先にタクシーも見えた。始末人は確実に、石堂の位置を捉えている。
「レイさん!もう良いわ。ありがとう。」
剣崎がそう言って、レイの肩に手を置いた。レイはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

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追跡-8 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

石堂の乗ったタクシーは、箱根峠ランプで左折して、芦ノ湖へ向かった。黒いワゴンとトレーラーも続く。
石堂は、湖畔に着くとすぐにタクシーを降りて、ボート乗り場へ向かった。タクシーの中から連絡していたのか、石堂はモーターボートに飛び乗り、さらに逃げようとする。
「大丈夫!手配してあるよ。」
アントニオが、カルロスに言って、モーターボートを手配していた。
一樹、剣崎、カルロスがモーターボートで後を追う。始末人もほぼ同時にモーターボートで後を追った。
「彼を何としても助けるのよ!」
剣崎は、そう言うと、拳銃を取り出し、一樹に1丁渡した。ボートを操縦しているカルロスはすでに銃を構えていた。
前を走る石堂のボートを、2隻のボートが追う。始末人も、剣崎たちのことに気づいたようだった。
ダーン!始末人のボートから銃声が響く。前を行く石堂のボートに向かって撃っている。揺れ動く標的に、そう簡単に当たることはなさそうだった。
「彼らは、相当、焦っているようね。」
剣崎は、隣を走るボートの様子を見ながら呟く。
「とりあえず、やつらを何とかしなくちゃ。」
と、剣崎が言うと、カルロスがニヤリと笑った。
「一樹、ボートは操縦できる?」
カルロスが訊いた。一樹は橋川に居た時、小型船舶免許を取っていた。
「ああ、大丈夫だ。」
「じゃあ、よろしく。」
カルロスはそう言うと、一樹に操縦を任せた。
どこから持ってきていたのか、黒いケースを取り出して開く。中には、見た事もないような大型のライフル銃が入っていた。銃口が大きい。そこから発射される弾丸の衝撃は尋常ではないのは明らかだった。
「カルロスは、元傭兵。まあ、みてなさい。」
剣崎が言うと、カルロスは銃を構える。
揺れるボートの上からの射撃。簡単にはいかないはずだった。
「そのまま、速度を保って。」
剣崎が少し厳しい口調で一樹に言う。
「大丈夫!」
カルロスは、すっと照準を合わせると、引き金を引いた。
ドーンという衝撃音と同時に、横を走る始末人たちのボートのエンジンから、火柱が上がった。
「戦争か!」
一樹は余りの事にそれ以上の言葉が出なかった。
始末人たちのボートは動けなくなった。それを確認すると、石堂のボートを追った。ちょっと目を離したすきに、石堂のボートを見失ってしまった。
「大丈夫。どこかの岸につけたはず。」
ボートに遭った双眼鏡で剣崎が石堂の行方を捜す。対岸に白いボートのようなものが見えた。
「あそこよ。」
一樹はボートを対岸に進めた。剣崎の言った通り、石堂の乗っていたボートが桟橋に留めてあった。
「逃げられたか!」
一樹は悔しそうにハンドルを叩く。
「いや、きっと、始末人は彼らだけじゃないはず。こうなることを予測して待ち構えているにちがいない。すぐに追うわよ。」
ボートを岸に着けて、陸へ上がる。
「レイさんは?」
剣崎がスマホで亜美に連絡する。
「少し横になっています。かなり疲れているみたい。これ以上は・・」
亜美には、剣崎が連絡してきた理由がわかっていた。
「剣崎さん!これを。」
一樹が、石堂が乗っていたボートの中を指さした。始末人たちが放った銃弾が当たったのか、操縦席の辺りに点々と血痕が落ちていた。
「致命傷ではなさそうだけど・・。」
剣崎は、操縦席の周囲を見ながら、ハンドルに手を置いた。その瞬間、石堂のイメージが脳裏に広がる。
≪操縦席に座り、片手でハンドルを握りながら、もう一方の手でスマホを握って、地図アプリを見ている。芦ノ湖周辺の地図ではない。そして、次の瞬間、銃声が響いて手からスマホを落としてしまった。≫
「どこかにスマホが落ちている。探して!」
剣崎が言うと、カルロスと一樹が操縦席の回りを探し、スマホを見つけた。電源を入れるが、ロックが掛かっている。
「貸して!」
剣崎はスマホを手にして、目を閉じる。サイコメトリーで、ロック番号を見つけて開いた。
スマホ画面には、地図アプリが開いてあった。そこには、東名高速を移動する赤い点がある。
「これは・・・片淵亜里沙ね。」
剣崎がすぐに気付いた。おそらく彼女が無事に目的地に着くかどうか、確認するために、石堂が彼女の荷物回復化にGPSを取り付けていたに違いなかった。
「まだ、移動中のようね。」
剣崎は、トレーラーのアントニオを通じて、チームに、後を追わせることにした。
「石堂を追いましょう!」
剣崎たちは、カルロスを先頭に、湖畔の林の中に入っていく。途中、いくつかの地点で石堂のものらしき血痕を確認した。林を抜けると、芦ノ湖スカイラインの道路に出た。道路には、血痕が数か所あった。
「剣崎さん、これは?」
道路に、警察バッジが落ちている。石堂が意図的に落としたに違いなかった。
剣崎は受け取り、サイコメトリーする。
「ここで、始末人に拉致されたようね。」

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追跡-9 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「どこへ向かったんでしょう?もう殺されたんでしょうか?」
一樹が剣崎に訊く。
「片淵亜里沙の居場所を聞き出すまでは、石堂を殺したりはしないはずよ。」
剣崎の手には、石堂のスマホが握られていた。この先、石堂を追うには、レイの力が必要だった。
剣崎たちが芦ノ湖スカイラインに出た事を知ったアントニオは、急いでトレーラーを動かして、迎えに向かった。芦ノ湖スカイラインの料金所を過ぎた辺りで、黒い車が向かってくるのが見えた。
「彼の思念波を感じる・・近付いてくる。」
横たわっていたレイが起き上がり、亜美に告げる。
「アントニオ!」
アントニオも、レイの言葉を聞いていた。
「あいつか?」
向かってくる、黒い大型のワンボックス車。運転席すら顔が判らない様な細工がしてある。見るからに怪しげだった。
「亜美!そこにGPSがある。奴らの車に!投げつければ磁石でくっつく!」
アントニオが亜美に言う。亜美は、指示された通り、小さなGPS発信機を取り出し、窓を開ける。アントニオが徐々に速度を落とす。横を通り過ぎた時、亜美が車の天井に向けて投げつけた。
「ナイス!」
アントニオが、上機嫌で言った。
「さあ、剣崎さんたちを迎えに行こう。」
芦ノ湖スカイラインを中ほどまで行くと、剣崎と一樹、カルロスが歩いていた。すぐに拾い、Uターンすると、黒いワンボックス車を追った。
運転席のナビには、取り付けたGPSの信号がしっかりとキャッチされていた。
「どこに行くつもりかしら?」
亜美が呟く。
「三島駅からここまで、やつらは石堂と片淵亜里沙が一緒にいると考えていたはず。しかし、石堂一人だと判り、三島駅まで戻るつもりだろう。まあ、彼にすれば、そうやって時間が稼げれば、目的は達成できる。」
そこへ、レイが起き上がって、皆の前に現れた。随分疲れた表情を浮かべ、時折、壁にもたれかからないと立っていられないという様子にも見えた。
「彼の思念波・・随分・弱々しくなっています・・。」
レイは横になっている最中も、彼の思念波を追い続けていたのだった。
「レイさん!」
亜美が駆け寄り、レイの体を支えるようにしてソファに座らせる。
「剣崎さん、手を。」
レイはそう言うと、手を伸ばした。剣崎もそっと手を伸ばし、繋いだ。レイが剣崎にシンクロする。剣崎の脳裏に、石堂の思念波が感じられた。剣崎はレイの体にサイコメトリーすると、石堂の思念波を通じて、彼が見ている風景が広がった。
≪港・・松原も見える。男は三人。・・随分、苦しそう・・。洋服のあちこちに血痕が付いている。・・随分殴られた様子だわ・・≫
「南へ向かってるようだ。・・その先は西伊豆だが・・」
ナビに示されたGPSの動きを追いながら、一樹が呟く。
亜美は、ネットを頼りに、彼らが向かっている先に何か怪しげな施設がないか、調べている。
≪本当に、そこにいるんだな・・車中の声が聞こえ、石堂が小さく頷いた・・石堂の心臓の鼓動が少し弱くなってきている・・意識が・・≫
「駄目だわ。もう、意識を失った。これ以上、思念波を捉えるのは無理。レイさん、もう良いわ。」
レイは既に意識を失っていた。
剣崎は、ゆっくりとレイの体をソファに横たえると、カルロスにベッドまで運ぶように指示した。
「石堂は、彼らに亜里沙の居場所を話したみたい・・。」
剣崎が、サイコメトリーの様子から、想像して言った。
「でも・・見当違いですよ。」
一樹が答える。
「おそらく、時間を稼ぐため・・でも、きっと、何か思惑があるはず。」
剣崎が言う。
修善寺温泉街を抜けると、左折して、東へ向かう。
「この先に、少し前に閉鎖された温泉旅館があります。」
亜美がネットで探しあてて、言った。
「そこに私たちを連れて行こうとしているのかしら?」
亜美はそう言って、パソコンの画面を剣崎に見せた。
「ここからは、このトレーラーでは目立つわね。」
剣崎はそう言うと、どこかに連絡をしている。すぐに、後方から数台のバイクがやって来た。
「矢澤刑事、バイクは?」
「一応・・免許は持ってます。」
「そう。」
剣崎はそう言うと、バイクに乗ってきた男からキーを受け取り、一樹に放り投げた。剣崎もヘルメットをかぶっている。剣崎は、黒い大型バイクにまたがると、一気に飛び出して行った。一樹も後を追う。その後をカルロスも続いた。
タンクには、ナビがついていて、黒いワンボックスのGPS信号を追っている。
山間のワインディングロードを3台のバイクが進む。舗装路から林へ入る。轍が残っていて、その先をワンボックスが走っているのが判る。
深い谷の奥に目指す温泉旅館がある。
急に剣崎がバイクを止めた。
前方の林の間から、研究所の建物が見えた。大きな門の前に黒いワンボックスが止まっている。息を殺して見ていると、車から石堂が引き出されてきた。もう歩くのもままならないほどに衰弱しているのが判る。取り巻く男たちも、石堂が白状した場所に、片淵亜里沙が居ない事を既に分かっているようだった。
「ここでこいつを始末する。」
始末人の一人が口を開く。
「ここなら遺体も見つからないだろう。」
そう言って、別の男が拳銃を取り出す。
「このまま、ここに放置すれば良いさ。虫の息だ。そう長くはないだろう。その方が、万一、発見されても、行き倒れか、自殺の類だと判断されるだろう。」
そう言うと、男たちは、石堂をそこへ座らせ、さっさと引き上げて行った。
剣崎たちは、身を潜めてワンボックス車が通り過ぎるのを待った。

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追跡-10 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「あいつらは?」
一樹は、始末人たちを捕らえなくてよいのかと剣崎に確認する。
「大丈夫よ。出口にトレーラーがいるでしょ。それより、彼を。」
カルロスが、石堂を背負い、器用にバイクを操って出口へ戻る。
遠くから、何発もの銃声が聞こえた。
出口に戻ると、男たちが乗っていた黒のワンボックス車は、多数の銃弾を浴び、無残な姿に変わっていた。運転席には男が一人、死んでいた。
「ご苦労様。」
剣崎がバイクを降り、部下の男達に声をかけると、部下の男たちは、捕らえた始末人の男達二人を引き出してきた。
以前のような轍を踏まないため、捕まえた男達には、猿輪がはめられていた。
石堂はすぐにトレーラーに運ばれ、応急処置がされた。
「近くの病院へ!」
トレーラーは、来た道を再び三島方面へ戻って行った。その後に、バイクの集団が続いた。
三島まで戻ると、石堂は医療センターへ運ばれて、処置されることになった。出血と暴行で、全身の損傷は予想以上だった。手術室に入ったものの、すぐに担当医が出てきて、剣崎に告げる。
「難しい状態です。一命を取り留めても意識が回復するかどうか・・脳の損傷も見られます。全力を尽くしますが・・。」
医師はそう言って再び手術室に入った。
その間に、警視庁から護送車が到着し、捕らえた始末人たちは、そのまま、本庁へ護送されていった。
「彼らの取り調べは?」
一樹が剣崎に訊く。
「本庁に任せましょう。拉致、監禁、殺人未遂の罪に問う事になるでしょうが・・組織のことはおそらく掴めないでしょう。」
これまでも捜査でも、MMという組織は全く出されていない。それぞれが、別々の事件として扱われているに過ぎなかった。
「このまま、諦めるんですか?」
亜美が剣崎に問う。
「上層部が関与しているのは間違いない事案よ。証拠を集め、犯人に辿り着いたとしても正攻法では、もみ消されるだけ。別の方法を考えなくちゃね。」
剣崎はそう言うと、僅かに微笑んで見せた。
石堂の手術はまだまだ時間が掛かると判り、一旦、トレーラーに戻ることにした。
「さあ、あとは、片淵亜里沙の行方ね・・。」
剣崎は、医療センターの駐車場に止めたトレーラーに戻ると、アントニオに食事を作らせた。久しぶりの食事の様な気がした。
テーブルを囲みながら、剣崎、一樹、亜美、レイ、そしてカルロスが一緒に食事をとった。
「石堂がどこかへ逃げるように伝えているはずですよね。」
亜美が剣崎に訊く。
「何か、ヒントになるものは・・。」
一樹がコーヒーを口に運びながら呟く。
「彼女の思念波は西へ向かっていました。高速バスのようでしたから、名古屋あたりだと思うのですが・・。」
レイが言う。
「しかし、名古屋にはMMの連中がいるだろう?安西医師のところにはかなりの女性が送り込まれていた。そんな所に戻るだろうか?」
一樹が言う。
「もっと安全な場所・・そう、石堂が駅前の交番で一時身を潜めていたような・・組織が簡単に手を出せない様な場所に向かったはず。」
剣崎がジンジャーエールを口にして言う。
「そんな場所があるんでしょうか?」
亜美が言う。
「当てがあるから、彼は亜里沙を高速バスに乗せたはず・・。」
剣崎が言う。
食事を終えた頃、医療センターから連絡が入った。
「最善を尽くしましたが、先ほど、亡くなりました。」
その連絡を受けて、剣崎はすぐに医療センターへ行くことにした。
薄暗い霊安室に石堂の遺体が横たわっていた。
剣崎は、遺体に近付き、白い布が掛けてある頭部辺りに手を置いた。
「どうするつもりですか?」
傍に居た一樹が驚いて訊いた。剣崎は、一樹の質問には答えず、すっと目を閉じて、彼の体をサイコメトリーし始めた。遺体は、剣崎も初めてだった。
≪ぼんやりとした風景が脳裏に広がりはじめた。だが、徐々に明瞭となり、それは石堂と片淵亜里沙が別れたバスターミナルだと判る。とぎれとぎれに映像が続く。石堂が何かを言ったが、はっきりとは聞き取れなかった。その言葉に一瞬、片淵亜里沙の表情が強張った。次に、石堂が小さな紙片を片淵亜里沙に渡した。それを見て、片淵亜里沙は、不思議そうな表情を浮かべた。だが、何か納得したように片淵亜里沙がバスに乗り込んでいく。≫
そこで映像は消えた。
「別れ際の映像だったわ。」
剣崎が遺体から手を離して、口を開く。
「おそらく、片淵亜里沙の表情から、石堂が示した行き先は予想もしていないような場所みたい。そして、紙片を渡したところからすると、そこを彼女は知らない。行先か、連絡先を彼女に書いて渡したようね。」
剣崎の言葉を聞いて、一樹が言う。
「片淵亜里沙も知らない場所?・・となると、石堂に縁のある場所か・・だが、名古屋周辺には、そんなところはなかったはずだが・・・」
一樹はそう言うと、恨めしそうに石堂の遺体を見る。
「もう少し、何かヒントになるようなものは?」
一樹が剣崎に訊く。剣崎は首を横に振った。
「あとは本庁に任せましょう。」
剣崎はそう言うと、霊安室から出た。
外には本庁の刑事たちが待っていた。石堂は、一連の事件の主犯とされ、被疑者死亡のまま、事件は処理されるにちがいない。MMという組織のことは、おそらく明らかにはされないだろう。

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エピローグ1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

片淵亜里沙の行先は判らぬまま、トレーラーに戻り、しばらくは皆、ぼんやりとしていた。アントニオがコーヒーを運んできた。
それに口をつけた亜美が呟いた。
「MMはどうなるんでしょう?」
剣崎は亜美の言葉に微笑んだ。
「何か策があるんですか?」
亜美が重ねて訊く。
「まだ、言えないわ。でも大丈夫。石堂から託されたUSBメモリーには、MMの犯罪が全て記録されていた。彼の遺志はちゃんと引き継ぐつもりよ。」
剣崎は、そう答えて、コーヒーを飲んだ。
「これで一旦このチームは解散するわ。あなたたちを橋川市まで送っていくわ。アントニオ、さあ、車を・・。」
剣崎はそういうと、助手席に移った。
皆を乗せたトレーラーは、新東名を西へ向かう。
後ろの席で、一樹と亜美、レイは、ぼんやりと外を眺めている。
橋川署に着くと、紀藤署長が出迎えのために玄関で待っていた。
「二人は役に立ちましたか?」
紀藤署長は、剣崎に訊ねた。
「ええ、充分に活躍してくれました。ありがとうございました。それと、レイさんには無理なお願いをしました。でも、彼女の力で多くの事を明らかにすることができました。経過報告は追ってお送りいたします。」
剣崎はそう言うと、トレーラーに乗り込み、東京へ戻って行った。
「レイさん、家まで送ります。」
亜美がレイを自宅まで送ることにした。自宅では、母ルイが待っていた。
「お疲れ様。大丈夫?」
ルイは、娘レイを労わるように言った。
「ええ、大丈夫よ。」
亜美はレイを送るとすぐに橋川署へ戻った。
レイはルイとともに家の中へ入った。
リビングのソファには、女性がひとり座っていた。レイは、それが誰なのかすぐに判った。
「あなたは・・亜里沙さん・・ですね。」
女性は小さく頷く。
「無事だったんですね。・・・でも、どうして、ここに?」
レイが訊くと、キッチンから飲み物を運んできたルイが言う。
「まあ、座りなさい。ゆっくり、亜里沙さんの話を聞きましょう・・。」
母ルイは、笑顔を浮かべて言った。
亜里沙は、ここに来た経緯を順を追って話した。
「組織に追われて、石堂君は、一緒にいると見つかるからと、三島で別れる事になりました。私は、彼と一緒なら殺されても構わないと言ったんですが、彼は聞き入れませんでした。彼が、組織に関わることになったのは私を救出するため。死んでしまえばやって来たことが水の泡になる。私一人でも生きて欲しいと・・。」
亜里沙は、その時のことを思い出し、目に涙を浮かべている。
「石堂さんが亡くなったことは?」
と、レイが訊くと、亜里沙は小さく頷いた。
「彼は、別れ際に一枚のメモをくれたんです。ここへ行けばきっと大丈夫だと‥そこには、ここの住所と電話番号が書かれていました。」
「石堂さんがここを?」
「ええ、彼は、随分前に、レイさんの存在、いえ、シンクロの能力の事を知ったようです。特殊犯罪対策チームに招請されることも予想していたんです。」
「だから、あの神戸由紀子さんのビデオを・・。」
「そうです。レイさんなら、自分がやろうとしている事をきっと理解してくれるだろうと言ってました。」
レイは、最初の神戸由紀子が殺害される映像を見て、彼女の思念波を捉え、殺害場所を特定したのだが、その時、映像にはもう一つの思念波があることに気付いていた。そして、その思念波は、単なる狂気に満ちたものではなく、強い信念を発していた。その思念波が犯人であるEXCUTINERのものだと判っていたが、敢えて口にしなかった。それは、その思念波から感じた強い信念が理由ではなく、その向こうにかすかに感じた光、誰かを守ろうとする思いを感じていたからだった。
一緒にいた剣崎たちも、被害者となった神戸由紀子の思念波を追う事を求めていたし、それは、事件解決のためというより、剣崎自身の中に、EXCUTIONERである石堂への何か、期待のようなものを感じていたからだとレイは考えていた。
石堂はそこまで考えて、今回の一連の復讐劇をやったのかは、今となっては確かめようがないが、ここに亜里沙が来た事を思うと、彼には事件の結末が見えていたのだろうと感じていた。
傍に居た母ルイは、柔らかな笑顔で亜里沙を見ている。かつて自らも、犯罪に利用された経験があり、ようやく、平穏な暮らしを手に入れていた。亜里沙の身の上をすべて理解しているわけではないが、彼女が自分たちを頼りにしてくれている事には応えるべきだと考えていた。
「亜里沙さん、あなたさえ良ければ、いつまでもここに居て良いわよ。部屋は空いてるし、レイも病院の仕事で人手が欲しいと言っていたんだから・・ここに居て、レイを手伝ってくれれば良いわよ。ねえ、レイ。」
母ルイは、何時になく明るい声でそう言った。
「そうね・・ここなら、大丈夫よ。それに、剣崎さんがきっと組織を潰してくれるはず。気が済むまでここに居てください。」
レイも同意した。
「よろしくお願いします。」
亜里沙は深々と頭を下げた。
「ただ・・そのままの名前では、きっと一樹さんたちも困るでしょうね。」
レイがそう言うと、亜里沙が1枚の紙を見せた。
「これを石堂君が、私の荷物に入れていました。」
広げてみると、それは戸籍謄本だった。
「わたしは、拉致された後、死亡認定され戸籍は抹消されています。いわば、この世に存在しない人間。それでは、この先、生きていくのは大変だと考え、石堂君が、新たな戸籍を作ってくれたんだと思います。」
その謄本には、「石堂りさ」という名前が記載されていた。
「そう・・。」
レイは、自分の人生を全て投げ出し、亜里沙を救い出し新たな命を与えた石堂という人物に、一度、逢いたかったと強く感じていた。

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エピローグ2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

MMという組織に関しては、あれ以降、特に目立った動きはなく、もちろん、世の中に知られる事もなく時が過ぎていた。
一樹と亜美は、剣崎たちと別れ、橋川署に戻ったものの、何か納得できない幕引きに少し苛立ちを感じていた。
チームが解散して、ひと月ほどが経った頃、突然、剣崎が橋川署に顔を見せた。
事件の際に使っていた大型のトレーラーは健在で、署の駐車場には入れず、近くの競技場の駐車場に停められていた。
「こんにちは。」
剣崎は、チームの頃とは違い、何か柔らかい感じがした。
「剣崎さん!」
亜美が署で出迎え、すぐに、署長室へ案内した。レイにも連絡し、すぐに署へやってきた。亜里沙も同行した。
「警視庁は辞めました。これから、アメリカへ戻ります。」
剣崎は、笑顔を見せて言った。
「ああ、確かFBIにいらしたんですね。そこへ戻られるんですか?」
紀藤署長が訊いた。
「いえ、これからは、探偵業に就くことにしました。大きな組織には必ず闇が生まれます。自浄できる組織は少ない。その陰で、苦しむ人が居る。そういう人たちを救う仕事がしたいんです。」
剣崎は明るく答えたあと、レイの隣にいる女性をしげしげと見つめた。
「ああ・・彼女は、レイさんのところで働いている、石堂りささんです。」
剣崎の様子に気付いた亜美が紹介した。
「そう・・初めまして・・りささん。」
剣崎が手を伸ばし、りさと握手した。その瞬間、剣崎はりさのサイコメトリーをした。そして同時に、レイにも手を伸ばした。
剣崎は、レイを通じて、自分の思いをりさに伝えようとしたのだった。
≪良かった。生きていたのね。もう心配いらない。MMは、必ず壊滅するわ。≫
剣崎の思いは、りさに伝わった。
りさは、思わず顔を伏せる。涙が零れていた。
「あの・・紀藤署長、一つお願いがあるんです。」
剣崎は、紀藤に切り出した。
「あの、大きなトレーラー、こちらで預かってもらえないかしら。・・ああ、そうそう、矢澤刑事の住処にしてもらっても構わないけど・・処分するにはもったいなくて・・。」
剣崎はちょっとふざけた口調で言った。
「いやいや、あんなの、どうしようもないだろう。だいたい、運転できる者がいないし・・」と、一樹が反論する。
「あら、そう。なら、アントニオもつけるわ。・・そうか・・それなら、こうしましょう。私の探偵事務所の日本支社ということにしましょう。アントニオはその職員。事件の時は、矢澤刑事や紀藤刑事が自由に使って貰って構わないわ。どう?」
「良いでしょう。」
剣崎の言葉に紀藤署長が笑って答えた。
「良いんですか?」
今度は、一樹がおどろいて、紀藤署長に訊く。
「まあ、田舎の小さな警察署ですから、あまり、本庁からも注目される事もない。ここは、大きな工場地帯もあって、トレーラーを置く場所などどこでも確保できます。せっかくなので、十分活用させていただきますよ。」
「じゃあ、商談成立ということで。」
剣崎はそう言うと席を立つ。空港までは、一樹と亜美が送ることになった。
「剣崎さん、初めてですよね、ワンピース姿は・・。」
車の中で亜美が言った。
「あら、気づいてくれた?私の周りには鈍感な男が多くてね。」
「まあ、それじゃ、私と同じですね。」
そういう亜美も、今日は非番で長い丈のスカートを履いているのだが、一樹はその事に一切気づいていなかった。

剣崎が、アメリカに立って1週間ほどが過ぎた頃の事。
「ねえ、一樹、大変よ!」
いつものように、署の1階の暗い部屋のソファで横になっていた一樹の許に、亜美が駆け込んできた。手には新聞を持っている。
「ほら、見て!」
新聞の一面に、「MMシンジケート、正体判明」の文字が踊っている。
一樹は、飛び起きて、亜美から新聞を取り上げて、記事を読む。
「おい、テレビ、テレビをつけてくれ!」
部屋にある小さなテレビのスイッチを入れる。ニュース番組では、大きなビルへ大勢の捜査員たちが入っていく姿が映し出されている。
「さきほど、現職国会議員宅にも捜査員が入りました!」
テレビレポーターが叫ぶように言う。
「事の発端は、インターネット上に掲載された『石堂レポート』でした。この間、未解決になっている事件とMMシンジケートの関連が、大量の証拠書類とともにネットに公表されたものでした。投稿者は判明していませんが、アメリカのFBIに関連した人物ということで、レポートの信ぴょう性が高いと世界各国で反響があり、ようやく、警察当局も捜査を始めたのです。」
テレビキャスターが概要を説明している。
「これって・・。」と、亜美が一樹に確認するように訊いた。
「ああ、剣崎さんだ。そのために、警察を退職してアメリカに戻ったんだろう。海外からネットに発信すれば、日本の当局も手が出せない。ここまで細かい証拠資料があるんだ。もう逃れようはないだろう。」
その日から、半年間は、連日のように、MMシンジケートに関する逮捕や捜査経過のニュースが続いた。MMシンジケートの拠点は全国に広がっていて、各地で摘発されていった。殺人教唆などの罪で、現職の国会議員だけではなく、警視庁の幹部や政府機関の要人、財閥にも捜査の手が及んだ。そして、その年の総選挙では、野党が圧勝し、政権が交代した。
ルイは紀藤署長とともに、リビングで寛いでいた。
「これで、日本は少しはまともな国になるのかしら?」
テレビ報道を見ながら、ふと、ルイが呟く。
紀藤署長はウイスキーを口にしながら答える。
「そうなってほしいものだが・・・。」 

END

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シンクロ―デジタルクライシス―終了の御礼 [苦楽賢人のつぶやき]

ここまでお読みくださりまことにありがとうございます。
5月23日に掲載を始めて3ヶ月。始めた頃はまだどんな結末になるのか決まっていませんでした。ただ、償いのため人生を掛けようとする若者と、人生を奪われた女性。そして、レイのシンクロに、新たに剣崎の
サイコメトリー能力。その設定だけで書きはじめました。途中、何度か行き詰って、中断しようと思いましたが、その度に、登場人物たちが勝手に動き始める感覚を感じて描き切ることができました。
次はどんなものにしようかまだ全く浮かんでいません。明るいものを書きたいと思いつつ、根が暗いせいか、どうしてもワクワクするようなものが浮かんできません。
少し時間をいただきます。(それほど期待されている方は居ないと思いますが)
ありがとうございました。
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