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追跡-10 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「あいつらは?」
一樹は、始末人たちを捕らえなくてよいのかと剣崎に確認する。
「大丈夫よ。出口にトレーラーがいるでしょ。それより、彼を。」
カルロスが、石堂を背負い、器用にバイクを操って出口へ戻る。
遠くから、何発もの銃声が聞こえた。
出口に戻ると、男たちが乗っていた黒のワンボックス車は、多数の銃弾を浴び、無残な姿に変わっていた。運転席には男が一人、死んでいた。
「ご苦労様。」
剣崎がバイクを降り、部下の男達に声をかけると、部下の男たちは、捕らえた始末人の男達二人を引き出してきた。
以前のような轍を踏まないため、捕まえた男達には、猿輪がはめられていた。
石堂はすぐにトレーラーに運ばれ、応急処置がされた。
「近くの病院へ!」
トレーラーは、来た道を再び三島方面へ戻って行った。その後に、バイクの集団が続いた。
三島まで戻ると、石堂は医療センターへ運ばれて、処置されることになった。出血と暴行で、全身の損傷は予想以上だった。手術室に入ったものの、すぐに担当医が出てきて、剣崎に告げる。
「難しい状態です。一命を取り留めても意識が回復するかどうか・・脳の損傷も見られます。全力を尽くしますが・・。」
医師はそう言って再び手術室に入った。
その間に、警視庁から護送車が到着し、捕らえた始末人たちは、そのまま、本庁へ護送されていった。
「彼らの取り調べは?」
一樹が剣崎に訊く。
「本庁に任せましょう。拉致、監禁、殺人未遂の罪に問う事になるでしょうが・・組織のことはおそらく掴めないでしょう。」
これまでも捜査でも、MMという組織は全く出されていない。それぞれが、別々の事件として扱われているに過ぎなかった。
「このまま、諦めるんですか?」
亜美が剣崎に問う。
「上層部が関与しているのは間違いない事案よ。証拠を集め、犯人に辿り着いたとしても正攻法では、もみ消されるだけ。別の方法を考えなくちゃね。」
剣崎はそう言うと、僅かに微笑んで見せた。
石堂の手術はまだまだ時間が掛かると判り、一旦、トレーラーに戻ることにした。
「さあ、あとは、片淵亜里沙の行方ね・・。」
剣崎は、医療センターの駐車場に止めたトレーラーに戻ると、アントニオに食事を作らせた。久しぶりの食事の様な気がした。
テーブルを囲みながら、剣崎、一樹、亜美、レイ、そしてカルロスが一緒に食事をとった。
「石堂がどこかへ逃げるように伝えているはずですよね。」
亜美が剣崎に訊く。
「何か、ヒントになるものは・・。」
一樹がコーヒーを口に運びながら呟く。
「彼女の思念波は西へ向かっていました。高速バスのようでしたから、名古屋あたりだと思うのですが・・。」
レイが言う。
「しかし、名古屋にはMMの連中がいるだろう?安西医師のところにはかなりの女性が送り込まれていた。そんな所に戻るだろうか?」
一樹が言う。
「もっと安全な場所・・そう、石堂が駅前の交番で一時身を潜めていたような・・組織が簡単に手を出せない様な場所に向かったはず。」
剣崎がジンジャーエールを口にして言う。
「そんな場所があるんでしょうか?」
亜美が言う。
「当てがあるから、彼は亜里沙を高速バスに乗せたはず・・。」
剣崎が言う。
食事を終えた頃、医療センターから連絡が入った。
「最善を尽くしましたが、先ほど、亡くなりました。」
その連絡を受けて、剣崎はすぐに医療センターへ行くことにした。
薄暗い霊安室に石堂の遺体が横たわっていた。
剣崎は、遺体に近付き、白い布が掛けてある頭部辺りに手を置いた。
「どうするつもりですか?」
傍に居た一樹が驚いて訊いた。剣崎は、一樹の質問には答えず、すっと目を閉じて、彼の体をサイコメトリーし始めた。遺体は、剣崎も初めてだった。
≪ぼんやりとした風景が脳裏に広がりはじめた。だが、徐々に明瞭となり、それは石堂と片淵亜里沙が別れたバスターミナルだと判る。とぎれとぎれに映像が続く。石堂が何かを言ったが、はっきりとは聞き取れなかった。その言葉に一瞬、片淵亜里沙の表情が強張った。次に、石堂が小さな紙片を片淵亜里沙に渡した。それを見て、片淵亜里沙は、不思議そうな表情を浮かべた。だが、何か納得したように片淵亜里沙がバスに乗り込んでいく。≫
そこで映像は消えた。
「別れ際の映像だったわ。」
剣崎が遺体から手を離して、口を開く。
「おそらく、片淵亜里沙の表情から、石堂が示した行き先は予想もしていないような場所みたい。そして、紙片を渡したところからすると、そこを彼女は知らない。行先か、連絡先を彼女に書いて渡したようね。」
剣崎の言葉を聞いて、一樹が言う。
「片淵亜里沙も知らない場所?・・となると、石堂に縁のある場所か・・だが、名古屋周辺には、そんなところはなかったはずだが・・・」
一樹はそう言うと、恨めしそうに石堂の遺体を見る。
「もう少し、何かヒントになるようなものは?」
一樹が剣崎に訊く。剣崎は首を横に振った。
「あとは本庁に任せましょう。」
剣崎はそう言うと、霊安室から出た。
外には本庁の刑事たちが待っていた。石堂は、一連の事件の主犯とされ、被疑者死亡のまま、事件は処理されるにちがいない。MMという組織のことは、おそらく明らかにはされないだろう。

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