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2-15 怪しい館 [アスカケ(空白の世紀)第6部 望郷]

「全て、凋将軍が仕組んだことなのかもしれませんね。」
と難波比古が言う。
「凋将軍はいかなる人物ですか?」とカケルが杜伯に訊く。
杜伯は父を刺された憎しみを何とか抑えて、答えた。
「魏国の将軍で・・敗走の際、一族の守り役として父が召し抱え、ヤマトへ向かうにあたり信頼しておりました。確か、エンという男も凋将軍が長門国で見つけた男でした。」
「凋将軍を捕えましょう。」
難波比古が言うと、葦原の中に潜んでいた近衛方の船が集まってきた。
「気付かれぬよう、分かれて東へ向かう。良いな!」
難波比古の号令で船が進む。
「カナメ殿が戻ってくる。私はここに留まります。私たちが着くまでは手出しはせぬようお願いします。」
カケルは、難波比古にそう言って岸に残った。
難波比古は多数の近衛方を引き連れて、凋将軍を追った。
しばらくすると、カナメが岸へ戻ってきた。
「郷にはそれらしき動きはありませんでした。ただ、郷の者が言うには、高瀬から東に見える森の辺りで、近頃、賑わいがあるというのです。夜になると大きな松明の明かりが見えるとも・・ただ、何者がいるのかは判らないと言っていました。」
カナメはカケルのもとに戻ると、そう報告した。
カケルは葦の原で起きたことをカナメに伝え、すぐに船で後を追った。
凋将軍が乗った船は、葦の腹の小さな水路を進み、東の岸に近づく。そこには、小柄な男が待っていた。
「遅かったですね。」
小男が、華国の言葉で言いながら、船を岸に着ける。
「ああ、ちょっと手間取った。太守はやはり我らを疑っていた。」
「そろそろ頃合いかと思っておりました。まあ、良いでしょう。さあ、次の手に進める時でしょう。」
小男はずる賢そうな表情を浮かべてそう言うと、凋将軍とともに、森の中へ入っていった。
少し離れた場所から、難波比古と近衛方の男たちが森へ近づいていく。
森の中の小道を抜けると、館があった。大きな木戸を持った門がゆっくり開くと、小男と将軍は入っていった。
「ヤマトの男が現れ、草香の宿祢なる者はいないと言い出す始末でひやりとしたぞ。」
凋将軍は館の広間に入り、床にドカッと座るとそう言って、設えられていた酒を飲んだ。
「ほう・・草香の宿祢はいないか・・それで、その男は難波津の役人かなにかか?」
玉座に座った男が訊いた。
「いや、難波津の者ではなかった。都から来たと・・。」
「都から?それで、名は?」
「たしか、カケルとか申したな。」
凋将軍の言葉を聞き、玉座にいた男が立ち上がった。
「カケル・・と申したか?」
「ああ、そうだ。だが、みすぼらしい衣服で、都からというのは信じがたい。華国の言葉を使ったところを見ると、都から追放でもされたのではないか。」
凋将軍は、ふたたび酒を口に運んだ。玉座の男は、急に震えだした。
「どうしたのだ?」と、小男が玉座の男に訊いた。
「カケル・・まさか・・いや、だが・・・」
玉座の男は小男の問いかけには答えず、独り言を繰り返し、広間をせわしなく歩き回った。
「伴をしていたものは?」と、玉座の男は凋将軍に訊いた。
「数人の伴はいたが、皆、同じような格好で年端もゆかぬものもいた。その中の一人を人質として捕らえたが・・あいつも生かしておくこともなかろう。」
「その男の名は?」
「ソラヒコといったかな。顔に大きな傷を持っていたようだが。」
「顔に傷のあるソラヒコ?・・ならば、そいつは近衛方の者、草香の江を守る草香衆の統領に違いない。ということは、やはり、カケルという者は、先の摂政カケル様ではないか・・。」
玉座の男はがたがたと震えだした。

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