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2-12 宮殿にて [アスカケ(空白の世紀)第6部 望郷]

「あの者たちは?」とトハクが訊く。
「ソラヒコ様の仲間たちです。ソラヒコ様は、難波津の近衛方の裏方として、難波津周辺を詳しく調べる役をしているのです。」
「御存知だったんですか?」
「ええ、彼らは元は念ず者と呼ばれていた方々、私とともにこの難波津のために尽くしてきたのです。今は、難波のヒカル宮のもとで、近衛役をしているのです。」
カケルは、ソラヒコの正体を知っていた。
「では、ソラヒコ様は・・・」
「ええ、おそらく今頃は、近衛方があの館に行き、抜け出しているはずです。この度の一件、宮殿に行き、策を考えましょう。」
岸辺に立ち、カケルは、カナメとトハクに話した。
トハクはそれを聞いて、何か考えているようだった。
そのうちに、小舟がやってきて、三人は宮殿に向かった。

宮殿に戻ると、すでに、ヒカルと難波比古が広間にいた。他にも、難波津や難波宮の重鎮たちも顔をそろえていた。
「ご無事でしたか、父上。」
ヒカルが出迎えた。
「すまない、心配をかけた。」
カケルはそう言うと、椅子に座り、草香の江での一部始終を話した。
「彼らは五年ほど前からあの地に住みついております。あの辺りは湿地であまり良いところではありません。かつて、かの地を開墾し町を作ろうと考え、差配役のための館も設けておりましたが、大水の度に田はダメになり、やむなく放棄したところなのです。」
難波比古の言う通り、暮らすには厳しい所だという事はよく判った。そして、太守の館は、差配役のために設けられた館だった。
「われらも、かの地に住む者へ幾度か住み替えを伝えておりますが、応じる気配はなく、それどころか、次第に人数も増えてきたのです。」
難波比古が続けた。
「魏国、章安の太守だと名乗っておりました。魏国は今どうなっているのでしょう?」とカケル。
「華国は、戦乱が続いており、今は、晋という国が広く治めているという事です。先般も晋の国王の使者が私のもとにも参りました。」
ヒカルが言う。
「韓国からも戦火から逃れてきた方々が多くおられたが、皆、難波津で暮らしておられる。彼らなぜそうしないのでしょう?」
カケルが難波比古に訊いた。
「判りません。幾度も使者は送っておりますが、我らの話を聞くことはありません。ただ、彼らは、船ではなく陸路でこの地へ来たようで、山背の国を山中から入ってきたと推察します。」
「陸路を通ってこの地まで・・。」とカケルが言うと、
「おそらく、丹波、摂津から河内を経てきたのでしょう。山筋を通れば、郷も少なく目につかなかったのでしょう。」
難波比古が答えた。
「九重や長門から何か知らせはありませんか?」
とカケルがヒカルに訊く。
「九重や長門、出雲辺りにも、華国から逃れてきた者の船が多数到着しているようです。皆、ヤマト国を頼ってこられた方々で、無事に暮らしていると聞いております。」
と、ヒカルが答えた。
「草香の宿祢と名乗る人物に心当たりはありませんか?」
と、カケルが皆に訊く。
「ヤマトの者であれば、おそらく河内国の者と思いますが、その様な不埒なものがいるとは考えられません。河内国の国主は、イコマのミコト様のお考えを大切にしております。仮に、その様な者がいるのであれば、早急に成敗せねばなりません。」
難波比古が少し憤りを表しながら答えた。
「陸路というのが気になります。魏国の者だけで、長門国から陸路で難波津を目指すことは容易いことではありません。誰かが手引きしたはずです。その者が、草香の宿祢と繋がっている、あるいは、その者なのかもしれません。」
「あの、宜しいでしょうか?」
と、杜伯が口を開いた。
「この者は、堀江の庄のヤス様が通訳としてつけてくれた杜伯と申すものです。あの郷の者だったようです。」とカケルが紹介し、杜伯に話すように促した。

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