SSブログ

2-7 治療院 [アスカケ(空白の世紀)第6部 望郷]

一方、治療院へ向かったアスカとアヤ、ユキヒコたちは盛大な出迎えを受けた。アスカは、ナツと久しぶりの再会を果たし、薬事所に併設して治療院を作り、さらに、諸国から子女を受け入れ薬草や治療の勉学ができる館も作っていた。一通り、中の様子を見て回った後、学問所の広間で歓待された。学問所には、アスカから教えを請いたいと多数の子女が集まっていた。
「数日はここに留まります。私のお話しは、また、ゆっくりいたしましょう。実はお伺いしたいことがあるのです。」
アスカは、集まった皆に言った。
「草香の江の周辺に、海を越えてやってきた者が住み着いているとのこと。彼らのことを教えていただきたいのです。」
アスカの問いに、皆、難しい顔をした。ナツが切り出した。
「遠く、華国から来た者と聞いております。ここにも時折、病や怪我で運ばれるものがおります。・・確か、昨日も幼子が来たはずです。・・どなたが手当てされたのでしょう。」
ナツはそう言うと皆を見渡す。すると、一人の女官が進み出た。
「私でございます。」
「おお、これは、シオリ様。いかがでしたか?」とナツ。
シオリはアスカの前に傅き、顔を上げて言った。
「恐れながら申し上げます。運ばれてきた幼子は、年は五つと聞きましたが、体ははるかに小さく、手足などは皮ばかりとなっておりました。おそらく、食が満足にできていなかったのでしょう。連れてきた母御も同様。すぐに、治療院で治療を行いました。まずは、滋養強壮が肝要かと、地黄を飲ませました。母御にも同じようにしました。今しばらく、ここで様子を見ることになりました。」
「どうしてそのような・・」とアスカ。
「あの辺りに住む者は、皆、同じように苦しんでいると聞きました。」とシオリが答える。
「私たちも一度、米を持ち、様子を見に行ったのですが、われらが近づくことを拒むのです。言葉が通じませんのでどうしたものかと・・。」
ナツの言葉に、集まった者たちも頷いた。
「なんだか怖いもの・・。」と幼い顔立ちをした女官の一人が呟いた。
周囲にいた者がその女官の口を手で覆う。
アスカが立ち上がり、その幼い女官に近づいて、笑顔で訊いた。
「なぜそう思うのですか?その方たちに会ったことがあるのですか?」
その女官はアスカが近づいてきたことに驚き、その場に突っ伏し震えている。
「あら、私のことも怖いの?それほど恐ろしい顔をしているかしら?」
アスカが言うと、その女官がそっと顔を上げて、アスカを見た。
「いえ、その様なことは。アスカ様はとてもお美しいお方です。」
「あら、ありがとう。では、どうしてそのように震えているの?」
「恐れ多いことです。アスカ様は治療院の女官にとっては神。近づくことは許されぬ高貴な御方、それゆえ恐れ多いと震えておるのです。」
女官は震えながら言った。
その様子を見てアスカが小さくため息をつき、その女官の手を取り立たせた。それから、女官たちの間を一回りしてから、皆を前にして言った。
「私は、幼いころ、日向の小さな港で藻塩作りをしていました。着の身着のまま、おそらく、みすぼらしい恰好だったはずです。食べるために朝から晩まで、火を焚き藻塩を作る日々でした。でも、皆、やさしい方ばかりに囲まれ幸せでした。そんなある日、カケル様と出会いました。カケル様はこんなみすぼらしい幼子に優しい言葉をかけてくれました。はるか昔のことですが、今でも、私はその時のことを思い出します。どのような格好でも、どこの生まれでも、人は皆幸せになることができるはず。それは、周囲の助けがあってこそのこと。ここで、初めて病人に接した時、その想いを一層強くしました。」
アスカの言葉は女官たちに響いた。
「草香の江にいる方々は、恐ろしき者ではありません。恐ろしき者は、皆の心が作り出したもの。わが身にこそ、悪しきものがあると心得てください。」
女官たちは頷き、中には涙を流している者もいる。
「では、私たちに何かできることはないか、皆で考えましょう。」
アスカはそう言うと、ナツを見た。
ナツも頷き、女官たちの中に入って語り合いを始めた。アスカは、女官たちからいくつもの質問を受け、若き頃の話や都での話、皇となってからの話などをした。女官たちは、アスカの言葉をすべて聞き逃さぬようにと熱心に聞き入っていた。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント