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追跡-5 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

片淵亜里沙を高速バスに乗せて見送った後、石堂は、まだ駅前にいた。
周囲を注意深く観察する。確実に、組織の人間が近づいているはずだった。マイクロチップの信号はキャッチされて、自分の居場所は特定されているに違いない。出来るだけ、亜里沙から遠ざからなければならない。かといって、身を隠せるような場所などない。組織はおそらく気づかれない様な場所で自分を抹殺するに違いない。そう考えると、出来るだけ、人目に付きやすい場所にいた方が良い。剣崎たちの動きも気になっていた。研究所からきっと自分たちを追ってきているに違いない。何処へ行けば良いのか、石堂は思案していた。
目に入ってきたのは、駅前交番だった。
「すみません。」
石堂はそう言うと、交番に入る。そして、ポケットから警察バッジを取り出した。
居合わせた警官は、石堂の階級を確認すると、その場に直立し敬礼をする。
「昨夜、御殿場の殺人事件で捜査をしています。ご協力をお願いします。」
石堂はそう言うと、交番の奥の部屋に入り、「捜査情報の漏えいになりかねない」と言って、交番にいた二人の警官に立ち入らないよう釘を刺した。
石堂はようやく一息ついた。ここならば、暫くの間は、組織の人間も安易に手出ししないだろう。だが、長居はできない。
石堂は背負っていたリュックの中から、モバイルパソコンを取り出した。そして、暫くの間、組織の様子を探ることにした。近くに始末人がいるなら、マイクロチップの信号をキャッチするはずだった。周囲5kmの範囲では、信号はキャッチできない。それから、石堂は、警視庁の自分のパソコンにアクセスし、起動した。そして、その中のバックドアに隠しておいた組織の情報をダウンロードし、小さなUSBメモリーへコピーした。
それから、石堂は、警視庁の自分のパソコンから、剣崎が使っているトレーラーに搭載されたコンピューターシステムのシャットダウンプログラムを解除した。
同時刻に、剣崎の許に生方から連絡が入った。
「剣崎さん、システムが突然回復しました!」
剣崎はそれを聞いて、石堂が動き始めた事を直感した。
生方が、警視庁のシステムへ入ろうとした時、突然画面に、URLが浮かんだ。
「何だ?」
生方はすぐに、剣崎にその事を知らせた。
「それを私のスマホに転送して!」
送られてきたURLへ接続する。そこには、男の姿があった。
「初めまして・・というべきでしょうか?」
画面の男が口を開く。
「石堂さんね。」
「そこまで判っているんですね。じゃあ、EXCUTIONERの意味もご理解いただいているんでしょうね。」
石堂は、大人しい口調で剣崎に訊いた。
「ええ。MMという組織のことも随分わかってきたわ。」
「さすが、やはり、私が見込んだとおりの、優秀な方ですね。」
剣崎は、スマホの画面を、一樹たちのトレーラーの大型モニターへリンクした。
「もう、復讐は終わったんでしょう。自首しなさい。」
「ええ、最初はそのつもりでした。しかし、無理なようです。」
「無理?」
「はい。おそらく、私はもうすぐ消されるでしょう。体に仕込まれたマイクロチップの信号で、この場所もすでに組織は特定しているはずです。」
生方は、システムを使って、石堂の居場所を特定した。そして、大型モニターの下にテロップで表示した。
大型画面に示された場所をアントニオも見ていた。そして、すぐにトレーラーを動かし始めた。
「あとどれくらい時間があるの?」
剣崎が訊く。
「さあ、まだ、始末人の姿はありませんが、1時間はないでしょう。もう、良いんです。私の目的は達成された。殺されることは初めから覚悟していました。ただ、亜里沙だけには、新しい人生を手に入れさせたい。だから、お願いがあります。」
そう言うと、石堂は、先ほどの小さなUSBメモリーを画面に映した。同時に、画面は真っ暗になった。
会話は終わった。
「石堂は何をお願いしたんでしょう?」
画面を食い入るように見ていた一樹が、剣崎に訊いた。
「判らない。ただ、あのUSBメモリーが鍵なのは間違いないわ。」
新東名を西に向かって走っていたが、一旦インターチェンジを出て、反転した。目指すのは、三島駅だった。
「石堂は、三島駅前の交番に居ました。おそらく、そこなら安全だと考えたんでしょう。そのまま、居てくれればいいんですが・・。」
生方が、無線越しに言う。
「あとどれくらい掛かる?」
剣崎が、アントニオに訊く。
「あと30分。」
沼津インターチェンジを出て、一気に目的の場所へ向かう。
「剣崎さん、ここから先は止めた方が良いね。」
アントニオが悔しそうな声で言った。三島駅前は、道が狭く大型トレーラーが入るのは難しい。一樹がトレーラーを降り、必死に交番へ走った。
一樹は、交番に着くと、警官バッジを見せながら、居合わせた警官に訊く。
「ここに、男が来ていないか?」
警官は顔を見合わせ、少し不思議そうな顔を浮かべている。
「どうした?」
「いえ・・つい先ほど、同じように石堂警視を追ってきた刑事が来られて・・なんだか、再現シーンのようだったので・・。」
「石堂を追って刑事が?」
「ええ、石堂警視は偽者だと。事件の重要参考人だと言ってました。」
「それで?」
「いや、我々も気づかなかったんですが、裏口から出て行ったようで、姿を見ていないんです。・・あの、石堂警視は偽者だったんでしょうか?」
「いや、本物だ。おそらく、追って来た刑事も本物だ。俺も。」
何だか、よく判らない答え方をして、一樹はその場に座り込んでしまった。
暫くして、亜美と剣崎も交番にやって来た。

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