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追跡-4 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

剣崎が独白しているところに、レイが姿を見せ、そっと剣崎の肩に手を置く。
「剣崎さん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。あなたは?」
「もう大丈夫です。」
二人は互いを労う。そこには二人にしかわからない辛さがある。
「レイさん、片淵亜里沙の思念波の近くに、もう一人の男の思念波は感じた?」
剣崎が訊く。
レイはそっと目を閉じ、自分が捉えていた思念波を思い出そうとした。しかし、はっきりと思い出せない。余りに遠く微弱な思念波だっただけではない。強い思いが徐々に消えていくような、まるで線香花火の最期のような思念波だったからである。
レイは小さく首を横に振り、「判りません」と言った後、「でも、強い恐怖は感じませんでした。」と付け加えた。
「まだ、MMに捕まってはいないという事でしょうか?」
と、一樹が剣崎に訊く。
「おそらく、二人で居るということでしょう。復讐を果たし、少し、安堵した状態なんじゃないかしら。」
「MMは彼らを追っているんでしょうか?」
「おそらく、血眼になって追っているはずよ。片淵亜里沙は組織の深いところまで知っているはず。必ず始末をするはずよ。」
「いったい、どこへ向かっているんでしょう?」と亜美。
「とにかく、西へ少しでも早く彼らの許へ。」
剣崎はアントニオに指示する。
新東名を大型トレーラーが疾走する。
剣崎は、レイの手を握り、互いの力を合わせ、再び片淵亜里沙の思念波を捉えようとしている。
傍で、亜美がそんな二人を心配そうに見つめている。
一樹はひとり、窓から外を眺め、二人のこれからの行動について考えていた。
組織や警察が追っていることは承知しているはずだ。ただ、正体ははっきりとは判らないため、検問があったとしても問題なく突破できるだろう。彼らが一番恐れているのは、やはり、組織に違いない。名古屋には、組織の拠点があった。そこに近付くことはリスクが大きい。かといって、片田舎ではおそらく目立つだろう。一体どこへ向かうつもりなのか。
「片淵亜里沙の縁者はいないのだろうか?」
ふと、口をついて言葉が出た。
亜美が、片淵亜里沙の資料を開く。だが、これといった有力な情報はない。
「どこかに、何かヒントになるものがあるはずなんだが・・。」
「サイバー犯罪対策室の方がどうかしら?」
亜美はそう言うと、生方に連絡した。生方は、次第を十分に把握していないまま、サイバー犯罪対策室の捜査員情報にアクセスした。だが、そのとたん、全てのシステムが一斉にダウンした。
「これはいったい・・どういうことだ?」
生方は、目の前で起こったことを理解できないでいた。
しかたなく、自分の個人パソコンを使って、警視庁のサーバーをハッキングし、サイバー犯罪対策室へ侵入した。
「済みません。サイバー犯罪対策室へアクセスしたとたん、システムがダウンし、リカバリーできません。詳細は判りませんが、なんとか、勤務実態だけは入手しました。すると、ここ数日、休暇を取っている者が見つかったので、今、情報を送ります。」
生方から亜美のスマホに連絡が入った。そしてすぐにメールが届いた。
剣崎はメールを開く。
「石堂昭という職員が休暇を取っているわね。おそらく、彼がEXCUTIONERなのでしょうね。顔写真も何とか入手したみたい。」
剣崎はスマホの画面を、一樹や亜美に見せた。
「この男、どこかで・・。」
一樹が記憶を辿るが、はっきりとは思い出せなかった。
続いて、生方から経歴も送られてきた。
「片淵亜里沙と石堂昭は、同じ高校の同級生のようね。」
「じゃあ、同級生を救出するために、これだけの事件を?」
剣崎の言葉に、亜美が驚いて訊いた。
「あ!そうか、こいつは。」
亜美の言葉をかき消すように、一樹が叫ぶ。
「駒ヶ根の映像を見たい。おそらく、こいつは、あの黄色い髪の男だ。」
今まで誰もが、黄色い髪の男は水野裕也だと思っていた。だが、石堂昭なら、全ての辻褄があう。
「黄色い髪の男の首筋には、おかしな入れ墨があったわ。水野裕也じゃないの?」
亜美が一樹に確認するように言った。
「いや、そうじゃない。」
自分たちのトレーラーにおいていたPCに保存しておいた映像を一樹が探す。
「ほら、そうだ。」
一樹が示したのは、首筋の入れ墨の近くにあるほくろだった。
「入れ墨も気になったが、このほくろ。奇妙に三つ、綺麗に並んでいた。初めは、入れ墨の一部かと思ったんだが、さっきの写真にも・・。」
一樹はそう言うと、剣崎のスマホに送られてきた顔写真を探し出して、並べた。
「ほら、全く同じ位置にほくろがあるだろ。」
これで、一連の事件に石堂が関与している事は確実だった。
「入れ墨はおそらく組織の一員である証。それが、石堂にもあるという事は、彼は、片淵亜里沙を探すために組織に潜入したという事になるけど・・。」
剣崎は一樹に確認する。
「きっと、彼は彼女を救出しなければならない理由があったんでしょう。」
それを聞いて、一樹は手帳を取り出した。
「確か・・ああ・・これだ。片淵亜里沙の捜索記録にあったんですが・・彼女が拉致された時、男子生徒と待ち合わせをしていたようなんです。その男子生徒は・・木島昭という名前でした。」
「石堂昭じゃなく、木島昭?」と亜美。
「石堂昭は、母方の苗字です。おそらく、自分が彼女と待ち合わせの約束をしたことで彼女が拉致されたと思っているようね。それで償いのために彼女の救出を考えた・・それと、組織への復讐。」

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