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追跡-9 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「どこへ向かったんでしょう?もう殺されたんでしょうか?」
一樹が剣崎に訊く。
「片淵亜里沙の居場所を聞き出すまでは、石堂を殺したりはしないはずよ。」
剣崎の手には、石堂のスマホが握られていた。この先、石堂を追うには、レイの力が必要だった。
剣崎たちが芦ノ湖スカイラインに出た事を知ったアントニオは、急いでトレーラーを動かして、迎えに向かった。芦ノ湖スカイラインの料金所を過ぎた辺りで、黒い車が向かってくるのが見えた。
「彼の思念波を感じる・・近付いてくる。」
横たわっていたレイが起き上がり、亜美に告げる。
「アントニオ!」
アントニオも、レイの言葉を聞いていた。
「あいつか?」
向かってくる、黒い大型のワンボックス車。運転席すら顔が判らない様な細工がしてある。見るからに怪しげだった。
「亜美!そこにGPSがある。奴らの車に!投げつければ磁石でくっつく!」
アントニオが亜美に言う。亜美は、指示された通り、小さなGPS発信機を取り出し、窓を開ける。アントニオが徐々に速度を落とす。横を通り過ぎた時、亜美が車の天井に向けて投げつけた。
「ナイス!」
アントニオが、上機嫌で言った。
「さあ、剣崎さんたちを迎えに行こう。」
芦ノ湖スカイラインを中ほどまで行くと、剣崎と一樹、カルロスが歩いていた。すぐに拾い、Uターンすると、黒いワンボックス車を追った。
運転席のナビには、取り付けたGPSの信号がしっかりとキャッチされていた。
「どこに行くつもりかしら?」
亜美が呟く。
「三島駅からここまで、やつらは石堂と片淵亜里沙が一緒にいると考えていたはず。しかし、石堂一人だと判り、三島駅まで戻るつもりだろう。まあ、彼にすれば、そうやって時間が稼げれば、目的は達成できる。」
そこへ、レイが起き上がって、皆の前に現れた。随分疲れた表情を浮かべ、時折、壁にもたれかからないと立っていられないという様子にも見えた。
「彼の思念波・・随分・弱々しくなっています・・。」
レイは横になっている最中も、彼の思念波を追い続けていたのだった。
「レイさん!」
亜美が駆け寄り、レイの体を支えるようにしてソファに座らせる。
「剣崎さん、手を。」
レイはそう言うと、手を伸ばした。剣崎もそっと手を伸ばし、繋いだ。レイが剣崎にシンクロする。剣崎の脳裏に、石堂の思念波が感じられた。剣崎はレイの体にサイコメトリーすると、石堂の思念波を通じて、彼が見ている風景が広がった。
≪港・・松原も見える。男は三人。・・随分、苦しそう・・。洋服のあちこちに血痕が付いている。・・随分殴られた様子だわ・・≫
「南へ向かってるようだ。・・その先は西伊豆だが・・」
ナビに示されたGPSの動きを追いながら、一樹が呟く。
亜美は、ネットを頼りに、彼らが向かっている先に何か怪しげな施設がないか、調べている。
≪本当に、そこにいるんだな・・車中の声が聞こえ、石堂が小さく頷いた・・石堂の心臓の鼓動が少し弱くなってきている・・意識が・・≫
「駄目だわ。もう、意識を失った。これ以上、思念波を捉えるのは無理。レイさん、もう良いわ。」
レイは既に意識を失っていた。
剣崎は、ゆっくりとレイの体をソファに横たえると、カルロスにベッドまで運ぶように指示した。
「石堂は、彼らに亜里沙の居場所を話したみたい・・。」
剣崎が、サイコメトリーの様子から、想像して言った。
「でも・・見当違いですよ。」
一樹が答える。
「おそらく、時間を稼ぐため・・でも、きっと、何か思惑があるはず。」
剣崎が言う。
修善寺温泉街を抜けると、左折して、東へ向かう。
「この先に、少し前に閉鎖された温泉旅館があります。」
亜美がネットで探しあてて、言った。
「そこに私たちを連れて行こうとしているのかしら?」
亜美はそう言って、パソコンの画面を剣崎に見せた。
「ここからは、このトレーラーでは目立つわね。」
剣崎はそう言うと、どこかに連絡をしている。すぐに、後方から数台のバイクがやって来た。
「矢澤刑事、バイクは?」
「一応・・免許は持ってます。」
「そう。」
剣崎はそう言うと、バイクに乗ってきた男からキーを受け取り、一樹に放り投げた。剣崎もヘルメットをかぶっている。剣崎は、黒い大型バイクにまたがると、一気に飛び出して行った。一樹も後を追う。その後をカルロスも続いた。
タンクには、ナビがついていて、黒いワンボックスのGPS信号を追っている。
山間のワインディングロードを3台のバイクが進む。舗装路から林へ入る。轍が残っていて、その先をワンボックスが走っているのが判る。
深い谷の奥に目指す温泉旅館がある。
急に剣崎がバイクを止めた。
前方の林の間から、研究所の建物が見えた。大きな門の前に黒いワンボックスが止まっている。息を殺して見ていると、車から石堂が引き出されてきた。もう歩くのもままならないほどに衰弱しているのが判る。取り巻く男たちも、石堂が白状した場所に、片淵亜里沙が居ない事を既に分かっているようだった。
「ここでこいつを始末する。」
始末人の一人が口を開く。
「ここなら遺体も見つからないだろう。」
そう言って、別の男が拳銃を取り出す。
「このまま、ここに放置すれば良いさ。虫の息だ。そう長くはないだろう。その方が、万一、発見されても、行き倒れか、自殺の類だと判断されるだろう。」
そう言うと、男たちは、石堂をそこへ座らせ、さっさと引き上げて行った。
剣崎たちは、身を潜めてワンボックス車が通り過ぎるのを待った。

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