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復讐の結末-2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「彼女とあんな場所で待ち合わせをしたから・・彼女の行方を調べていくうちに、判ったんです。彼女は、間違って拉致されたのだと・・。だから、命に代えても彼女を救い出したい。・・見つけられるかどうか判りませんでした。容姿もすっかり変わってしまっていた。でも、彼女の中に僅かに僕との記憶が残っていた。」
「石堂くん・・。」
片淵亜里沙が初めて男の名を口にした。
男は、これまでの事を思い出し、目に涙を浮かべている。
「水野裕也と神戸由紀子が、あの日、彼女を拉致したことは、すぐに判りました。警視庁のデータベースの中に、当時の捜査記録が残っていました。捜査で二人の名前は上がっているのに、それ以上は進んでいない。それに、この情報はシークレットとされていたんです。警察の上層部が関与しているのは間違いない。公にできない事情がある。それが判ってから、誰にも知られず、亜里沙の行方を追ったんです。」
「よく、亜里沙を見つけたわね・・。」
栗林所長は半ば感心して言った。
「神戸由紀子が、東京にいるのは、すぐに判りました。彼女なら、亜里沙の居場所を知っているかもしれない、そう思ったんです。」
「でも、由紀子は組織の人間。見知らぬ男が近づけば、組織からマークされるでしょう。」
栗林が訊く。
「ええ・・だが、その頃、私はサイバー犯罪対策室に配属され、特殊任務に就くことになったんです。」
「まさか・・。」
栗林所長の顔色が変わった。
「ええ、そうです。僕がシークレット情報にアクセスした事が判明し、組織が取り込もうと動いた。それで、僕は、疑われることなく、組織に入り、特殊任務に就くことができました。すると、組織の内部情報が手に取るように判った。」
「そんな事が・・。」
栗林は驚いていた。
「当時、神戸由紀子は、水野裕也と揉めていたようでした。それで、神戸由紀子に近づき、何度か恐ろしい目に遭わせたんです。その後、彼女のスマホに、水野裕也が命を狙っているとメールを送ったんです。予想通り、由紀子は、すぐに姿を消しました。しかし、行方はすぐに判りました。そう、あなたが言った通り、神戸由紀子にもマイクロチップが埋め込まれている。それを辿れば良いだけです。」
石堂の話を聞きながら、栗林は、その後の一連の殺害事件は容易に出来ただろうと想像した。
「駒ヶ根も、名古屋も、全て手に取るように判りました。しかし、亜里沙には辿り着けない。マイクロチップの信号をキャッチできなかった。」
石堂の言葉に、栗林が答えた。
「そうね・・彼女のマイクロチップは特殊なの。私が仕込んだから。由紀子や裕也のマイクロチップは、発信型。彼女たちは、市中を動き回り、女達を集める仕事。何処にいても居場所を特定できなければならないのよ。でも、亜里沙は別。特殊訓練を受け、特別な任務に就いてもらう必要がある。普通の発信型では不都合だったのよ。」
「それもすぐに判りました。・・だから、神戸由紀子の殺害映像を特殊捜査チームへ送った。剣崎という刑事は、サイコメトリーという特殊能力を使って、事件の全容を掴むはず。亜里沙の居場所も見つけてくれると考えたんです。」
一連の殺害事件は、すべて、石堂が亜里沙に辿り着くために仕組まれたものだった。石堂は、剣崎の特殊能力についても承知していた。警視庁の中でもごくわずかの物しか知らない情報だった。
「特殊捜査チームは優秀でした。信楽の拠点まで、すんなり辿り着き、挙句の果てに、内部の映像まで見せてくれた。そこに亜里沙が居る事が判ったんです。」
「もう良いわ。あなたがいかに優秀かはよく判ったわ。」
栗林は構えていた拳銃を降ろした。そして、少し黙って考えを整理していた。
「このままじゃ、また、亜里沙と同じような境遇の女性が生まれることになる。この組織を壊滅させなければならないわ。」
栗林所長も、自らの境遇を嘆き、組織への復讐を果たしたいという思いを強くしたようだった。信楽の爆発事故以降、締め付けが厳しくなり、この研究所もいずれは廃棄されるに違いない。そうなれば、自分も命を奪われるに違いない。そう思うと、このままでは済ませたくないという思いが沸々と湧いてくるのだった。
「もうすぐ、始末人が来る。いいわね、私を囮にしてここから逃げなさい。」
栗林所長は、小さな声でそう言うと、この後の段取りをメモ書きして石堂に渡す。
すると、石堂が栗林所長に飛び掛かり、一撃で気絶させた。
すぐに、二人は、所長を廊下まで運び、ストレッチャーで、手術室へ運ぶ。
「ここよ。」
ドアを開くと、広い手術室に幾つもの手術台が並んでいる。
「さあ、支度をしましょう。」
片淵亜里沙が言うと、石堂は、手術台の上に所長を横たえた。まだ、気を失っている様子だった。
「衣服は脱がせて。」
その手術台は、一般的なものとは随分構造が違っていた。両手・両足の所には、革製ベルトの拘束具が取り付けられている。
石堂は、所長の着衣を剥ぎ取るようにして脱がせ、全裸にすると、手足を拘束具で縛り上げる。そして手際よく、注射器を右腕に差し、その先にチューブを取り付けた。徐々に真っ赤な血液が流れ始める。
片淵亜里沙は、手術室に遭った備品庫から、止血剤や絆創膏、包帯などを取り出して、自分の傷の手当てをしている。急所は外れているものの、出血は止まらない。少し、意識が薄れていくように感じていた。
石堂は、所長室から運んできたパソコンを開き、カメラを接続し、操作を始めた。
「よし、これでいい。」
それから、何通かのメールを送った。
「これで、彼女たちが、きっとここへ来る。」
石堂と片淵亜里沙は、全てを終えると、研究所を出た。

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