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エピローグ2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

MMという組織に関しては、あれ以降、特に目立った動きはなく、もちろん、世の中に知られる事もなく時が過ぎていた。
一樹と亜美は、剣崎たちと別れ、橋川署に戻ったものの、何か納得できない幕引きに少し苛立ちを感じていた。
チームが解散して、ひと月ほどが経った頃、突然、剣崎が橋川署に顔を見せた。
事件の際に使っていた大型のトレーラーは健在で、署の駐車場には入れず、近くの競技場の駐車場に停められていた。
「こんにちは。」
剣崎は、チームの頃とは違い、何か柔らかい感じがした。
「剣崎さん!」
亜美が署で出迎え、すぐに、署長室へ案内した。レイにも連絡し、すぐに署へやってきた。亜里沙も同行した。
「警視庁は辞めました。これから、アメリカへ戻ります。」
剣崎は、笑顔を見せて言った。
「ああ、確かFBIにいらしたんですね。そこへ戻られるんですか?」
紀藤署長が訊いた。
「いえ、これからは、探偵業に就くことにしました。大きな組織には必ず闇が生まれます。自浄できる組織は少ない。その陰で、苦しむ人が居る。そういう人たちを救う仕事がしたいんです。」
剣崎は明るく答えたあと、レイの隣にいる女性をしげしげと見つめた。
「ああ・・彼女は、レイさんのところで働いている、石堂りささんです。」
剣崎の様子に気付いた亜美が紹介した。
「そう・・初めまして・・りささん。」
剣崎が手を伸ばし、りさと握手した。その瞬間、剣崎はりさのサイコメトリーをした。そして同時に、レイにも手を伸ばした。
剣崎は、レイを通じて、自分の思いをりさに伝えようとしたのだった。
≪良かった。生きていたのね。もう心配いらない。MMは、必ず壊滅するわ。≫
剣崎の思いは、りさに伝わった。
りさは、思わず顔を伏せる。涙が零れていた。
「あの・・紀藤署長、一つお願いがあるんです。」
剣崎は、紀藤に切り出した。
「あの、大きなトレーラー、こちらで預かってもらえないかしら。・・ああ、そうそう、矢澤刑事の住処にしてもらっても構わないけど・・処分するにはもったいなくて・・。」
剣崎はちょっとふざけた口調で言った。
「いやいや、あんなの、どうしようもないだろう。だいたい、運転できる者がいないし・・」と、一樹が反論する。
「あら、そう。なら、アントニオもつけるわ。・・そうか・・それなら、こうしましょう。私の探偵事務所の日本支社ということにしましょう。アントニオはその職員。事件の時は、矢澤刑事や紀藤刑事が自由に使って貰って構わないわ。どう?」
「良いでしょう。」
剣崎の言葉に紀藤署長が笑って答えた。
「良いんですか?」
今度は、一樹がおどろいて、紀藤署長に訊く。
「まあ、田舎の小さな警察署ですから、あまり、本庁からも注目される事もない。ここは、大きな工場地帯もあって、トレーラーを置く場所などどこでも確保できます。せっかくなので、十分活用させていただきますよ。」
「じゃあ、商談成立ということで。」
剣崎はそう言うと席を立つ。空港までは、一樹と亜美が送ることになった。
「剣崎さん、初めてですよね、ワンピース姿は・・。」
車の中で亜美が言った。
「あら、気づいてくれた?私の周りには鈍感な男が多くてね。」
「まあ、それじゃ、私と同じですね。」
そういう亜美も、今日は非番で長い丈のスカートを履いているのだが、一樹はその事に一切気づいていなかった。

剣崎が、アメリカに立って1週間ほどが過ぎた頃の事。
「ねえ、一樹、大変よ!」
いつものように、署の1階の暗い部屋のソファで横になっていた一樹の許に、亜美が駆け込んできた。手には新聞を持っている。
「ほら、見て!」
新聞の一面に、「MMシンジケート、正体判明」の文字が踊っている。
一樹は、飛び起きて、亜美から新聞を取り上げて、記事を読む。
「おい、テレビ、テレビをつけてくれ!」
部屋にある小さなテレビのスイッチを入れる。ニュース番組では、大きなビルへ大勢の捜査員たちが入っていく姿が映し出されている。
「さきほど、現職国会議員宅にも捜査員が入りました!」
テレビレポーターが叫ぶように言う。
「事の発端は、インターネット上に掲載された『石堂レポート』でした。この間、未解決になっている事件とMMシンジケートの関連が、大量の証拠書類とともにネットに公表されたものでした。投稿者は判明していませんが、アメリカのFBIに関連した人物ということで、レポートの信ぴょう性が高いと世界各国で反響があり、ようやく、警察当局も捜査を始めたのです。」
テレビキャスターが概要を説明している。
「これって・・。」と、亜美が一樹に確認するように訊いた。
「ああ、剣崎さんだ。そのために、警察を退職してアメリカに戻ったんだろう。海外からネットに発信すれば、日本の当局も手が出せない。ここまで細かい証拠資料があるんだ。もう逃れようはないだろう。」
その日から、半年間は、連日のように、MMシンジケートに関する逮捕や捜査経過のニュースが続いた。MMシンジケートの拠点は全国に広がっていて、各地で摘発されていった。殺人教唆などの罪で、現職の国会議員だけではなく、警視庁の幹部や政府機関の要人、財閥にも捜査の手が及んだ。そして、その年の総選挙では、野党が圧勝し、政権が交代した。
ルイは紀藤署長とともに、リビングで寛いでいた。
「これで、日本は少しはまともな国になるのかしら?」
テレビ報道を見ながら、ふと、ルイが呟く。
紀藤署長はウイスキーを口にしながら答える。
「そうなってほしいものだが・・・。」 

END

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