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追跡-7 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

レイはそっと、石堂の思念波に触れる。温かい。同時に、剣崎の意識の中で、石堂が見ている風景が広がった。
人並みの中を歩いている。周囲を警戒しながら、リュックサックを胸に強く抱き、近づいてくる人の顔を注意深く見ながら、進んでいる。
どうやら、デパートの中のようだった。
「デパートの中。近くにおもちゃ売り場がある。」
剣崎は、サイコメトリーしながら言葉を発する。それを聞いていたアントニオが、一樹のスマホに連絡した。
一樹と亜美はデパートの入り口辺りに居た。剣崎からの連絡を受けて、デパートの中へ飛び込んだ。おもちゃ売り場は3階だった。エスカレーターを乗り継ぎ、3階へ着く。一樹と亜美は、それぞれ別の通路を進みながら、石堂を探した。だが、石堂の姿は見えない。
「この中にいるのは確かなんだが・・。」
一樹は、急ぎ足で通路を進みながら、石堂を追う。
「空が・・空が見える。」
剣崎はサイコメトリーを続けている。
「空?・・屋上か?」
一樹は亜美に、上に行くという合図を送って、エスカレーターに乗る。
屋上には、休憩スペースとちょっとした軽食の屋台があった。デパートの中に比べて、人数は少ない。視界を遮るものも少なく、一目で周囲の様子を把握できた。
だが、そこには石堂の姿はない。だが、デパートには不似合いな黒服の男が数人立っている。
「あいつら、MMのメンバーか?」
一樹は、休憩スペースの壁際に隠れるようにして、男たちの様子を見る。そこに少し遅れて、亜美が姿を見せた。一樹が合図を送ると、亜美は、何食わぬ顔で、軽食の屋台の方へ歩いていき、店員に何か話しかけた。買い物客を装っている。亜美は、そこでドリンクを二つ買って、ゆっくりと一樹のところへやって来た。
亜美は、そっとそれを手渡しながら、笑顔を浮かべて
「あの男たちは、きっと始末人ね。イヤホンをして、何か会話をしている様子だった。それに、手に何か小さなモニターも持っていたわ。」
まるで、恋人同士で来て、楽しい会話をしているような表情を浮かべて言った。
「そうか。」
一樹も、精いっぱいの笑顔を作って、ドリンクを受け取りながら答えた。二人は男たちの動きが見える場所を探し、ベンチに座った。
「まだ、石堂を見つけていないようだな。」
「そのようね。」
様子を見ていると、剣崎からまた連絡が来た。
「石堂はデパートを出たわ。・・ここからは、レイさんの出番。」
アントニオが、剣崎のスマホをスピーカーモードに切り替え、一樹と亜美のイヤホンとつなげた。
レイはまだ、観念の世界に居て、石堂の思念波に寄り添っている。時間とともに、石堂の思念波を取り巻いていた黒い塊はすっかりととれていて、小さな光となっている。レイはそっと、その光に触れる。
≪随分疲れているのね≫
レイは思念波と会話をしている。
≪今、あなたを救うためにあなたを探しているの≫
その言葉に呼応するように、光が少しオレンジ色に変わる。
≪どこに向かっているの?≫
光は少し色を変えた。何か危険を察知したのだろう。光は徐々に点滅をし始める。
「彼が危ない。」
レイが叫ぶ。
それと同時に、屋上にいた黒服の男達も、石堂がデパートを出た事に気付いたのか、急いでエレベーターに向かった。一樹と亜美も、彼らに気付かれないように席を立ち、後を追った。
≪何処?何処にいるの?≫
レイは繰り返し光に語りかける。急に、風景が広がった。流れる街並みが見える。
「タクシーに乗ったようね。」
レイを通じて、思念波を感じていた剣崎も同じ風景を見ていた。スマホは繋がっている。一樹と亜美もその言葉を聞いて、デパートを出た。駅前にはタクシー乗り場がある。おそらくそこからタクシーに乗ったのだろう。
後を追いかけるとしても、どこへ向かえば良いのか。先ほどの黒服の男達の姿はない。どこか近くにいるはずだと確信し、二人は駅前の車の動きを注視した。
黒塗りの大型のワゴン車が急発進した。
「あれだ!」
一樹と亜美は、止まっていたタクシーに乗り込み、黒いワゴン車を追うように運転手に言った。同じころ、トレーラーも動き始めた。
≪何処に向かっているの?≫
レイは、思念波の光に語りかける。光が徐々に悲しみの青い色を発し始めた。
駅前通りを南へ抜け、国道一号線に出ると、黒いワゴン車は東へ向かった。その先は、箱根路である。
狭い街並みを抜け、山道に差し掛かると、黒いワゴンは一気に速度を上げた。
「お客さん、あの車を追いかけるのは無理だ。」
タクシー運転手がぼやく。
山中城跡あたりで、一樹と亜美はタクシーで追跡するのを諦めた。すぐに、トレーラーが追いついた。
「乗ってください!」
運転席から、アントニオが叫ぶ。
二人が乗り込むと、アントニオが「ちゃんとつかまっていてくださいね。」と笑顔を見せてウインクした。エンジン音がこれまでになく大きく響く。
巨体のトレーラーが、箱根の山道を登るのはかなり厳しいはずだった。だが、ぐんぐんと加速している。
「メイドインUSA!日本の車とは性能が違うよ!」
前を行く黒いワゴン車の姿が見えた。そして、その先にタクシーも見えた。始末人は確実に、石堂の位置を捉えている。
「レイさん!もう良いわ。ありがとう。」
剣崎がそう言って、レイの肩に手を置いた。レイはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

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