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追跡-3 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

レイは山中湖を出てからずっと、思念波を捉え続けている。これほど長い時間、能力を使う事はなかったはずで、精神の消耗は著しいに違いなかった。
「でも・・。」
レイは、捉えた片淵亜里沙の思念波を放してしまう事を恐れていた。
「大丈夫よ。・・しばらく休んで。」
剣崎が言うと、レイはその場に一気に崩れ落ちた。
「相当、無理をしたんだな・・。」
一樹がレイを抱き上げ、隣室のベッドに横たえた。
「ここからは、私たちの出番。彼らの行き先を推理するのよ。」
剣崎が一樹と亜美に言う。
「西へ向かっているということは、どういうことかしら?」
剣崎が訊く。
「この先は、静岡、浜松、名古屋・・二人が隠れるとすれば都市だと思います。田舎町では、余所者はすぐにわかる。東へ向かったなら、片淵亜里沙の故郷ということもあるでしょうが、西なら、おそらく名古屋あたりではないでしょうか?」
一樹が言うと、剣崎は小さく頷いた。
「ただ、少し気になることが・・。」
と、一樹が言うと、剣崎が「何かしら?」と訊く。
「二人は、所長を監禁してすぐにその場を去ったはずです。私たちが、あの場所へ到着するまで、3時間以上掛かっている。もし、その場をすぐに去ったのなら、すでに、名古屋を越えていてもおかしくないんです。どこかに立ち寄っていたのか、それとも、途中で行先を変更したのではないかと思うんです。」
「そうね・・おそらく、何か予定外のことが起きたのでしょう。」と、剣崎。
「あの・・」と亜美が口を挟む。
「今、西へ向かっているのは、本当に二人なのでしょうか?」
「どういうこと?」
「片淵亜里沙の思念波を追っているんですよね。・・もう一人の男はどうなんでしょう?一緒ではなく、別々ということはありませんか?」
亜美の疑問に、一樹も剣崎もハッとした。
「あるいは、途中でMMに捕らえられてしまったという事も考えられるわね。男の方は既に殺されているかも・・そして、捕まえた片淵亜里沙だけをMMのメンバーが連れ去っているということも視野に入れておいた方が良いかも。」
剣崎は、そう言うと、レイの様子を気にしている。
「だめですよ!相当疲れているはずです。これ以上負担をかけると、レイさんが壊れてしまう・・。」
亜美が、剣崎の思惑に気付き、必死に止める。
「それより、剣崎さん、遺留品からEXCUTIONERの情報をもう少し引き出せないんですか?警察関係者だという事は判ったんでしょう?」
亜美は、レイへの負担を止めるため、思わぬことを口にしてしまった。
「そうね。」
剣崎は、自省するような表情を浮かべて答える。
「判ったわ。サイコメトリーをもう一度やってみましょう。」
剣崎は姿勢を正して、机の上に置かれた「毛髪」に手を伸ばし、深呼吸をすると、「毛髪」に触れた。
初めは、先ほどと同じ映像だった。
少し時間を巻き戻そうと意識を集中させると、頭の中で映像が逆回転し始めた。その映像を感じながら、「毛髪」の持ち主を特定できる映像を探す。額から玉のような汗が流れている。自分でも想定しなかった能力の遣い方をしている事は承知しているが、予想以上に、頭の中が熱くなっているのが判る。このままでは自分も長くは持たないと感じている。
早く・・剣崎は必死で時間を巻き戻そうとしている。
不意に時間が止まった。
≪警視庁の庁舎内の廊下だった。廊下を歩いているのはEXCUTIONERと思しき人物に違いない。そして、ドアの前に立った。目の前にはセキュリティチェックのボックスがある。光彩と指紋、そして声の3段階認証だった。その男は、慣れた手順でセキュリティを抜け、部屋の中に入る。薄暗い部屋、整然と大型のモニター画面が並んでいる。男は、一つの席に座り、画面を見つめている。ふと、胸元に視線が行く。名札らしきものの映像が見えた。そこで急に真っ暗になった。≫
剣崎は、ソファに座ったまま、意識を失っていた。余りに過酷な能力の遣い方をしたせいだった。
「剣崎さん!」
亜美が肩を叩くが、反応しない。完全に意識を失っているようだった。その上、ひどい熱。脳が異常に活性しているようだった。
「ひどい熱!」
亜美が驚いて叫ぶと、アントニオがすぐに冷凍庫から、氷を取り出し、タオルに捲いて剣崎の頭と首筋に当てる。
しばらくして、剣崎が意識を取り戻した。
「やはり・・予想していたとおり・・だったわ。」
まだ、ぼんやりとしているようだった。
「何が見えたんです?」
一樹が訊く。
「EXCUTIONERは、警視庁・・・サイバー犯罪対策室の人間だったわ。」
「えっ?」
亜美が、剣崎にグラスに入ったアイスティーを手渡しながら反応した。
「最初の映像が届いた時から、何か違和感はあったのよ。」
剣崎はようやく普段の様に話せるまで回復した。
「無数にある闇サイトから、ピンポイントで、異常な映像が発見されたでしょ。まるで、この特別捜査チームが立ち上がるのを待っていたかのように。」
「確かに・・タイミングが良すぎる。」と一樹。
「偶然にしては出来過ぎてるように感じていたの。私たちの捜査状況も完全に把握していた。こんな事が出来るのは、警視庁内部、それも相当に高い技術を持ったところが動いているんじゃないかとは考えていたんだけど。」
「じゃあ、初めから、剣崎さんはEXCUTIONERは警察内部の人間だと考えていたんですか?」
一樹が改めて訊く。
「ええ。だから、あなたたちをこのチームへ入れたの。警視庁とは無縁な現場にいて、レイさんの特殊能力を受け入れているあなたたちが居なければ、犯人に辿り着けないと思ったのよ。」
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