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2-4 難波比古の悩み [アスカケ(空白の世紀)第6部 望郷]

難波比古が誇らしげに言う。それを聞いていたミンジュが前に進み出た。
「お聞きいただきたいことがございます。」
ミンジュは、統領、難波比古とカケルの両者に訴えるように言った。
「何事か?」
難波比古が少し困惑した顔をした。
「わが一族は、韓の戦火を逃れてここへ辿り着き、ウンファン様の援助を受けて何とか暮らすことができました。ですが、ウンファン様の助力も限られております。苦しい思いをして逃れてきた者の多くは、この難波津でもやはり苦しい暮らしが続いております。どうにか、難波比古様のお力で彼らが少しでも楽に暮らせるようお願いしたいのです。」
ミンジュが、大路を歩きながら、こわばった表情を見せていたのは、そうした現実を知っているからこそ、祭り騒ぎのような光景の裏で苦しい状態にあるものの顔が浮かんだからだった。
「どういう事でしょう?」
とカケルは難波比古に訊ねた。難波津はもともと、諸国から多くの人々が集まり暮らす町である。韓国だけでなく、華国からの者も受け入れることはできるはずではないのかとカケルは考えていた。
難波比古は少し困った表情を浮かべながら、小さなため息を一つ吐いてから言った。
「ミンジュ殿が申されることは事実。私も頭を悩ませ、幾度か、難波の宮様にもご相談してきたのです。多くの者が住む難波津は、すでに手狭になっております。それゆえ、堀江の庄からさらに先にも町を広げてきました。それでもすぐに手狭になるのです。そのうち、華国からくる者たちが、草香の江の北側に住みつくようになりました。」
難波津が栄え始めたころ、同じように、韓国の戦から逃れてきた者があり、難波津の松原に小屋を建て住み始め、いずれ、それが、様々な災いを起こすことになったことを、カケルは知っていた。
「ただ、この辺りと比べて、草香の江の北側は、低地のために、大水が出れば、住居は流される始末。新たな地へ住み替えるよう幾度か働きかけたものの、上手くいかず、いかがしたものかと。」
難波比古の苦労も理解できた。
「そのことは、皇タケルは知っておるのですか?」とカケルが訊く。
「はい。年儀の会の度に相談はしておりますが、有効な手がなく、何より苦労しているのは、草香の江に住む者たちを束ねる者が、なかなかこちらの話を聞こうとしないのです。私も幾度か足を運びましたが、残念ながら、聞き入れてもらえずにいるのです。」
難波比古は手を尽くしたと言いたげだった。
「諍いや争いごともあるのですか?」
とカケルが訊くと、難波比古は首を横に振りながら言った。
「そういうことはありません。とにかく、われらと接することを嫌がっておるのです。」と難波比古は答えた。
「確か、ここへ着く前、船頭が草香の江が浅くなり船の行き来にも支障が出ていると言っていましたが、それと何か関係があるかもしれませんね。」
そう言ったのは、アスカだった。
「草香の江は、重要な場所。船の行き来に支障が出るようではこまりますね。人が住むようになれば、川の流れも変わる。湿地ですから、米作りには適している。田を作り、そこへ水を引いているのかもしれません。そうなれば、確実に川の流れが変わる。おそらくそれが原因でしょう。」
そう言ったのは、ユキヒコだった。
「どうでしょう。そのことを一度私に預けてもらえませんか?この地へ留まる間に解決するとは思いませんが、何か策を見つける事ならできるかもしれません。」
カケルが難波比古に言った。
「いや、しかし、それは・・。」
「私は、もはや摂政ではありませんから、民に号令することなどできません。ただ、こういう時、昔の経験を活かして、知恵を出すくらいならできるかもしれません。まずは、かの地へ行き、この目で見てきましょう。ミンジュ殿、明日、案内してください。」
カケルが立ち上がると、アスカが言った。
「私とアヤは、治療院へ行ってきます。そこでも何かわかることがあるかもしれません。」
翌朝、カケルとカナメはミンジュの案内で出かけることにした。アスカ達も治療院へ向かった

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