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アスカケ~空白の世紀、完結編、始まりました。 [苦楽賢人のつぶやき]

今までずっともやもやしていました。アスカケ~空白の世紀は、遠く、わずか15歳で故郷を出て、己の生きる理由を探す「アスカケの旅」に出たカケルが、九重を回り、瀬戸内の国々を通り、ついに、大和で大国を治めるまでを描きました。そして、外伝として、その息子タケルが、東国・北國、そして山陰から出雲国と縁を結び、ヤマト王権の安寧の礎を作り上げるまでを描きました。この二つのお話しはいずれも、成長をしながら目指すべき高みへ上り詰めるお話しでした。
言ってみれば、「右肩上がりの世の中」でいかに成功を収めたかという、昭和風の筋書きです。昭和生まれの諸氏には理解いただけるものだと思っておりました。
ただ、今、自分が、そういう成長路線を求める現役ではなくなり、近い将来、確実に終末を迎える身となってみると、「高みへの到達」自体は通過点のように思えました。その後の人生のほうが実はとても長く、そこでどう生きるかこそが、人生の重要なことではないかと思えるようになったのです。
私自身、現役最後には、監査職であり、マネジメントの検証を行う職務を担っていました。そこで得た教訓は、出来上がったマネジメントシステムは、その時点から腐り始めるということです。どれだけ完全なシステムであっても、完成時が最も強く、時間の経過とともに朽ち始めるのです。
人生も同じような気がしています。未完成のままのほうが強いのではないか。
アスカケ~空白の世紀の最終部でも、そういうことを描けないだろうか。強いヤマトが出来上がったものの、実は各所でほころびができ始めている。そういう中で、カケルとアスカはどう生きていくのか、自らの命の終焉までどう生きるのか、自分の生き方と重ねて描けないだろうかと考えました。
もしかしたら、そんなことではなく全く別の方向へ向かっていくかもしれませんが、ぜひともお付き合いいただければ幸いです。
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1-8 アヤの本音 [アスカケ(空白の世紀)第6部 望郷]

「この郷には、そうした薬草に詳しい者がおりません。ぜひ、ご指南いただけませんか?」とユラが言うと、アヤは笑顔を返して言った。
「私で、宜しければお教えいたします。」
ユラは、アヤの説明を聞き、直ぐに侍女たちを呼び集めた。
「アヤ、良くやり遂げました。さあ、今度はあなたの番。全身に浴びた血を流して、身ぎれいにしてください。」
アスカがやさしく声をかけた。
アヤは、ミンジュとともに、ユラが用意した湯殿に向かった。
ミンジュは、湯殿でアヤの体を洗った。
「アヤ様、素晴らしい腕をお持ちですね。それに、あれだけの血を浴びても臆することなく、度胸も備わっておられる。」
ミンジュは、アヤの体に湯をかけながら感心して言った。
それを聞いて、アヤはふっと緊張の糸が切れたのか、涙をぽろぽろと流し始めた。
「怖かった。怖かった。・・」と呟いてアヤは震えている。
「幾度も、治療の様子を見てしっかりと覚えて、自信をもって臨んだのです・・。でも、やはり、手が震えました。誤れば、イリ様のお命を奪うかもしれない。そう思うと・・。」
ミンジュは、アヤの背にそっと手をやった。
アヤとミンジュが湯殿から戻ると、広間に侍女たちが待っていた。
「あら、大変ですよ。」とミンジュがアヤに言った。
「そうですね。でも、これが私のアスカケなのかもしれません。」
二人は笑顔で互いを見た。

イリは激しい痛みで気を失ってしまったようだった。
ユキヒコとカナメがイリの体を抱え上げ、寝所へ運ぶ。
ユラは、傍らに座り、イリの傷口に当てた白い布の様子を見ている。
「もう大丈夫でしょう。傷口はすぐに良くなります。」
アスカがユラに声をかける。
「本当にありがとうございました。ですが、せっかくお越しいただいたのに、これでは十分にもてなすこともできず申し訳ありません。」
ユラはアスカに詫びた。
「気にせずとも良いのです。此度の旅では、これまでご恩になった皆様にお礼に何かお返ししたいと考えておりました。これくらいでは足りぬかもしれませんが、これからも、民のため励んでください。」
「ありがとうございます。」
ユラがそう言うと、アスカは、イリの寝所を出て、広間に戻った。
そこには、アヤの話を聞こうと侍女たちが取り巻いていた。
「アヤ、良い仕事をしましたね。ミンジュもご苦労様でした。」
アスカから褒められ、アヤは顔を赤くして、初めて少女のような笑顔を浮かべた。それから、アヤがアスカに言った。
「アスカ様、今、薬草のお話をしています。アスカ様にもお話しいただけませんか?」
「あら、そうなの。良いですよ。ですが、皇になってから勉強はしておりませんので、アヤ様の方が詳しいと思いますよ。私こそ、お教えいただきたいと思っております。」
アスカがそう言うと、アヤは顔を真っ赤にした。
「さあ、皆さま、伴に話を聞きましょう。」
アスカが侍女たちに言うと、アヤは、姫帯を開いて、そこから、一つ一つ竹筒を取り出し、さらに、帯にしまっていた薬草の本も開いて見せた。侍女たちは興味深げにアヤの話に聞き入った。
アヤの知識は、アスカを驚かせた。まだ、十五ほどの娘とは思えないほど、薬草の効能を理解している。アスカの知らない薬草や薬草の組み合わせ次第では、命を奪うこともあるという戒めまでも、アヤは話した。
「アヤ、しっかり学んでいますね。これほどの知識を持っているのは、ヤマトでもおそらく数少ないはずです。このアスカケの最中、是非、皆さまに教えてあげてください。」
アスカは笑顔で言った。
「いえ、これもすべて、アスカ様のお導きです。確か、アスカ様は、カケル様とともに、古い書物を水から読み解かれたとお聞きしました。本当ですか?」
アヤが訊いた。アスカは記憶を辿るようにしてから答えた。
「ええ、カケル様の生まれた郷に、古い書物があり、カケル様はそれを読み解かれていたの。アスカケの最中に、私もカケル様から書物を読み解く手ほどきを受けたのです。」
その言葉に、アヤも女官も驚いていた。

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