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1-1望郷の想い [アスカケ(空白の世紀)第6部 望郷]

出雲の平定ののち、タケルは、都へ戻ったのち、アスカから皇位を継承し、ヤマト国の皇となった。父カケルも摂政を退いた。
皇タケルには、多くの素晴らしい臣下が仕えた。タケルは、カケルと同様に、生まれを問うことなく、志のある者には仕事を任せることにしたことで、ヤマト国は穏やかで豊かな国となり、東国、西国、北国との大きな連合国家として大いに繁栄していくこととなる。

皇位を退いたアスカのために、カケルは、畝傍の砦を改修して、飛鳥宮とした。
二人は、平城の宮を出て、飛鳥宮へ入ると、しばらく静かに暮らした。

カケルが還暦を迎えた年の始めの宴の席で、アスカが切り出した。
「カケル様・・・九重へ行ってみませんか。」
カケルは不意に「九重」という言葉を聞き、アスカの顔を覗き込むようにして言った。
「九重か・・。」
「ええ、九重です。」
「ふむ、遥か遠くなり、戻ることもなかろうと思っていたが。」
「ヤマト国は安泰。タケルもしっかり皇君の勤めを果たしております。この先、何の心配もありません。今こそ、懐かしい皆さまにもお会いになられたら如何でしょう。・・邪馬台国もきっと素晴らしき国となっておりましょう。」
「そうだな、この先、これまで世話になった 方々へお礼をする為にも行ってみるか。」
「ええ・・是非にも・・・。」
冬の夜空に煌々と月明かりが降り注いでいる。カケルは、遠く西の空を見上げた。

アスカとカケルが九重に向かおうと考えていることは、その日のうちに、皇タケルにも知らされた。
「どうしたものか。」
皇タケルは思案した。
「何を悩んでおられるのでしょう?」
傍に座るミヤ妃が、微笑みを浮かべながら訊いた。
「いや・・あまりに突然で。父や母が飛鳥宮で見守ってくださるからこそ、この大いなるヤマト国が治まっていると言えよう。」
それを聞いて、ミヤ妃が驚いた顔をして見せた。
「おやおや・・まだそのような・・カケル様やアスカ様が大和に入られた折は、この地は戦乱であったとお聞きしました。大和の中だけでなく、周囲の国々も乱れておったとも・・それを鎮めて、今のヤマトの礎を創り上げたのは、確かに、カケル様やアスカ様でしょう。しかし、貴方様も、東国、三河の地や、遠く出雲の地まで赴き、外敵を打ち払い、安寧をお創りになったではありませんか。」
ミヤ妃は、三河の地へタケルが赴いた時に出会い、その後、ともに山陰の地にもついていった。伴に苦労を分け合ったからこそ、宮費の言葉には嘘はなかった。
「いや、それは、大和の後ろ盾があったからこそのこと。幾度も、父や母に助けられた。私一人の力ではない。」
皇タケルの意外なほど心配している言葉を聞き、ミヤ妃は笑みを浮かべて言った。
「それならば、貴方様の為すべきは明らかなのではありませんか?」
「為すべきこと?」
「カケル様やアスカ様が九重に向かわれるのなら、行く先々で穏やかにお過ごしいただけるよう、皇のお勤めをしっかり果たされることが肝要かと。お二人が都を出られたあと、不穏な動きが起これば、お二人とて安心して旅を続けられないでしょう。それに、それほどご心配なら、西国や九重の国々へ使者を送られてはいかがですか?今度は、貴方様がカケル様やアスカ様の後ろ盾になられるべきでしょう?」
ミヤ妃の言葉はもっともだった。
皇タケルはミヤ妃の言葉を受け取って、すぐに、書をしたため、使者を西国へ送った。それと同時に、先皇の旅支度を始めた。

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