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2-5-3:罠 [峠◇第2部]

夜になった。幸一の居ない部屋は静かだった。
和美は昼間ムキになって働いたせいか、体がだるく早くに10時過ぎには床についた。
だが、幸一のことが脳裏に浮かんできてなかなか寝付けずにいた。

深夜12時を少し回った頃だった。廊下がミシっと音を立てた。
そして、和美の部屋の襖が静かに開いて、誰かが入ってきた。
和美は、うとうとしながら何となく人の気配を感じていた。だんだん近づいてくるようだった。
はっと気付くと、手で口を塞がれた。ばたばたしようとすると強い力で羽交い絞めにされた。そして、和美の体の上に馬乗りになった。いやらしい手が和美の体を弄る。太ももや胸を弄って、ついに、服を脱がし始めた。和美は体を捩り、なんとか逃れようと必死に抵抗した。少し隙が出来た手に噛み付いた。すると、頬を強く打たれ、さらにいやらしい手が迫ってきた。

 2つ隣の部屋に居た鉄三が、その物音に気付いて、急いで和美の部屋に入って電気をつけた。そこには、和美に馬乗りになった光男を姿があった。

「何してるんだ!」
鉄三は、そう叫ぶと光男に掴みかかり殴り飛ばした。光男は意外に弱く、もんどりうって和美の横に転がった。
その騒動に気付き、階下から、ご主人と奥さんが上がってきた。少し遅れて、アキもやってきた。

「何の騒ぎだね?」
ご主人が3人に尋ねた。鉄三が、
「いや、物音がして、心配になって、和美の部屋に入ったら、光男さんが・・」
「いやだなあ。逆ですよ。下を通ったら物音がしたんです。2階に上がったら、和美さんの部屋から何だかおかしな音がする。泥棒かと思って入ったら、鉄三さんが和美さんを脅して、変なことをしてるから、掴みかかったら殴られたんですよ。僕は被害者ですよ。」
光男はぬけぬけと話した。鉄三はそれを聞いて、
「何言ってるんだ!あんたが、和美に、変なことをしてたんじゃないか!」
「ほお。開き直るつもりなのか?」
その様子を見ていたアキが、
「なんなの。私の亭主が何かしたって言うの?和美さん、どうなの?」
和美は、先ほどの恐怖からか、まだ体を震えていて答えられないでいた。

「だいたい、使用人が、こんな部屋に住まわせてもらってどういうつもりなの?和美さん、あんたが居るからおかしな事になるんでしょう。早く出て行って!」
アキは、訳のわからない理屈で和美を責めた。
「そんな!被害者は和美さんなんです。本当です。光男さんが変なことをしていたんです。」
鉄三は必死になって、主人や奥さんに訴えた。
「まあ、いくら幸ちゃんの父親と言っても許さないわよ。祐子が死んで1年、そりゃ淋しいのはわかるけど・・」
アキは、訴えをすり替えた。
「そんなんじゃないって。本当です。信じてください、旦那さん!奥さん!」
ご主人は、鉄三の言い分を信じたようだった。
だが、奥さんは
「アキちゃんのご主人なのよ。そんな事するわけないでしょ。だいたい、和美と鉄三を近くにしたのは間違いの元だったのよ。和美さん、昼間、お話したとおり、もうここでのお仕事は結構よ。明日には、出て行ってね。」
そう言って、鉄三の話など聞く耳持たない様子だった。

そこまで聞いて、ご主人が、
「まあ、もう真夜中だ。その話はまたにしよう。・・ああ、それとひとつだけ。光男君だったね。君は、どうして離れから母屋まで来たんだね。」
「いやあ、それは・・・」
と言葉に詰まった。すかさず、アキが、
「離れにあるトイレは臭いからって、母屋のトイレに行くように言ったの。ついでに、幸一のミルクのお湯も頼んだのよ。」と繕った。
どうやら、今回の事は、アキと光男の二人の謀だとご主人は直感したが、その事を追求しても、言い逃れをされるとわかり、それ以上は言わなかった。
「そうかね。まあ、良いとして・・ほら・・もうこんな時間だ。明日も早いんだ。もう静かに寝かせてもらえないかね。」
そう言って、部屋に戻っていった。
アキは、鼻でふんと笑って部屋を出て行った。少し遅れて、光男がにやりと笑って和美の体を嘗め回すような目つきで見て、アキの後ろをついていった。

部屋に残った和美。恐ろしさと悔しさでおかしくなりそうだった。幸一の母役として、ここで過ごした幸せだった日々が、こなごなになっていく思いだった。はらはらと涙が零れた。

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