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-ウスキの村‐22.ふたたびウスキへ [アスカケ第2部九重連山]

22.再びウスキへ
カケルとアスカは、海岸沿いを北へ進んだ。タロヒコが南下する際に、破壊しつくした村を廻り、家を修理し、田畑を作り、病があれば薬草を探し、自らできることは全てやった。
時には、一つの村に半年近く逗留する事もあった。

タロヒコを討ち果たした事は、行く先々の村は皆知っていた。そして、カケルが村を訪れると、皆、涙を流して歓迎した。周囲の村からも、使いがやってきては、次には我が村へと請われるようになった。そうやって、ヒムカの国の多くの村を少しでも元気になるよう働く日々が続いた。アスカは、四六時中、カケルとともに凄し、カケルから様々な事を学んだ。

村を回る旅は、カケルの予想よりも伸びてしまい、三年近くの歳月が流れていた。
まだ幼かったアスカも、すでに17歳となっていた。
カケルは、15歳でナレの村を出て、22歳を迎えた。

二人は、山深い村を回っていた。
「さあ、この峠を越えると、五ヶ瀬の里に着く。その先はウスキの村だ。」
九重の山深い地を回るようになってから、カケルはアスカに「ウスキへ行こう」と何度か聞いていた。ウスキには、イツキが居る。その事を考えると、アスカはどこか心がざわついた。
「ウスキの村には伊津姫様がいらっしゃるんですよね。」
「ああ、いつか戻ると約束したからな。しかし、随分、時が掛かった。もう立派な姫様になられただろうな。」
「お綺麗な方なんでしょうね?」
アスカの言葉の意味が、カケルにはよくわからなかった。
「幼い頃からずっと一緒にいたからなあ・・兄妹のようなものだ。・・」
峠道を登りながら、カケルはそう呟いた。
「何だか、悔しい。・・私は、こんなにずっとカケル様といるのに、知らない事ばかり。・・」
「そうか?・・・」

ちょうど、峠の頂上に差し掛かった。開いた場所から、はるか眼下に。五ヶ瀬の里が見えていた。
カケルとアスカは、峠を越え、五ヶ瀬の村に入った。
二人を見つけると、村人たちはすぐに、カケル達だと判り、村人が次々に集まってきた。どの村でも、ほぼ同じように、こうしてカケルたちは歓迎された。タロヒコを倒し、国に平和を取り戻した勇者、そして、村を救う賢者として、ヒムカの国中に、カケルの名は知れ渡ってしまっていた。人々の期待の大きさに、精神的にも辛い時もあったが、アスカの存在が、カケルを支えていた。

モシオを出て、しばらくは、疲弊した村を立て直すために、多くの仕事があったのだが、1年過ぎた頃には、行く先々の村も随分豊かになり始めており、次第に、カケルの仕事は、人々にヒムカのほかの村の様子を語り伝える事に変わってきていた。

ここ、五ヶ瀬の村は、山深く、ヒムカの兵に襲われることなく、平和に過ごしてきたようだった。さらに、隣国の火の国との行き来もあり、暮らし向きも良かった。
カケルたちは、村人に、村の長の下へ案内された。
「これは、カケル様、よくおいでくださいました。様々な奇跡を起こされこの国を救われた勇者のお話は、この地にも届いております。我が村でも、是非にも、村々のお話をお聞かせくだされ。」
白い髭を伸ばした村の長は、笑顔でそう言って歓迎してくれた。
「そちらが、アスカ様ですか?」
アスカはそっと頭を下げる。
「・・なんと美しい方だ・・カケル様もお傍には女神様が居られるとお聞きしていてはいたが、これほど美しいとは・・・」
村の長はそう言って、アスカに手を合わせて、神を拝むようにしてみせた。アスカは照れた。

「ここは、無事だったようですね。」
「はい・・こんな山深いところまでは、ヒムカの兵は来ません。それに、隣国からいろんなものが届きますので、それほど不自由な暮らしでもありません。それより、隣国に怪しげな動きがありまして・・・。」
「怪しげな動き?」
「はい、ヒムカの王が倒れた話は、すぐに火の国にも伝わっております。山を超え、火の国の使者がこの村を抜け、ウスキへ向かいました。」
「ウスキへ?何の使者なのですか?」
「クンマの里より来たのだと申しました。火の国には、王は居らず、火の山に里を持つアソ一族と、球磨川の畔に里を持つクンマ一族とが、お互いに助け合い、行き来しておりました。ヒムカの大王が健在の頃には、我が村を通り、大いに行き来もありましたが・・・。」
「クンマの里の者は何の用でウスキへ?」
「さあ、詳しくはお教えいただけませんでしたが・・倒れたヒムカの王やタロヒコの存在は、火の国にも脅威となっておりました。それが無くなったことで、何か動き始めたのかもしれません・・。」
「戦のような事が起こるのでしょうか?」
「さあ・・これ以上は・・」

村の長との話を終え、カケルは、胸騒ぎがしていた。ウスキの村へ隣国からの使者が行った事で、イツキやエンの身に良からぬ事が起きていないか心配になっていた。

翌朝、カケルは、アスカとともにすぐにウスキへ向かうことにした。
「カケル!そんなに急いでどうしたの?」
アスカはカケルが黙々と峠道を進んでいく後姿を追うのが精一杯だった。
「何か、胸騒ぎがして・・皆に災いが無ければよいが・・」

深い谷に貼りつくように伸びる山道は、右左へ折れ曲がり、なかなかウスキの村は見えなかった。峠を二つばかり越えたところで、ようやく、深い淵に守られたウスキの村が見えてきた。
村の中には、一筋の煙があがり、穏やかな様子が感じられた。

-第3部へ続く-



高千穂渓谷4.jpg
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