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-ウスキの村‐21.ヒムカの未来 [アスカケ第2部九重連山]

21.ヒムカの未来
砦からは歓声が上がった。そして、ミコト達が駆け寄り、カケルとアスカを取り囲んだ。すると、二人の周りに溢れていた柔らかな光が徐々に小さくなり、カケルもアスカも、元の姿に戻っていく。そして、その場に、バタリと倒れてしまった。

二人が目覚めたのは翌日の夕刻だった。
館の外には、多くの村人が集まり、二人の様子を伺っていた。
傍らで、一人のミコトが、村人たちに、タロヒコとの闘いの様子を、話して聞かせていた。
目覚めたカケルは、隣に横たわっているアスカの顔を見た。あどけない表情で静かに眠っていた。
カケルは起き上がり、館の外へ出てきた。村人は、カケルの顔を見ると一斉に歓声を上げた。その声に、アスカも目を覚ました。そして、カケルと同様に館から顔を見せた。再び、歓声が上がった。
「これで、我らは安心して暮らせる。カケル様とアスカのお陰だ。」
皆、口々にそう言って二人を称えた。
「目覚めましたか?」
クスナヒコとクレがやってきて言った。
「はい。もう大丈夫です。」
「タロヒコの兵たちも皆消え去りました。これで、安心して暮らせます。」
クレが言うと、カケルが、
「回りの村にも、知らせを。これまでヒムカの兵に怯えて暮らしていました。もう怯えることなく暮らせる事が判れば、明日への希望も湧いてくるはずです。」
「はい、すでに村のミコト様たちが、辺りの村へ走り知らせているはずです。・・そう、ズク様も昨夜のうちに、ミミの浜へ戻られました。きっと今頃は、ノベやウスキにも知らせが届くでしょう。」
「それは良かった。ありがとうございます。・・・キハチ様は?」
「・・・まだ、目を覚ましておりません。・・・随分、苦しんでおられるようです。」
クレが心配な口ぶりで答えた。
「キハチ様は、タロヒコの動きを探るために、傍を離れずにいたために、あのような事になってしまったのです。どうか、許していただきたい。そして、どうか・・元気になるまでこの村で介抱していただけませんか。」
カケルは、事情を話し、許しを乞うた。
「わかっています。しっかり養生いただくようにしますから、ご安心を。」
クレの言葉に、カケルは安心した。
「カケル様、これからどうされます?」
クレは、アスカの顔をちらりと見てそう言った。少しカケルは考えてから言った。
「私は、まだ、アスカケの途中なのです。まだやるべきことがたくさんあるのです。」
アスカは隣でカケルの言葉をじっと聞いていた。
「王とタロヒコの悪行によって、貧しい暮らしに喘いでいた人々の力になりたいのです。しばらく、ヒムカの村を回って、自分にできる事をやろうと思います。そして、ウスキへ戻ってみようと思います。」
「そうですか・・ここでともに暮らしていただく事も考えておりましたが・・・」
クレは少し残念そうに言った。
「クレ様、一つお願いがあります。」
「何でしょう?我らにできる事ならば、何なりと・・」
「ここの塩を、多くの村へ分けてやって欲しいのです。いや、ただ分けるだけではなく、そう・・村と村が自由に行き来して、それぞれの村の産物を分け合えるようにして欲しいのです。・・昔、モロの村で聞いたのですが・・ヒムカの大王は、この国を豊かで穏やかな、そして強い国にしたいと願われていたそうなのです。そして、そのためには、それぞれの村に住む人がそれぞれのできる事を精一杯やり、支えあって生きていく事が大事なのだと。・・王が居なくなったこの国は、またタロヒコのような悪しき者が支配しようとするかもしれません。しかし、一つひとつの村が豊かで、お互いの村が助け合っていれば、そうした悪しき者がのさばる事も無いでしょう。このモシオの村がその要になっていただきたいのです。」
「そうしましょう。・・我らとて、それは望むべきことです。・・人々が行き交い、分け合い、助け合い、強く豊かな国となるよう精一杯働きましょう。」
クレもクスナヒコも、カケルへ誓った。
「一つ、私からもカケル様にお願いがございます。」
クレは、再び、アスカの顔を見て、にこりとした顔を見せて言った。
「カケル様のアスカケに、アスカを連れて行ってもらえませんか?」
カケルは、アスカの顔をじっと見た。アスカは真っ赤な顔をしていた。
「・・・それは・・私も考えておりました。・・少し、アスカと相談させてください。私の旅は、楽なものではありません。ここに居たほうが、アスカには幸せかもしれません。・・旅立つかどうか、じっくりと相談して決めさせてください。」

カケルとアスカは、夕暮れの浜辺に居た。
目の前の海は、もう宵闇が広がりつつあった。カケルは、どう切り出そうかと迷っていた。
「アスカ・・・もう体は大丈夫か?」
タロヒコの戦いの最中、アスカの体は突然の変貌を起こしたのだ。カケルも同様、しばらく動けなくなるほど負担がかかるのだ。まだ少女のアスカには、もっと大きな負担になっているに違いなかった。
「もう、大丈夫です・・」
「以前にもあんなことが?」
「いえ、初めてです。体が熱くなり自分じゃないようで怖かったけれど、カケル様をお助けできて嬉しかったです。」
「そうだな。お前の助けが無ければどうなっていたか・・・どうやら、アスカも私も、何か特別な因縁を持っているようだな。・・・これから、どうする、アスカ?」
「カケル様がお許しくださるなら、私はカケル様とともに行きたい。」
「そうか・・そうだな・・・きっと二人でいたほうが良いだろう。ともに行くか!」
カケルの言葉に、アスカは飛び上がって喜んだ。そして、再開した時同様、カケルに抱きついたのだった。
「カケル様、私は生まれた国を知りません。・・遠く、海ばかりみて暮らしておりました。もし、アスカケの旅の途中、故郷を知る術があるなら、ともに探していただきたいのです。」
「そうか・・なら、それがお前のアスカケになるのだな。」
「はい。」

それから、数日後には、カケルとアスカはモシオの村を旅立った。大勢の村の人が砦から見送った。
「さあ、厳しい旅になるかも知れぬが、助け合い進もう。」
カケルは、そう言ってアスカとともに、葦の原から北へ続く道を進んだ。

夕暮れの海3.jpg
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