SSブログ

-ウスキの村‐20.タロヒコとの戦い [アスカケ第2部九重連山]

20. タロヒコとの戦い
静かになった葦の原を見ると、半ば腐りかけた屍が至るところに転がっている。中には、頭さえ無いようなものさえあった。カケルはそれを見て言った。
「やはり、、行き倒れたもの、命を奪われたものに、悪霊を呼び操っていたのか!」
しばらくすると、タロヒコが動いた。
「輿を下ろせ!」
タロヒコは、黒装束に身を包み、さらに、首には拳ほどもある大きな黒水晶を真ん中にした、首飾りをしていて、頭にはカラスの羽根を冠にして被っている。
「ふん、魔よけの矢を放つとは・・・だが・・これならどうだ?」
地面に降り立つと、タロヒコは、首飾りを取り、両手に持つと、なにやら怪しげな呪文を唱え始めた。そして、「はあっ!!!」と叫んだかと思うと、首飾りを地面にたたきつける。
辺りにドンという音が響いた。すると、地中から何か黒い霧のようなものが立ち上り、倒れた屍の中に入っていく。同時に、屍はまた起き上がり、動き始めたではないか。
「地に眠る怨霊さえも引き出して、操るのか!」
カケルは、タロヒコの妖術に怒りが湧いてきた。そして、腰に刺した剣に触れた。
すると、剣が怪しげな光を放ち始めたでは無いか。そして、カケルの心臓がドクンと一回大きくなったかと思うと、腕や肩、背中の肉がもりもりと膨らみ始めた。そう、変貌を遂げ始めたのだった。髪も逆立ち、獣のような顔つきに変わる。
カケルは、剣を抜いた。剣からは、青白い光が迸り、辺りを照らす。一振りすると、その光が遠くまで届き、迫り来る黒装束の兵士をなぎ倒し、消し去った。
カケルは、物見櫓の上から、葦の原に大きく跳ねた。そして、着地すると同時に、剣を横一文字に降りぬいた。剣から発せられる光が、さらに迫り来る兵士を容赦なく消し去っていく。屍さえも、灰になり、風とともに空高く上っていくのだった。カケルの剣は、全ての魂を空に返す力を秘めていたのだった。
「何としたことか!・・、あやつは何者じゃ!・・お前たち、やってしまえ!」
タロヒコは、輿を担いでいた大男にそう命じた。
大男は、大太刀や槍を持ち、カケルに襲い掛かった。カケルは剣を反して、受け止める。火花が飛び散る。次々に襲い掛かる大男たちは、簡単にはやられない。五月雨のごとく、太刀や槍を容赦なくカケルに討ちかかる。
「カケル様!」
ミコトたちも固唾を呑んで見守っている。カケルは、転がりながら、大男の足を切りつけた。
「うっ!」大男は、葦の原を転がった。
「カケル様!やれるぞ!」
砦から歓声が上がる。
「こしゃくなやつめ!・・これならどうだ!」
タロヒコは、そうはき捨てると、黒水晶を天に掲げた。それと同時に、砦から、悲鳴が上がった。
悲鳴は、アスカだった。砦の中にいたキハチが、アスカを羽交い絞めにして、喉に剣を突き立てていたのだ。キハチは、真っ赤な目でゼイゼイと息をしている。もはや常軌を逸した表情となっているのだった。
「やはり・・・キハチ様は、タロヒコの術に掛かっていたか!」
カケルは、剣を構えたまま動けなくなった。

「どうだ?あの娘の命を救いたいであろう。ならば、剣を捨てよ!皆も降参させるのだ。」
タロヒコはほくそ笑むように言った。
その時だった。
今度は、アスカの身にも変化が起きはじめた。首から下げた飾りの土笛が、突然、唸り始めたのだ。この土笛は、舟でモシオに流れ着いた時から、アスカの首にかけられていたものだった。その笛の音を聞くと、アスカの体は熱くなった。そして、突然、金色の光に包まれた。まだ幼さを遺していたアスカの体は徐々に大きくなり、見事な女性の体つきになった。そして、麻の服がちぎれ、薄くて白い絹の衣を纏った。あたかも女神のごとく、変貌した。
羽交い絞めにしていたキハチは、その光りにたじろぎ、全身の力が抜けてその場に座り込んでしまった。そして、「あうっ」と呻いたかと思うと、開いた口から黒い霧のようなものを吐き出した。
吐き出したものは、タロヒコの妖術でキハチの体に入れられた邪気だった。そして、そのまま、キハチは、その場にぱたりと倒れ込んだ。
「なんだ?あの娘は・・あやつも力を持って居るのか?」
タロヒコも、驚いた様子だった。

アスカの体は、空中に浮かんだ。そして、大男たちとカケルの間に割って入った。
そして、土笛を吹く。その音色は、笛から聞こえるものではない。空高くから響いてくるようだった。その音色に大男たちは頭を抱え、のた打ち回る。やがて、全身から湯気を発し、ついには、頭から熔けはじめたのだった。
「さあ、カケル様。」
アスカが手を差し伸べる。カケルがその手を握ると、二人を暖かな光が包んだ。そして徐々に大きくなって、辺り一面、金色の光の世界へと変わっていく。
「タロヒコ、観念せよ!お前はもはや人ではない!魔物だ。魔物は成敗する。」
カケルが剣を振り上げた。
「何を、お前たちこそ、魔物ではないか!我と何処が違うというのか!」
そう言って、黒水晶を目の前にかざす。
すると、二人を覆う金色の光を黒水晶が吸い取っていく。
「さあ、息子たちよ、お前たちの命を奪ったこいつらに復讐するのだ!」
タロヒコは、そう言って、脇に構えていた息子たちに命じた。
脇に居たのは、モシオの砦を襲ったあの男だった。そして、もう一人は、ミミの葉まで殺めた男だった。しかし、二人ともすでに、眼を失い、腕もなくした、ただの屍である。タロヒコの妖術で動いているに過ぎなかった。
「王を殺すだけでなく、自ら王を名乗り、この国をどうしようというのだ!魔物となってまで、何が手に入れたかったのだ!」
カケルには、タロヒコが魔物に命を渡してしまうまでに落ちてしまった事を憂いた。

アスカが、今一度、土笛を吹いた。今度は、全て悪を赦してしまうような優しい音色が響いた。
「な・・なんだ、これは・・俺の体が・・やめろ・・やめろ・・や・・め・・て・・」
目の前のタロヒコが叫んだかと思と、息子たちとともに、急に、動かなくなった。
「さあ、カケル様、とどめを!」
カケルは剣を、振りかぶり一気に振り下ろした。
タロヒコの体は真っ二つに割れた。そして、先からさらさらと砂になって消えていく。そして、一陣の強い風とともに天高く登って行った。

羽衣椿.jpg
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0