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-ウスキの村‐19.キハチとの再会 [アスカケ第2部九重連山]

19.キハチとの再会
アスカの指差す先、葦の原が揺れている。まっすぐ、こちらに何かが近づいているのが判った。
「タロヒコの兵達か?」
櫓の下から、クスナヒコが問いかける。
「いや・・人の様だが・・・」
カケルが目を凝らして、その動きをじっと探った。背の高い葦の先が揺れている。葦が切れたところで、ようやく、人影が確認できた。手を振ってこちらに向かってくる。
「キハチ様?・・キハチ様だ。・・門を開けてください。」
カケルは、櫓から飛び降りると、草原に走った。
「キハチ様、よくご無事で・・」
「おい、なんだ、カケルじゃないか。どうしてここに?」
「エンの知らせを受けて、すぐにウスキを出て、ミミの浜から舟で昨夜のうちにきたのです。」
「夜の海を?・・そうか・・・・それより、早くここを離れたほうが良い。もうすぐ、タロヒコの軍がここへ来る。村人を早く逃がすんだ。」
「ええ・・おおよそはわかっていたんです。今、準備をしています。さあ、キハチ様も中へ。」
カケルはキハチを砦の中へ案内した。

村人の多くは、対岸の避難場所に大方移っていた。砦の中では、クスナヒコが中心となって、ミコト達はすでに守りの支度を整えていた。キハチは、その様子を見て、ため息をついた。
「抗わない方が良い。ここを明け渡して逃げるべきだ。」
その言葉に、クスナヒコが訊いた。
「これだけ備えれば、そう易々とは破られはしないだろう?」
キハチは首を降った。
「俺は、ノベの村からずっとタロヒコの軍の様子を伺っていた。あいつらは・・人間ではないのだ。・・アラヒコが使う術は、死人に死霊を吹き込み、蘇らせて兵にして操るものだ。これまで、幾つもの村が抵抗したが、ことごとく破れた。」
「兵を倒しても無駄だというのか?」
「ああ、兵たちは、いくら倒してもまた蘇る。・・前の村でも三日ほど抵抗していたが、倒しても倒しても、また襲ってくる相手に疲れ果て、ついには、自らも死人となり、兵に加わるのだ。」
それを聞いて、別のミコトが口を挟んだ。
「この葦の矢は、魔を退治する力を込めてある。これを使えば、きっと勝てるはずだ!」
「魔を退治する力?」
「ああ、これがあれば、怖くなどないぞ!なあ、みんな!」
キハチはじっとその矢を見つめていた。
「さあ、どうだ?」
クスナヒコが、一本の矢をキハチの前に差し出した。キハチは、少し避けるようにしてから、
「こんなもの、アラヒコには効かない。戦わず、降参するほうが良い。」
そう言って、背を向けた。カケルは、キハチの態度に違和感を覚えていた。キハチは、弓矢の名手である。それに、ウスキの村で出会った時のキハチは、恐れを知らない、むしろ、無鉄砲なくらい負けん気の強い男であった。戦う前から、降参するなど考えるような性格ではなかったはずだ。それほどまで、タロヒコの力が大きいという事なのかと考えていた。
「まあ、いいさ。攻めてくる敵に何もせず降参するのは納得できない。まず、この矢を使って、少しでも時間を稼ぐ事にしよう。・・それより、キハチ様、あいつらと供にいたのなら、何か弱点はないのか?知ってる事を教えてくれないか?」
クスナヒコは、あくまで戦う事に拘って、キハチに訊いた。
「知っている限り、弱点など無い。」
「兵を蘇らせる力を持っているのは、タロヒコだけなのだろう?タロヒコさえ倒せばどうにかなるんじゃないのか?」
矢の自慢をしたミコトが続けて訊いた。
「確かに、すべてはタロヒコの力だが、タロヒコの周りには四人の大男が守りを固めている。絶えず、四人はタロヒコの傍に居るのだ。」
「その大男は強いのか?」
「・・・ああ・・強い。・・大鉈や槍、大剣を持ち、倒せるものではない。・・」
「人間なのか?」
「いや、・・・鬼だ。・・地の底から這い上がってきた鬼なのだ。・・・」
キハチの説明に、皆、黙り込んでしまった。
「だから・・早々に降参したほうが良いんだ。・・タロヒコに味方すれば、命は救われる。この村も無傷に済む。無用にしに急ぐことはない・・なあ・・そうだろう?」
カケルは、ますますキハチの態度に違和感を持ってきた。もしや・・キハチ様はタロヒコの妖力に遣られたのではないかと疑念を持つようになっていた。

朝日が昇り、本来なら、日差しが降り注いでいるはずの、草原に一際黒い塊が見えた。
そして、それは徐々にこちらへ向かってくる。空も徐々に曇ってきた。黒い塊に見えたのは、カラスだった。漆黒の羽根を広げ、空を旋回している。おびただしい数のカラスだった。
カケルはじっと目を凝らして、その黒い塊の中を見つめた。黒いカラスが旋回するすぐ下に、黒装束を身に纏った兵士らしき集団が、ゆっくりとこちらへ向かってくるのがわかった。葦の原を、ゆっくり滑るように向かってくる。そして、その少し後ろに、黒く塗られた輿がやってきた。大男四人が抱え、その座に一人の男が座っていた。
 異様な集団だった。歩く足音がしない。そして、彼らが通った後の草木は、黒く枯れてしまっている。まるで、大蛇が獲物に向かって音も無く忍び寄るかのようだった。
 タロヒコも、砦の存在に気付いたようだった。集団の動きが止まった。まだ昼間だというのに、厚い雲に覆われ、夕方のように薄暗くなってきた。そして、ぽつぽつと雨も降り始めた。
砦の柵の傍で、ミコトたちは弓を構えた。魔除けの力を得た葦の矢を握り、息を凝らしてじっと待っている。
そのうち、一番先頭にいた黒装束の兵が動き始めた。ゆっくりと砦を囲むように進んでくる。
物見やぐらの上から、クスナヒコがじっと様子を見ていた。
「まだ、まだ・・・矢が届くところまでひきつけるのだ。・・」
徐々に間合いは詰まってくる。
「よし、放て!」
クスナヒコの合図で、一斉に矢が放たれた。放物線を描いて、葦の矢が兵士たちへ降り注ぐ。魔除けの力を持った矢が、兵士に刺さる。二つ三つ、矢が刺さると、黒い兵士は固まったように動かなくなり、口から黒い霧のようなものを吐き出して、倒れた。
「放て!放て!」
クスナヒコも号令をかけながら、弓を引いた。雨のごとく降り注ぐ矢は、兵士たちを留め、倒していく。大量に用意した矢が付きかけた時、黒い兵士たちの姿は全て消えた。
「やったぞ!見たか!我らの力を!」
クスナヒコが大声で叫ぶ。

カラス.jpg
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コメント 2

はな

こんばんは^^

これからタロヒコとの攻防が始まるのですね?
少しドキドキします
この先、カケルがイツキとエンとは別の道を歩き始めるこのになっていくのかと思うと少し寂しいですが・・・
時間が十分にとれるときにしか読めないので(読み始めると止まらないのでw)すごくゆっくりですが、本当に楽しませていただいています♪

ところで・・・
このページの2段落目にアラヒコの名前が出てくるのですが・・・・
タロヒコの間違いでいいでしょうか?
アラヒコといえばナレの村のアラヒコしか思い浮かばず・・・
どこかでタロヒコの仲間になっちゃったか???ナンテ(汗)
すみません
どうしても気になって・・・

by はな (2012-04-05 19:17) 

苦楽賢人

はな様 コメントありがとうございました。

随分丁寧に読んでいただいて、ありがとうございます。

ご指摘の箇所・・確かに間違っておりました。すぐに修正しました。このあたりは、自分でも興奮しながら書いていたので勢い余って間違ってしまいました。

今読み返して、次の話の中にもフィードバックできることもあり、本当に助かります。
今後もよろしくお願いします。
by 苦楽賢人 (2012-04-06 08:52) 

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