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-ウスキの村‐18.備え [アスカケ第2部九重連山]

18.備え
カケルは、クレとクスナヒコの住む館に招かれ、主だった村人も集まっていた。
「カケル様、お戻りになられたのは、何か理由があるようですね。」
クレ姫が尋ねた。クスナヒコも、同様にカケルに訊いた。
「良いですか、これからお話しする事を良く聞いてください。」
村人たちも身を乗り出して聞き入った。
「ヒムカの王が倒れました。」
その言葉に、村人は安堵の声を上げた。
「いや、そうではありません。以前よりも事態は悪くなっているのです。」
「どういう事ですか?」
「ヒムカの王は、側近のタロヒコに殺されたのです。そして、今は、タロヒコが自らをヒムカの王だと言い、村々を襲い、村人を殺し、全てを奪おうとしています。」
「まさか、そいつらがここへ?」
クスナヒコが尋ねる。
「はい、南へ向かったとエンから聞き、急いでやってきたのです。」
話を聞いていた村人の一人が言った。
「だが、カケル様が来られたんだ。村は大丈夫だ。また、追い返してやればいいんだ!」
「そうだ、大丈夫だ。なあ?」
不安を払拭しようと、皆、顔を見合わせ確認しあった。しかし、カケルは首を横に振った。
「タロヒコは妖力を持っているそうです。ミミの浜で聞いた話では、呪文を唱え、死人を蘇らせて兵士にしていると・・・自分の息子たちもそうやって蘇らせたのだそうです。」
「そ・・そんなことが・・出来るのか?」
村人の一人が恐々訊いた。
「確かな事は判りません。」
「いや・・昔、ヒムカの兵だった頃、聞いた事がある。」
クスナヒコが記憶を辿るように言った。
「タロヒコは、方々の村から巫女を連れてきて、祈祷を学んでいたんだ。そして、夜な夜な、自分の部屋に篭り、怪しげな呪術を唱えるようになっていた。それと、連れてこられた巫女は、誰一人と生きて戻ったものは無かったと聞いた。巫女の亡骸さえも無かったそうだから・・ひょっとして巫女を殺し、巫女の力を我が物にするために、その肉を食べたのではないだろうか・・。」
村人はそれを聞いて身震いした。
「誰も見ていないから、ただの噂かも知れないが・・・」
「いえ、例え、噂だとしても、それだけの恐さを持っているのは事実でしょう。たタロヒコに、戦うのは無駄に死者をだすだけではないでしょうか。」
クレもクスナヒコも、村人も黙り込んでしまった。
皆の様子を見て、カケルは提案した。
「この村の砦を作る時、皆さんと話し合いましたね。・・この砦は戦うために作るのではないと・・村人の命を守るために作るのだと・・・」
「ええ・・実際、この砦ができてから、村人はもちろん、周囲の村も安心して暮らせるようになりましたから。」
クレは答えた。
「だが、待っていても仕方ない。向かってくれば戦うしかないだろう。」
クスナヒコが投げやりに言った。
「クレ様・・川向こうには集落を広げていますか?」
カケルはクレに訊いた。
「はい、村人が全員住めるほどの集落は出来ています。近頃は、回りの村から、そこへ来て、棲みたいというものさえ居ります。」
「良かった。それならば、すぐに、村の人をそこへ案内してください。きっと、それ程、時はありません。子どもたちやご老人を先に、そして、ミコト様達は、私とともにここへ残りましょう。皆が、逃げ切る事ができるまでは、耐えねばなりません。・・舟はたくさんありましたね。」
「はい。・・近頃は、舟であちこちへ塩を運んでおりますから・・」
クスナヒコは立ち上がり、皆に号令した。
「よし、みんな、川向こうへ逃げるのだ。慌てずとも良い。女、子ども、爺様、婆様、皆、クレについて行くが良い。・・ミコト様達、われらにお力を。ともに、ここで食い止めるのです。」
皆、立ち上がり、動き始めた。慌てず、しかし、速やかに、船着場から川向こうへ舟を出した。

「さあ、カケル様、タロヒコ達とはどう戦う?」
物見櫓の上に上がり、周囲に目を凝らしながら、カケルもどう立ち向かうべきか悩んでいた。
「まずは、出来るだけ遠くに足止めをせねばなりません。」
「ならば、矢を射るのがいいでしょう。これだけのミコトが居れば、雨のごとく矢を射る事もできるでしょう。」
クスナヒコが、控えているミコトたちの様子を見ながら言った。カケルも、
「ええ、それが良いでしょう。魔物からはできるだけ遠くに居たほうがいいでしょう。」
それを聞き、ミコトたちは弓矢を用意し始めた。
「これっぽっちで、足りるだろうか?」
矢の束を手にして、ミコトが言った。
「もっともっと必要だが・・これから木を切りにいく間は無いぞ!」
「どうする?」
不安な空気が流れた。
カケルは、砦の下を見て、はたと気付いた。
「皆さん、あの葦を使いましょう。あれなら、すぐに刈り取れる。先を尖らせば、充分に矢として使えるでしょう。」
ミコトたちはすぐに砦の外に出て、葦を刈り取れるだけ取って、櫓に運んだ。そして、出来るだけ太くて思い物を選び、先を削り尖らせて矢を作った.。
そこへ、村の巫女が現れた。
「巫女様、どうされたのですか?早くお逃げ下さい。」
クスナヒコは驚いて、言った。
「いや、私の役目を果たしに来たのじゃ。・・その矢を此処へ並べておくれ。魔物に放つなら、呪いを解く力を矢に吹き込まねばならぬからのお。」
巫女はそう言って、櫓の床に矢を積み上げさせた。巫女は、矢の前に跪き、ユズリハを携え、祈りを奉げた。ミコトたちもその様子を見て、巫女と同じように、矢の前に跪き、祈りを奉げた。

「カケル様!誰か来ます!」
物見櫓の一番高いところに、アスカが座り、様子を見ていた。そう言って、北東の方角を指さした。カケルは、その事よりも、アスカが一人物見櫓にいる事を心配した。
「アスカ、何故、ここに居るのだ!早く、逃げなさい!」
「いやです!私は此処にいます。ずっとカケル様のお傍に居ます。」
アスカは、物見櫓の柱を抱きかかえ、動かない素振りを見せた。カケルは、半ば諦め、アスカの居る高みへ上った。そして、指さすほうを見た。

ヨシキリ.jpg
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