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3-3-23 予期せぬ知らせ [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

23. 予期せぬ知らせ
「誰だ!」
エンは咄嗟に剣に手をかけた。
「やはり、ここでしたか。」
顔を見せたのは、イノヒコだった。
「イノヒコ様、よくここが判りましたね。」
カケルは立ち上がり、イノヒコを出迎えた。
「近くまで来た時、大軍が荒尾の浜へ向かったと聞き、もしやと思い来たのです。ここでお会いできて良かった。・・姫様はまだ・・」
「はい、・・ラシャ王は死にましたが・・今は、筑紫野の王に姫様は囚われておいでなのです。これから、女山のハツリヒコ様を頼って参るところです。」
カケルは答えた。イノヒコは、筑紫野と聞き驚いていた。
「何か、良からぬ知らせでもあるのですか?」
タツルが尋ねた。イノヒコは、皆を見回してから言った。
「私は、クンマの里から八代を抜けてここまで参りました。実は、途中、良からぬ噂を耳にしました。ラシャ王が筑紫野の国を手に入れ、九重全体を我が物にしようと、南へ大軍を送ったというのです。・・おそらく、ラシャ王が放った密使が流した噂でしょう。」
「しかし、そのような事は・・」
「ええ、しかし、皆、ラシャ王の悪行は知っています。噂は広がり、八代から大軍が北へ向かい始めているのです。そればかりではありません。海からも、隼人一族が船団を作り、有明海を北へ進んでいるようなのです。」
そう聞いて、タツルが訊いた。
「もしや、タクマの里からも兵が動いているのでは?」
「はい、おそらくもう動き始めているでしょう。・・クンマの里や阿蘇は動いていないようですが、八代からの大軍と隼人一族、タクマの兵が、少しずつ、筑紫野を目指しやってきているのは間違いありません。」
カケルは言った。
「このままでは、筑紫野の国と大きな戦になってしまう。何としても、止めねばなりません。」
「ラシャ王の奴、死んでもなお、民の命を奪おうとするのか!」
エンが悔しそうに言った。
「エン、悔やんでいても仕方ない。まずは、南からの兵を止めなければ・・・八代からの兵の大将は?」
カケルの問いに、イノヒコが答える。
「確か・・タン様と申されたと・・。」
「やはり、そうでしたか。」
バンが言う。
「隼人一族は、おそらくムサシ様が大将となられているはずです。隼人一族は、きっと島原沿いに北へ上ってくるはず。そうなれば、イサの里も巻き込むかもしれません。・・イサの里まで加われば、筑紫野の国を西と東から挟み込む形になります。」
「カケル、・・都合が良いんじゃないか?大軍で攻めれば、筑紫野の王もすぐに降参するはずだ。無益な戦が起きる前に、姫を取り戻せるかも知れない。どうだ?」
エンは、カケルに訊いた。カケルは、エンの言う事も一理あるとは考えたが、そう簡単にはいかないだろうと思った。タツルが言う。
「いや、無理だろう。ハツリヒコ様に聞いたのだが、筑紫野の国の北、海峡を挟んだところに、アナト国がある。昔から筑紫野の王とは懇意にしているようだ。こちらが大軍で攻めれば、アナト国に援軍を頼むかも知れぬ。・・アナト国は、以前より筑紫野の国を欲しているようだから、この機に、一気に攻め込もうとするかもしれない。」

アナトの国は、古より隆盛を極めてきた大国だった。朝鮮半島からの渡来人も多く、瀬戸の海と外海に繋がる海峡を抑えており、大きな船団も持っていた。卑弥呼の時代にも、邪馬台国とは友好関係を保ち、遠く大陸からの使者も向かえていた。卑弥呼亡き後、九重の国が乱れた時、兵を送った。その時の将は、邪馬台国の王族を追放し、自らが王と名乗たのだった。
今、筑紫野を治める王はその末裔である。その為に、九重の民からは、邪馬台国を滅ぼし、王を追放し、アナト国の手先と蔑まれていた。歴代の王たちは、そうした民を力で抑え、逆らう者たちは容赦なく命を奪われたり、追放されたりした。邪馬台国滅亡後、長い間、筑紫野の民は抑圧され、生きてきたのだった。

「何より、戦になれば、、田畑も踏まれ、村は焼かれ、多くの血が流れる。多くの民が泣くことになる。何も残らぬ。・・そんな事を、伊津姫様は願っておられない。今は、とにかく、戦を避けることだ。」
カケルの言葉に、皆、納得した。
「バン様は、タカ様とともに、島原へ向かってください。隼人一族に、ラシャ王が死んだ事を伝え、進軍を止めるよう説得してください。タツル様は、タクマの兵を止めてください。」
バンもタツルもタカも頷いた。
「八代の兵はどうする?」
エンが訊いた。
「エン、イノヒコ様とともに、八代の兵を止めてくれ。タン様ならお前も知っているだろう。」
「判った。そうしよう。だが、戦の備えは必要だろう。この荒尾浜の北あたりに留めておいたほうが良いだろう。」
「・・ああ・・・私は、すぐにハツリヒコ様に会いに行く。タツル様の話では、きっと我らの考えを判って下さるだろう。」

翌朝には、バン・タカは大船で島原へ、アマリもバンの船に乗った。エンとイノヒコは八代の兵のもとへ、そして、タツルはタクマの兵のもとへ、皆それぞれの役目を負って、荒尾浜を後にした。

カケルは、アスカを伴って、荒尾浜から北へ上った。
荒尾浜から、女山までは低い山の裾野に広がる森を抜ける道を行く。東には、阿蘇に続く山々、西には有明の海が広がっている。幾つかの川を越え、峠を越えた。

二日目の昼頃、前方になだらかな稜線を持つ飛形山が見えた。山裾には蛇行する矢部川の流れ、その畔には、大きな集落が広がっていた。集落の裏手の高台には、頑強な造りの城砦も見えた。
「あれが、女山の砦だろう。あそこに、ハツリヒコ様がいらっしゃる。さあ、行こう。」

飛形山.jpg
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