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3-3-22 ラシャ王の最期 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

22. ラシャ王の最期
「まだ、それほど遠くには逃げていないはずだ。海の方を探してくれ!」
バンは、大船に乗っている仲間に声を掛けた。
船着場にいた船はゆっくりと動き、沖合いに出て行った。
「怪しい奴が居たらすぐに掴まえてくるんだ!」
陸にいた男たちも、タツルの号令で、辺りの浜を手分けして探し始めた。
しかし、見つからないまま、夕暮れを迎えていた。
皆、松明を手に、夜遅くまで浜を探したが、やはり見つからなかった。
「何処に行ったのだろう?」
エンは、大船の中でぼんやりと呟いた。
「海へ逃れたのなら・・なかなか見つからないだろうな。」
タツルも、甲板に座り込んで呟くように答えた。
バンは、船縁で夜の闇に広がる海を眺めていた。そして、
「カケル様は何処に?」
振り返りながら、皆に訊いた。
「そう言えば、夕方、皆で探している時から、見ていないな。アスカ、知らないか?あれ、アスカも居ない。一体、二人とも何処へ行ったんだ?」
アスカも、そこには居なかった。

その頃、カケルとアスカは、荒尾の浜の村に居た。戦騒ぎで、荒尾の浜の人々は、一度、村を離れ潜んでいた。ようやく、皆、家に戻っていたのだった。カケルとアスカは、家々を回っていた。戦騒ぎで心配をさせたことを詫びると供に、ラシャ王が、村の中に潜んでいる事も考えられ、念のために、見て回っていたのだった。
一人の漁師の家で、
「カケル様、船が一艘無くなっています。浜の外れに停めておいたのですが・・さっき、見に行ったら、無かったんです。流されたわけではないはずです。固く、結わえておいたんです。」
そう聞いたのだった。
「カケル様、ラシャ王でしょうか?」
アスカが尋ねた。
「おそらくそうだろう。大船から波間を泳ぎ、浜で船を奪ったのだろう。・・しかし、小船で有明の海に漕ぎ出したのなら、無事では済まないだろう。」

その頃、ラシャ王は、カケルの想像通り、浜で手に入れた小船に乗り、沖合いを漂っていた。
漕ぎ出したのではなく、潮の流れに飲まれ、荒尾の浜から随分と沖合いに流されていたのだった。辺りを見回しても、どの方向にも、陸は見えなかった。夕暮れを向かえ、終に、周囲は暗闇が広がっていった。春とはいえ、夜風は冷たい。海に浸かり濡れた体には真冬の寒さほどに感じられた。次第に、ラシャ王は意識がぼんやりとし始め、終に、意識を失い船の中に横たわってしまった。

翌朝から、タツルたちは、戦騒ぎの後始末を始めていた。松原の中に大きな穴を掘り、ラシャ王の兵の亡骸を集め、埋めた。縄で縛られ磯に置き去りにされていた兵たちも皆死んでいた。それら全てを集め、穴の中に入れ、懇ろに葬ってやった。
カケルとアスカは、漁師に聞いた話を皆に伝えた。
「ラシャ王は小船で漕ぎ出したようだ。・・漁師の話では、荒尾の沖は潮の流れが強く思うように船は操れなくなるそうだ。沖合いをぐるぐると回って、明け方からの寄せ潮で、浜の北辺りに打ち寄せられているかもしれないそうだ。」
「そうなら、ラシャ王はその辺りに船を着けて、また逃げて行ったというのか?」
エンは、むきになって訊いた。
「いや・・昨晩はかなり冷え込んだ。ひょっとしたら、凍え死んでいるかもしれない。」
「よし、探そう。」
そう言って、エンやバンは、浜の北へ走った。カケルの言ったとおり、浜の北側を流れる川のほとり、葦の原の中に小船が乗り上げていた。
「おい、あれ!」
エンが一番に見つけた。そして、ばしゃばしゃと水しぶきを上げて、船に近づいていった。
船の中を覗き込んだエンが、一瞬、睨みつけるような表情を見せてから、大きなため息をついた。そして、カケルたちのほうを見てから言った。
「ラシャ王だ。・・・死んでる・・・」
皆、小船の中を覗き込んだ。船の中には、ぼろぼろの服を着た男の姿があった。明け方には流れ着いていたのだろう。野犬に襲われた様子で、指先や足先にはいくつも齧られた跡が付いていた。顔には、水鳥にでも突かれたのか、目や鼻あたりには、いくつも穴が開いていた。暴力で人々を抑え付け、一時は九重の半分ほどにまで勢力を広げ、大きな里をいくつも作ってきた王の、哀れな末路である。

「これからどうする?」
ラシャ王の亡骸を、浜に埋めた後、皆、大船の甲板に車座に座って相談を始めた。
「とにかく、姫様はまだ囚われの身。何としても姫をお救いせねば。」
バンが言った。
「すぐに出かけよう。筑紫野へ行き、取り返すのだ。これだけの男たちが居れば、何とかなるだろう?」
エンが続けた。カケルは皆の顔を見ながら静かに言った。
「いや、筑紫野の王との戦いは、避けねばならない。」
「何故だ!」
エンが食って掛かった。
「エン、これまでの戦いとは違う。今度は国との戦。相手はどれほどの兵が居るのかわからぬ。行く先の村々、全てが敵となることもある。安易に戦いに望めば、ここに居る者たちも多くが命を落とす事になるかもしれないのだ。」
「命を懸けても姫をお救いするのが我らの役目だ!」
「ああ、そうだ。しかし、筑紫野の国を滅ぼす事が目的ではない。無闇に戦を構える事はないだろう。」
それを聞いていたタツルが口を開いた。
「女山のハツリヒコ様を頼りましょう。あの方なら、力になっていただけるはずです。」
「そうしましょう。きっと無益な戦は避けられるでしょう。」
カケルの一声で、皆の行く先が決した。その時だった。大船の縄梯子を上がってくる者があった。

葦の岸辺.jpg
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