SSブログ

3-3-21 最後のあがき [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

21. 最後のあがき
「タツル様!」
岩陰からカケルは飛び出して、男たちのほうヘ向かった。エンも後に続いた。
矢を放っていた男たちが、浜から飛び出していた人影に驚いて、思わず矢を放った。
カケルは剣で矢を交わした。そして、そのまままっすぐ男たちの中へ。タツルは、カケルたちに気づいていない。カケルは高く飛び上がると、男たちの頭上を跳び越して、タツルの前に立った。
「止めさせてください!」
突然現れたカケルに驚きながら、タツルは号令した。
「皆、止めよ!」
エンも、かろうじて放たれた矢を交わし、男たち数人を押さえつけていた。
「これは・・カケル様、ご無事でしたか。」
「ええ・・タツル様は、ラシャ王を追ってここへ?」
タツルは、タクマの地からラシャ王の残党を成敗するために北へ向かい、女山の地で、ハツリヒコと面会し、ラシャ王をここまで追い詰めた経緯をカケルに話した。
「ここ、荒尾には先日到着しました。ラシャ王の兵達が狼藉を働いていたので、エンたちと供に殲滅しました。大船の中は、兵の亡骸ばかりです。ラシャ王の手下も10名ほどしか居りません。あの船は、動かないでしょう。」
「では、ラシャ王もいよいよ最期の時となったわけですね。」
「ええ・・ですから、無用に矢を放つ事もありません。もはや、袋のネズミなのです。」
「しかし・・沖から援軍が来るようなことはありませんか?」
「いえ・・島原は、バン様達がすべて解放し、根城となっていたイサの里も取り戻しました。」
「不知火や天草からは?」
「不知火や天草は、隼人一族が、ほぼ制圧したそうです。八代は・・。」
「八代は大丈夫です。タン様たちの軍が下っていき、少しずつ取り戻しているようです。・・昨日、イノヒコ様がお知らせくださいました。」
「そうですか・・・では、もはやここに居る者だけがラシャ王の手勢。沖には、バン様の船も控えています。もはや、逃げ道などありません。」
二人はそう会話すると、船着場の先に停まる大船を眺めた。
「姫は?」
エンがタツルに訊いた。
「ラシャ王は、姫を連れていなかった。おそらく、筑紫野の王の元に居られるだろう。」
「良かった・・では、お救いできるのだな?」
「いや・・それが・・・。」
タツルは口篭った。
「何だよ、筑紫野の王のところへ、伊津姫様をお迎えに行くだけじゃないのか?」
「筑紫野の王は、それほど聡明な王ではありません。・・むしろ、ラシャ王より難しい事になるかもしれません。・・筑紫野の国には、九重を手に入れようという邪心に満ちています。」
タツルは、ハツリヒコから聞いた事を、カケルやエンに伝えた。
「なんて事だ!」
エンは憤り、土を蹴った。タツルがカケルに訊いた。
「・・ラシャ王はいかがしましょう?」
少し離れた磯にいたバンの船も、大船の様子を見て、徐々に近づいてきて、ラシャ王の船の近くの浜に停まった。
ラシャ王は、大船の中で黒服の男を呼びつけていた。
「船を出さぬか!このままでは、一気に攻められる。さあ、早く船を出せ!」
ラシャ王は、半狂乱になっていた。これまで、ここまで追い詰められた経験は無かった。ペクチュの国でも、大軍を率い、海を渡った時も、自ら国を出ると決意しただけで、追い詰められたわけではなかった。初めて、敵に追われる恐怖を味わっていたのだった。
「これだけの人数では、この船は動きませぬ。」
「では・・どうするのだ?・・天草やイサへ使いを送り、援軍を呼び寄せよ!八代にも居るであろう。とにかく、何でも良い、ここから脱出する方法を考えよ!」
ラシャ王は、怒りに任せて、剣を振り回し、兵の亡骸を次々に切りつけ、串刺しにした。
「王様、お止め下さい!」
止めに入った兵の一人が、王の剣で腕を切られた。それを見ていた他の兵たちは、もはや、ラシャ王に仕える意味などないと見限り、一人ひとり、船を下りようと甲板に出た。外には、たくさんの男たちが弓を構えて待っていた。兵たちは、剣と弓を船から放り投げ、両手を上げた。
「降伏して出てきたようです。」
「無抵抗の者を傷つけてはいけません。捕えるだけで良いでしょう。」
タツルはカケルの言葉を受け入れた。
「よおし、ゆっくり降りて来い!」次々に兵が梯子を降り、縄で縛られた。

大船の中には、ラシャ王と黒服の男の二人となってしまった。
「王様、もはやこれまでです。」
「いや、わしは殺されはせぬ。」
ラシャ王は、そう言うと、黒服の男に剣を突き立てた。
「な・・なにを・・・・。」
そう言うと、黒服の男は果てた。ラシャ王は、船に積まれていた「朱の王服」を取り出してきて、黒服の男に着せた。そして、自らは、紺服を着て、甲板に出た。
「ここで捕まるわけにはいかない。」
王はそう言うと、船の反対側へ降り、海へ飛び込んだ。

「もう居ないか?」
タツルの声に、男たちは縄梯子を上って、船の中に入って行った。
「王らしき男が死んでいます。」
その声に、タツルやカケル達も船の中に入った。男達が言う通り、朱の服に身を包んだ男が血の海の中に横たわっていた。
「自ら命を絶ったか。」
タツルは、横たわる遺体を見ながら言った。
「おかしい・・・服に切り傷はない・・本当に王なのか?」
カケルは首をかしげた。
エンとバンもやってきて男の顔を見た。
「こいつ、ラシャ王じゃない。」
「ああ、こいつは・・黒服の男だ。・・王は逃げたんだ。」
そう言って、すぐに甲板に出て、辺りを見回した。
「くそお!一体、どこに行った!」
エンは船縁を叩いて悔しがった。

磯2.jpg
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0