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3-3-20 追い込む [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

20. 追い込む
「ラシャ王は何処に行った!」
バンは、捕らえた兵を小突きながら訊いた。
「・・判らぬ・・ここで待てと命令されたのだ。・・」
「姫はどうした?」
「・・・姫?・・ああ・・姫は、筑紫野の王への手土産したはずだ・・、」
「何だって!」
今度はエンが、兵を殴りつけた。
「ふん、もうじき、ラシャ王様が、大軍を率いてここにおいでなる。そうなれば、お前達など一ひねりだ。覚えてろ、そうなったら、お前達、ただでは済まさんぞ!」
縄を駆けられた兵の一人が吐き捨てるように言った。
「ここへ、ラシャ王が現れるのか・・・」
カケルは、荒尾の浜をこれ以上戦で荒らしたくなかった。しかし、この兵が言うとおりに、大軍を率いて現れるならば、戦は避けられない。更には、これだけの手勢では勝ち目もなかった。しかし、今から兵を集め備えるには時がない。
「バン様、隼人一族は今もまだ、八代か不知火にいるでしょうか?」
「ああ、おそらく、近くまで来ていると思いますが・・・。」
「この浜では、何としても戦は避けなければなりません。これ以上、犠牲を出したくない。大軍が来れば、おそらく勝ち目もない。ならば、海の上での戦いにしたいのです。」
「しかし・・海の上となると・・。」
「ええ、わかっています。だが、王の船は一隻のみ。大人数が乗れるわけではありません。一旦、大軍を王とを切り離し、海の上ならば、数の差はない。仮に、逃げたとしても、、南の海には隼人一族もいるでしょう。ですから、ここでは戦をせず、王を船に乗せて一旦、海へ漕ぎ出させてはどうかと・・・。」
その会話を聞いていたタカが口を挟んだ。
「海へ逃せば、また、イサの里へ向かうのではないでしょうか?」
「それも考えられますが・・船一隻の人数ならば、イサの里でも容易く落ちはしない。われらがすぐに、王の船を追いかけ、海の上で決着をつけましょう。」
「判りました。」

カケル達の策はすぐに荒尾の浜の者にも伝えられた。倒れた王の兵たちを、大船に運び、漕ぎ手のように座らせ、外から見ると、兵たちが待っているように見せかけた。
荒尾の浜の者たちは、生き残っている兵を、全て荒縄で縛り、浜のはずれの磯に運び、波打ち際に座らせた。潮が満ちれば、海に飲み込まれるようにした。
「悪事に加担した罰だ。運がよければ、明日まで命があるだろう。今までやってきたことを悔い、罪を償うのだ。」
兵たちは皆、泣き喚いて、助けを請うた。
そして、荒野の浜の者たちは、一旦、浜を離れて、山陰に身を潜めた。カケル達は、船に乗り込み、沖合いにある大岩の影で、王達が到着するのを待つことにした。

翌日の昼ごろだった。ラシャ王達が、わずかの手勢で、荒尾の浜へ現れたのだ。女山のハツリヒコが王命にそむき、ラシャ王達を追い払い、命からがら、逃げ延びてきたのだった。すぐ後には、タツル達の軍勢が、ラシャ王の行方を追ってきていた。

「おお、船が居る。すぐに乗り込み、海へ出るぞ!」
ラシャ王は、船着場の大船を見つけて、先を急いだ。手下たちも、急ぎ船に向かう。黒服の男「影」だけは、浜の様子がおかしいことに気づいた。
「王様、変です。村人が一人も居りません。何かの罠です。」
「何を言うか!とにかく船に乗り込めば良いのだ。さあ、急ぐぞ。」
一行は、村を抜け船着場へ出た。
「見ろ、皆、出講の支度を済ませて居るではないか!」
「お待ちください。きっと何かあります。船に敵が潜んでいるかもしれません。」
「何を言っておる。さあ、行くぞ。・・おい!梯子を下ろせ!」
王が命令したが、船からは返答がない。
「おい、王の到着だ、さっさと梯子を下ろさぬか!」
しかし、船から返答はない。それもそのはず、船の中には死んだ兵しか乗っていないのだ。
「おい、登っていって、梯子を下ろせ!」
兵に命令し船体をよじ登り、梯子を下ろさせた。
船に乗り込んだのは、ほんの十人ほどであった。
甲板に立ち、王は外を見た。すると、タツル達の軍勢が、荒尾の浜に入ってきたのが見えた。
「おい、船を出せ!」
王は、号令をかけた。しかし、船は動き出さない。
「王様!大変です、漕ぎ手が・・。」
「どうしたのだ!」
「漕ぎ手は皆死んでいます。」

沖の岩場で様子を見ていたカケル達も、王が、船に乗り込む姿は捉えていた。しかし、一向に動き出す気配がない。バンは、もう少し様子がわかる場所まで船を進めた。甲板には数人の人影が、右往左往している様子が見えた。
「人影が少ないようだが・・・。」
「バン様、船を近くの磯に着けてください。様子を見てきます。」
カケルとエンは、磯伝いに、船着場に近づいた。
「おい、カケル、どうやら、十人も居ない様子だな。」
「ああ、大軍ではなさそうだ。」
「これなら、一気に攻めたほうが早いんじゃないか?」
「うむ・・」
カケルはそう返事をして、村のほうを見た。カケルは、たくさんの男たちが忍び寄ってくる気配を感じた。じっと目を凝らして様子を伺った。
「あ・・あれは・・タツル様だ。タツル様たちがここへ来ているようだ。」
カケルの言葉に、エンも村のほうを見た。すると、数人の男が、松原を抜け、船着場へ駆けてきた。そのうち、たくさんの男たちが次々に姿を現した。現れた男たちは、弓を構え、矢を放ち始めた。甲板にいた人影は、船の中に身を隠したようだった。

磯1.jpg
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