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3-3-19 大船発見 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

19. 大船発見
 カケル達一行は、イサの里の船着場から大船に乗り込んで、有明へ漕ぎ出した。
「一旦、東へ進み、海岸沿いを大浦の岬を回って進んだほうが良いでしょう。」
タカの案内で,船は少しずつ、筑紫野の国を目指して行った。途中、いくつかの小さな入り江に船を入れ、休みながら、三日ほどで、筑後川の河口に入った時だった。
「前方に、大船が居ます。」
見張りをしていたタカが大声で皆に伝えた。
カケルもエンも、バンも、船縁に出て、タカの指さす先にじっと目を凝らした。
「あれは・・きっと、ラシャ王の船だ。」
「ようやく、見つけたぞ!」
「今度こそ、掴まえてやる!」
皆、捜し求めていたラシャ王を見つけ、躍起になった。
先に見える大船は、南へ向け船を走らせていた。
「我らも、見失わぬよう後を追うぞ!」
バンが、漕ぎ手に声を掛けた。船は、大きく舵を切り、ラシャ王の船のあとを追った。
「どこへ向かっているのだろう?確か、この先には・・荒尾の浜がある。そこへ向かうのか?」
エンは、船縁にしがみついたまま、食い入るような視線を前方に送りながら呟いた。
「筑紫野では思うように事が運ばなかったのか?」
バンも同様に先を行く大船を凝視したままて言った。
「筑紫野の王も、ラシャ王の邪悪な考えを見抜いたのだろう。それで、きっとラシャ王をはねつけたに違いない。大体、姫を貢物など、恐れ多い事だからな。」
エンが、いい気味だといわんばかりに言った。しかし、タカが首をかしげながら言う。
「いえ、・・筑紫野の王カブラヒコはそれほどの器量の持ち主ではありません。ましてや、先代の王は、ラシャ王に負けぬほどの悪知恵の持ち主。九重を全て手に入れたいと常々言っておりました。ラシャ王の誘いに乗らぬはずはない。・・・私は、そんな筑紫野の王に仕えるのが嫌で飛び出したのです。・・・もしかしたら・・ハツリヒコ様が動かれたのかも・・、」
それを聞いて、カケルがタカに尋ねた。
「ハツリヒコ様は、聡明なお方なのですか?」
「はい・・ハツリヒコ様の母上は、女山一族の方で・・女山一族は、邪馬台国の王をお守りする一族の末裔でした。ですから、ハツリヒコ様は、先代の王から阻害されておられました。」

ラシャ王の大船は、荒尾の浜に入って行った。カケルたちは、すこしの手前で船を停めた。
「一気に、攻めてはどうだろうか?」
大船の上で、皆が集まって相談している。
「姫の命が危うくなるかも知れぬ。」
「では、何とか、大船に忍び込んで中の様子を探らねば・・。」
「しかし、船に忍び込むのは容易ではないぞ。」
「ああ・・狭い船の中では、すぐに見つかってしまうだろう。」
皆押し黙ったまま、頭を抱えていた。アマリがぼそっと呟いた。
「荒尾の浜の皆さんは、ご無事でしょうか?」
ラシャ王の兵たちであれば、行き着く浜で略奪をしているに違いなかった。姫を救うことばかりを考え、目の前で起きている事を皆、見逃していたのだった。
「そうか、荒尾の浜も今頃大変な騒ぎになっているはずだ。・・姫をお救いする事も大事だが、皆を救うことも大事なことだ。・・よし、行こう。すぐに、荒尾の浜に乗り入れて、兵たちを抑えなくては・・なあ、カケル!」
エンが言った。荒尾の浜では、カケルたちもタクマの里を出た後に、随分世話になっていたのだった。
「ああ、そうだな。だが、無闇に攻めてもどれほどの兵力かもわからない。先に、荒尾の浜へ行き、様子を探ったほうが良いだろう。」
「ならば、イサの里の時同様に、里の中に紛れるのが良いだろう。今度は、俺にやらせてくれ。」
エンが身を乗り出して行った。
「それならば、私も一緒に。」
アマリもエンと供に行くことになった。大船を近くの海岸に着け、夕暮れに紛れて荒尾の浜へ入った。荒尾の浜では、カケル達が想像したとおり、ラシャ王の兵達が、浜の家々を襲い、食料を略奪していた。松明を手に、家に火をかけると言って脅しては、僅かばかり蓄えてあった食料を次々に奪っていたのだった。
「あいつら、村人が抵抗しないことを良いことに、好き勝手しやがって!」
日が暮れてからも、兵たちは次々に略奪をしている。エンは、余りの惨状に耐え兼ねて、ついに弓を取り出した。
「エン様、大丈夫ですか?」
「ああ、暗闇から矢を放つ。奴らは松明を持っているから、狙いやすい。こっちは見つかりはしないさ。・・・アマリ、お前は、船に行き、様子を見てきてくれ。無理はするな!」
「はい。」
暗闇の中、静かにアマリは船着場へ向かった。エンは、松の木によじ登った。高い枝の上から、兵たちの動きが手に取るように判った。エンは静かに弓を構え、松明を持つ兵を狙った。
「ピュン」という音と供に、暗闇を割いて矢が放たれ、兵を射抜いた。呻き声をあげる間もなく、兵は倒れた。エンは、枝を移っては、別の兵を狙い、射抜いた。五人ほどの兵を次々に射抜いた頃、別の兵達がやってきて、射抜かれ死んでいる兵を見つけた。
「おい、殺られているぞ!」
「気をつけろ!どこかに兵が潜んでいる!」
「探せ!」
兵たちは、村の中を松明を持って走り回った。その兵たちを狙って、さらに矢を放ち、次々に兵を倒した。その内、兵たちの中には恐怖心が広がり、いきり立ち、家に火をかける者が出てきた。
「しまった!」
エンは、兵たちを煽った事を後悔した。大船で、エンたちの知らせを待っていたカケル達も、荒尾の浜に大きな火が立ち上るのを見つけた。明らかに家が燃えているのがわかった。
「バン様、仕方ありません。一気に攻めましょう。」
バンはすぐに船を進めた。船着場の大船は、篝火を焚いていて、カケル達には格好の目印になった。カケルは、弓を構え、船上に見える見張り役を狙い放ち、倒した。それに気付いて甲板に姿を現した者も次々にカケルの放つ矢に倒れた。バンは、静かにラシャ王の船に大船を横付けし、一気に、乗り移った。
船室に続く階段から、アマリが顔を出した。
「中には、王も姫も居ません。」
夜のうちに、一気にラシャ王の船はカケルたちの手に落ち、荒尾の浜も大きな被害も出ずに済んだのだった。

松原3.jpg
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