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3-3-18 タカ [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

18. タカ
「カケル!やはり、伊津姫様は、ここには居られぬようだ。」
姫の行方を捜していたエンが、館の中から飛び出してきた。
「やはり、そうか。ラシャ王は姫を連れて行ったのだな。」

館の入り口の段に横になり、介抱を受けていたハヤノヒコがその会話を聞いて言った。
「姫様?・・そう言えば、ラシャ王が姫様の話をしていました。」
カケルとエンは、ハヤノヒコに駆け寄った。
「ラシャ王は、何と言っていたのですか?」
カケルが尋ねる。
「館の下に閉じ込められていた時、上の広間から漏れ聞いた事なので・・・確かかどうか・・ただ、使い道が見つかったと・・・。」
「使い道?」
エンが驚いて更に訊いた。
「ええ・・・姫を連れて行けば、入り込めるだろうと・・おそらく、筑紫野の国へ向かったのでしょう。筑紫野の王に謁見する為に、姫様を貢物として使うつもりでは無いでしょうか?」
「人質の次は、貢物か・・なんて奴だ・・・・邪馬台国の姫を・・・。」
その言葉に、ハヤノヒコは驚いた。
「姫様とは・・・邪馬台国の姫なのですか?」
「ああ、伊津姫様だ。邪馬台国の王の血を受け継ぐ者。邪馬台国を再び興すため、遠く、高千穂の峰の麓から、ウスキへ戻られたのだ。俺は、姫の守人・・俺が不甲斐ないばかりに、姫にはこんな惨い目にあわせてしまった。一刻も早く、姫をお救いせねばならぬ!」
「邪馬台国の伊津姫様・・・何という事だ・・。」
ハヤノヒコは、周りに居る者に言って、館の段を上がり、皆を見下ろせる場所に立った。
「皆の者、聞いてくれ!」
ハヤノヒコは力の限りの声を張り言った。
館の前に居た者たちは皆ハヤノヒコを見た。
「我が里は、カケル様、エン様、バン様、アスカ様、アマリ様達のお力を借りて、無事取り戻す事ができた。この御恩、代々まで語り継ぎ、決して忘れるではないぞ!」
ハヤノヒコの言葉に、里に居た者たちは皆歓声を上げて応えた。
「そして、囚われてきた皆様は、それぞれの里に戻り、再び、穏やかな暮らしを取り戻すのだ。それが、御恩に報いる事だと心しよう。」
再び、歓声が上がった。囚われてきた者たちは皆、肩を叩きあい、復興を誓った。
「だが、一つ、我らはやらねばならぬことがある。我が里を襲ったラシャ王は、恐れ多くも邪馬台国の姫を捕らえた上に、筑紫野の国への貢物としようとしている。九重の守り主、邪馬台国の姫を何としてもお救いせねばならぬ。」
邪馬台国の名を聞いて、皆、驚きと畏れを抱いた。
「腕に覚えのある者は、力を貸してもらいたい。この方達と供に、ラシャ王を討ち、姫をお救いするのだ。どうだ!」
その言葉に、剣や弓を持った男達が、声を上げた。
「待ってください!」
カケルがハヤノヒコに言った。
「それでは・・筑紫野の国と・・いや、この九重で大きな戦になってしまいます。・・」
驚いたように、ハヤノヒコがカケルに尋ねる。
「しかし、伊津姫様をお救いするには、ラシャ王に討ち勝たねばならない・・我らとて、痛めつけられた恨みもある。このまま、放ってはおけぬ。・・もし、筑紫野の国が、ラシャ王に味方し、兵を持ってこの地に来るとも限らない。・・・」
「いえ、いけません。それでは、際限なく、戦を広げてしまいます。民が苦しむだけです。ラシャ王は、いずれ破滅します。今は、ラシャ王を討つ事ではなく、姫をお救いする事こそ、われらが願いなのです。」
「では、どうすればいいのでしょう?」
「イサの里の皆様は、まず、この里を以前のように穏やかな豊かな里にしてください。・・もちろん、ハヤノヒコ様がおっしゃるとおり、筑紫野の国が攻め込んでこないとも限りません。里を守る事は大切でしょう。・・だからこそ、腕に覚えのある方こそ、この里には必要です。・・いえ、島原の全ての里を守るためにご尽力いただきたいのです。」
「カケル様たちはどうされるのでしょう?」
「はい・・我らは、北へ向かいます。ラシャ王は筑紫野の国にいるはずです。行方を追い、とにかく、姫をお救いします。」
そこまで聞いてハヤノヒコは納得した。そして、
「判りました。あなた方の御恩に報いるためにも、我らはこの里を、島原を守ります。ただ、筑紫野の国まで、案内役を里の者にさせてください。」
「ええ、それはありがたい。」
「おい、タカは居ないか?」
ハヤノヒコの言葉に、館の前に集まっていた者達がタカを探した。
「タカ!お前、何してる!」
ひときわ甲高い声が、集まった者の外れのほうで響いた。里の中に立つ大楠の影から、男二人がタカを引っ張り出してきた。タカの手には剣が握られ、自らの首筋に付きたてた状態だった。
「死なせてくれ!俺は・・俺は・・・生きている価値は無い!」
半べその顔で、タカは喚いていて、男二人が何とか腕を掴んで押さえつけている様子だった。
「どうしたというのだ?」
「こいつ、さっきの戦いで、村の者を切ったのを悔いて、死のうとしていました。」
タカは、戦の最中、ムウを切りつけた兵であった。衣服にも返り血を浴びていた。
「タカ、ムウは無事だ。アスカ様のお力で、元気になったのだ。もう良いのだ。」
「しかし・・俺は・・・生きている資格はない。死なせてください。」
そう言って、また、抗おうとした。その様子を見ていたアスカが、そっと傍に行き、背中を擦った。不思議な事に、半狂乱になっているタカは、急に落ち着きを取り戻し、剣を落とし、座り込んでしまった。そこへ、カケルが近寄って言った。
「タカ様、自らの命を絶つのは最も罪深き事です。命ある者は、生きねばなりません。もし、あなたが罪を悔い、償うというのなら、今、あなたにできる事を、精一杯やってください。」
カケルはそう言ってタカの手を取った。ハヤノヒコが言う。
「タカは、筑紫野の国で生まれ、旅をして我が里に参った者です。筑紫野の知恵を我らにたくさん授けてくれた、里一番の働き者です。タカならば、筑紫野の国を案内できるはずです。」
それを聞いて、カケルはタカの前に跪いて言った。
「我らは、あなたの力をお借りしたい。是非、我らの先導をお願いします。」
タカは、周りの者たちを見た。皆、強く頷いていた。タカの目には大粒の涙が零れ、カケルの手をしっかりと握った。

千々石海岸2.jpg
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