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3-3-17 合図 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

17. 合図
「合図だ!ヨシ!」
小屋で息を潜めていた男たちが応えた。
小屋に居た男たちが、一斉に小屋の板塀を壊し始めた。体当たりをする者、蹴りつける者、上によじ登り揺らす者、小屋全体が大きな音に包まれた。メリメリと音を立て、小屋が崩れ始めた。一気に、小屋の中の者たちが、外へ飛び出した。子どもたちや母親たちは、里のはずれの畑へ身を潜めた。
ラシャ王の子分たちは、明け方の突然の騒ぎにおどろいて、館から飛び出してくる。

カンが男たちを纏め、ラシャ王の手下へ向かっていった。
男たちは、壊れた小屋の板や柱を武器にして、兵に立ち向かおうとした。しかし、剣や弓で襲ってくる兵には叶うはずも無い。一人、またひとりと切られていく。徐々に、兵達のほうが勢力を増してきて、ついには、男たちは兵に取り囲まれてしまった。カケルは、何とか、男たちの基へ向かおうとした。しかし、館の上に、迫ってくる兵と剣を交え、なかなか前へ進む事ができなかった。

「ハヤノヒコ様をお救いしたぞ!」
ムウが、大声で叫ぶ。しかし、男たちの耳には届かない。カケルは焦っていた。このままでは、兵達に負けてしまう。
ムウは、再び大声で叫ぼうとした。その時、兵の一人がムウに切りつけてきた。肩口を切られ、ムウはその兵にすがり付いた。そして、耳元で、喘ぐような声で言った。
「ハヤノ・・ヒ・・コ 様を・・お救い・・し・・た。」
切りつけた兵はその言葉を確かに聞いた。血を流し倒れこむムウを抱え、
「長さまをお救いしたのか?おい!しっかりしろ!」
「・・ああ・・そうだ・・」
ムウはそう言った後、気を失い倒れこんだ。
兵士は、イサの里の者だった。長が捕らえられやむなく兵に加わった一人だった。
「うおーっ!」
兵士は、唸り声を上げた。そして、今まで、捕らえられた男たちに向けていた刃を、ラシャ王の兵に向け、向かって行った。周りに居た兵たちにも、その事は伝わった。イサの里の者達が一気に、ラシャ王の兵士へ向かい戦い始めたのだ。
剣と剣がぶつかりあい、更に激しい戦いとなっていく。イサの者たちの中にも、切られ怪我をする者が出始めた。
「このままでは多くの者が傷つき倒れる。何とかせねば!」

その時だった。手にした剣が、突然、眩しく輝き始めたのだ。ようやく朝日が顔を見せるくらいの時間である。薄暗い中で、カケルの剣の光は、里の全てを照らし出すほどの輝きを放った。戦っている者、皆、驚いて、光の在り処を見た。
「これ以上、無益な戦いは止めるのだ!」
カケルはそう叫ぶと、剣を高く掲げた。すると、体がぶるぶると震えだし、鼓動が強く打ち始め、手足が膨らみ、獣人に変化していく。大きな雄たけびを一つ発し、館の上から飛び上がり、戦いの間に割って入った。
余りの迫力に、ラシャ王の兵も、イサの里の者、捕らえられた者たち、皆、引き下がり怯えた。カケルは、キッとラシャ王の兵士を睨みつけ、剣を構えた。睨みつけられた兵士達は、獣人と化したカケルに恐れをなし、皆、武器を投げ捨てて、里から逃げ出し始めた。

沖に居たバンの船も、火矢を合図に、船着場を目指していた。
船着場には数人の見張り役が見えた。近づく大船を見て、王の船かとじっと見ているようだった。岸が近づいたところで、船縁に身を潜めていた男たちが、一斉に矢を放つ。空から降り注ぐ矢に、見張りの男たちは恐れをなし、逃げ出した。難なく、バンは船着場に大船を着け、停まっている船を手に入れた。
そこに、里から逃げ出したラシャ王の兵達が、船着場を目指してやってきた。皆、我先にと船に乗り込もうとした。しかし、停まっていた大船にはすでに、バンたちが乗り込み、船べりから弓を構えて、待ち構えていた。逃げてきた兵に、容赦なく、矢が放たれ、次々に倒れていく。僅かな時間で、ラシャ王の兵は全滅した。

「皆、無事か?」
カンが周りの男たちに訊いた。数人は、剣で切られ怪我はしているが、命には別状は無い。最少の犠牲で、里は無事に取り返すことが出来た。そこへ、ハヤノヒコが、脇を抱えられ、皆の前に姿を見せた。
「ハヤノヒコ様!」「長さま!」
村の者たちはみな駆け寄り、ハヤノヒコの様子を伺い、声を掛けた。
船着場から、エンやアスカ、アマリたちがやってきた。
「兵たちはバン様が全滅させた。もう大丈夫だ。」
エンがそう言うと、皆、歓声を上げた。畑に隠れていた子ども達も、次々に里に戻ってきた。
カケルは、戦いが終わった事が判り、獣人からもとの姿に戻っていた。アスカは、カケルの姿を見つけ、すぐに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
カケルは、随分体力を使った様子で、肩で息をしていた。カケルは、アスカの方を借りて皆のもとへ戻った。
「カケル様!・・ムウが・・ムウが・・」
カンが横たわったムウを抱き起こして叫んだ。ムウは、兵士に切られ、肩口から血を流し、息も絶え絶えになっている。辺りにいた者たちは皆ムウの容態を心配している。
「アスカ、頼む。」「はい、判りました。」
カケルは、その場に座り、アスカはまっすぐムウのもとへ行った。
アスカは、もう息も弱く意識も薄れ始めているムウの横に跪いた。
周りに居た者たちは、アスカの所作を見守った。アスカは、じっと目を閉じ、ムウの手を握った。そして、血が流れ出る肩口に、もう一方の手を当てる。すると、アスカの体から不思議な光が零れはじめ、アスカとムウ全体をぼんやりとした光が包み始めた。皆、固唾を呑んでその様子を見つめた。
しばらくすると、ムウが目を開き、辺りを見回してから言った。
「皆、無事か?」
「ムウ、ムウ。お前、大丈夫か?」
傷口はすっかり治っていて、ムウは元気に立ち上がった。
皆、アスカが起こした奇跡を目の当たりにし、驚いた。
しばらくの沈黙の後、お互いに肩をたたきあって歓声を上げた。

有明の朝.jpg
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