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3-5-16  別離 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

16.別離の日
大王を倒し、邪馬台国再興を誓ってから、葦野の里では、皆が手分けして、里を修復していた。戦に備えて作られた大きな濠は一つを残して全て埋められた。里を取り囲んでいた高い塀も取り払われ、獣除けの木の柵に作り替えられた。
大王が使っていた宮殿は、里の皆が集まり、相談事や祝の席を開ける集会所に開放された。
当初は、女王の居所として使うべきだという里の者も居たが、伊津姫が、自分の居所は小さくて良いからと言い、祭壇を兼ねた小さな館を里の北側の田畑の広がる場所の真ん中に設えた。家々には、兵として離れて暮らしていた父御も戻り、田畑を耕し、狩りをする平穏な日々が戻り始めていた。
「戦は終わったのですね。」
そう言って、葦野に現れたのは、イノヒコだった。
イサの里の長、ハヤノヒコも伴って葦野に来たのだった。一部始終をタツルやエンから聞き、ハヤノヒコも邪馬台国の誓いを立てた。
伊津姫は、居所から田畑を眺めるのが楽しかった。また、日のあるうちは、里を回り、人々の暮らしを見て回った。時には、母御たちと伴に、田畑の仕事もした。幼い頃から田畑の仕事を教えられてきた伊津姫には、里の者と混ざって仕事をすると、ナレの村を思い出し、楽しかった。里の者たちも、伊津姫から教わることも多く、子どもたちも、絶えず、伊津姫の居所の周りで遊ぶようになった。
エンはすっかり体も癒え、男たちとともに、里の修復や田畑の仕事、狩りに出るようにもなっていた。朝日山や日の隈山にあった砦にも、人々が暮らし、狩りに出ると必ず立ち寄るようになっていた。

土筆が芽を出し始めた頃、いよいよ、皆が葦野を離れ、それぞれの里へ戻る時がきた。
ハツリヒコとイクマヒコ、そして、ハクタヒコは、伴に、葦野を支える里として、二年に一度、葦野に来る約束をした。
タツルもタクマの地へ立ち寄り、様子を確認した後、サンウの居る瀬田へ戻る事にした。
阿蘇からつれてきた若者たちは、今しばらく、葦野に留まり自分のアスカケを見つけて戻りたいと言い、女山までハツリヒコと伴に戻る事にした。
タンとハヤノヒコは隼人の長ムサシと供に、有明海から船で戻る事になった。
「バン様、どうされる?我らとともに、隼人の里へ行かぬか?」
ムサシは訊いた。バンは、里をラシャ王に壊され、すでに戻るべき地は無かった。
「いえ、私はここでやるべきことを見つけました。・・イノヒコ様のように、里を回り、それぞれに地で見てきたことを、伊津姫様にお知らせする使者になります。我が罪は決して消えませぬ。その償いに、一生、伊津姫様のために働きたいと思います。」
それを聞いて、アマリが言った。
「ならば、私も・・バン様と伴に行きます。・・よろしいですか。」
アマリの言葉は皆を驚かせた。バンは、親を殺した仇である。
一番驚いたのは、当のバンであった。
「私は、親の仇なのだぞ?・・もっと、自分を大事にして生きねば駄目だ。」
「もう、良いのです。すべて過去の事です。私達は、邪馬台国という明日を作る約束をしました。これからは、バン様をお手伝いして生きたいのです。」
「良いのか?」

大門には、里へ戻る者たちを見送る為、多くの者が集まっている、
「本当にこれで良いのですか?」
「ああ、約束だろ?」
見送りに出ていた伊津姫とエンも、アスカを見て微笑んだ。
「大丈夫、この邪馬台国は多くの人が支えて下さるのです。エンも私の傍にいます。カケルが決めたことに間違いなどありません。傍を離れず、アスカ様の生まれた場所を見つけてください。」
伊津姫は、微笑んでそう言った。
カケルが言う。
「那津の者から聞いたのだが、アナトの国に大きな港があるそうだ。そこに、お前が持っている首飾りにあるのと同じ文様を刻んだ船が、昔、いたそうだ。」
「アナトの国?」
「ああ、ハクタヒコ様の里、那津から更に北へ行く。そこには、瀬戸の海と大海を繋ぐ関があって、多くの船が行き交うところらしい。」
「では、そこに行けば何かわかると・・。」
「ああ。お前の力はその首飾りがもたらすものだ。きっと、何か大きなものがあるように思うんだ。・・・今まで、私も何度もその力に救われてきた。私の命が在るのは、お前の力あってのものなのだ。これからは、お前のために生きる。それが、私のアスカケと決めたのだ。」
アスカはじっとカケルの目を見ていた。カケルの目には、アスカだけが映っていた。
「さあ、そろそろ、参りましょう。道案内は私に任せてください。」
那津一族ハクタヒコが声を掛けた。
ここから、カケルとアスカの新たなアスカケの旅が始まるのであった。

・・第4部へ続く・・・

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