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2-29 勝山へ [アスカケ第4部瀬戸の大海]

29.勝山へ
「カケル様とアスカ様がお目覚めになりました。」
隣の部屋で、二人の様子を見ていたアヤが部屋に飛び込んできた。
兄役もイクナヒコも皆立ち上がり、二人の居る部屋に行った。ちょうど、カケルがアスカを抱き起こし、様子を確認していたところだった。
「気が付かれたか?」
ツキヒコがカケルの脇へ行き声をかける。
「長様はいかがですか?」
目覚めたばかりのアスカが、訊いた。
「そなたのお力で、お元気になられました。礼を申します。」
ツキヒコがアスカへ深々と頭を下げる。他の兄役も同じように頭を下げた。
「もう大丈夫なのですか?」
ツキコが尋ねる。
「ええ・・大丈夫です。カケル様は如何ですか?」
「少し力を出しすぎたようだ。だが、もう大丈夫です。ご心配おかけしました。」
二人は正座すると、皆に頭を下げた。ちょうどその頃、二人が目覚めたという知らせが郷にもめぐり、館の外では歓声が聞こえていた。
「郷の皆も喜んでおります。アスカ様、カケル様は我ら一族をお救い下された。本当に、何と礼を言って良いのやら・・。」
ツキヒコは再び頭を下げた。
「もうおやめください。・・・それより、イクナヒコ様、和平のお話は如何なりましたか?」
カケルの問いに、ツキヒコとイクナヒコは顔を見合わせ、お互いにカケルに笑顔で答えた。

翌日には、アスカも歩けるほどに体力が戻った。
カケルとアスカは、隣の部屋に居る、宇和一族の長の様子を伺いに行った。
長は、起き上がれるほどに回復していた。熊が千切った腕は戻らぬものの、他の傷は随分と癒えて、痛みも無い様子だった。
「そなたがアスカか?・・・命の恩人だ。礼を申す。・・それと、カケル様は、祟り神になった熊を討ち、供養してくれたそうな。・・重ねて、礼を申すぞ。」
長は、侍女に体を支えられながら、笑顔で言った。

一行は、半月ほど卯の郷で過ごした。

「俺は、大したとりえは無いが・・・道普請は得意なんだ。・・これから、ここと喜多の里とを繋ぐ道の普請をしようと思う。道が出来れば。行き来も出来る。そうなれば、ここも潤うだろう。」
ツチヒコは、ツキコにそう告げると、郷の若衆と協力して、鳥坂への道普請を始めた。結局、ツキコは、兄役とも相談し、ツチヒコ共々、卯の郷に残る事になった。
一族の長は、足と腕を痛め満足に動けないからと、兄役のツキヒコに長の座を譲った。
イクナヒコは、ツキヒコと改めて和平の契りを交わし、その証として、お互いの剣を交換し、さらに、普請ができた暁には、喜多の里で年に一度会う約束もした。

アスカとカケルが起こした「奇跡」の話が広がり、二人のお顔を一目見たいという者が、毎日のようにやってきて、二人の居る部屋の前には、神を崇めるような火と列ができていた。中には、病を治して欲しいと多くからやってくる者もいた。しかし、アスカは、長を救った時、力を使い果たしたのか、なかなか体力が戻らず、部屋の中で横になる日が多かった。
カケルは、郷のまわりから薬草を集め、少しでも皆の願いが叶うよう働いた。

いよいよ、勝山に戻る日が来た。
鳥坂までの山道は、ツチヒコの普請で、来た時とは違い、随分と整備されていた。宇和一族のミコト達も、喜多の里まで同行した。
「アスカ、体は良いか?」
カケルはアスカの手を引きながら、労わりの言葉を掛けた。アスカはニコリと藁って答えた。
喜多の里に着くと、イクナヒコは、ミコト達を勝山から運んできた米や干物の蔵に案内し、「必要になれば、いつでも、ここへ取りに来れば良い」と話した。ミコト達は喜び、背負子に山ほど積んで戻って行った。
勝山までは、なだらかな丘を越える道が続く。先に、喜多の里からの使いが勝山に着いていて、すぐに、王は迎えの者を差し向けた。勝山の入口で、一行は熱い出迎えを受けた。
「王様、今、戻りました。」
王の館の庭に、イクナヒコ、アヤ、カケル、アスカが跪き、挨拶をした。
「万事、上手く運んだようだな。」
王は、侍女に支えられながら、表に出て一行を迎えた。
「はい。アスカ様とカケル様のお力で、宇和の長の命を救えましたゆえ、和平もなりました。」
イクナヒコが答える。
「そうか・・・アスカ。カケル、礼を申します。これで、イクナヒコは新しき王として伊予のために尽くしてくれるな?」
王は嬉し涙を流しながら、イクナヒコを見つめていた。
「はい。宇和一族とも誓いを立てました。王の名を汚さぬように致します。」
「よし・・今宵は宴じゃ。さあ、支度をせよ!」

2-29鳥坂峠2.jpg
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