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4-1 大和からの知らせ [アスカケ第5部大和へ]

1. 大和からの知らせ
カケルは、難波津宮へ戻ってから暫くは、アスカとタケルと伴にゆっくり過ごした後、摂津比古やソラヒコに案内されて、難波津の都の様子や、水路の具合、干潟を利用して広げられた水田の状態などを見て回った。
難波津の都は、もとの館があった場所より少し東側に、宮殿が新たに作られていて、そこから、堀江の庄まで、大路がつながっていた。大路には、太い柱を持った屋敷や倉が立ち並び、さらに外側に、民の家が広がっている。
堀江の庄は、最初は水路を掘り上げる為に寝泊りする程度の簡素な作りだったはずだったが、徐々に多くの者が集まり、水路を使って、明石からの大船も通るようになり、草香江の中にも桟橋が広がって、都の南側の港と水路側の港で競い合うように栄えていた。
ソラヒコは、水路側の港を仕切るほどの役を任せられていた。病を患っていた頃には考えられないほど、多くの者がソラヒコのもとに集まっていた。
昔、”念じ者“と呼ばれていた者達もみな元気になり、ソラヒコを助け、さらには、山背の国とも行き来する仕事も始めていた。
水路の様子を見ながら、カケルはソラヒコと伴に、草香江の畔に立っていた。
「カケル様、大和は如何でしょうか?」
ソラヒコは、集まってくる荷が山背の国へ運ばれる様子を見ながら、カケルに訊いた。
カケルも、大和の様子が気がかりになっていた。
「皆、しっかり働いているでしょう。きっと、大丈夫です。」
「早く、ここの荷を大和にも運べるようになると良いですね。」
「ええ・・きっと皆、喜びましょう。ソラヒコ様は大きな仕事をされましたね。」
「いえ・・私はカケル様に、新たな命をいただいたのです。カケル様の願いを少しでも叶えられるよう働いただけですから・・。」
カケルは、ソラヒコの言葉を聞きながら、目の前に広がる、豊かで賑やかな風景を感慨深く眺めていた。
「大和より、使者が参られました。」
そう伝えに来たのは、ソラヒコと供にカケルを手伝い、水路作りを勧めたイシヒコだった。
「お久しぶりです。カケル様。」
イシヒコは、手を患っていたが足が速かったため、水路作りの時には、それぞれの持ち場の連絡を取る役を果たしていた。今もそれは続いていた。
「お元気でしたが・・・今も変わらず、風のように森の中を駆け抜けているのですか?」
「はい。」
イシヒコは、少しはにかんだような表情を浮かべて答えた。そして、思い出したように言った。
「先ほど、大和から使者が着かれました。船で着かれたようでしたが・・宮殿でお待ちです。」
すぐに、カケルはソラヒコたちと供に、宮殿に戻った。
宮殿の広間には、葛城の皇君や摂津比古、モリヒコたちが、使者を迎えていた。
「おお、カケル、参ったか。・・さあ、こちらへ。」
カケルは、皇君に呼ばれ、玉座の隣に立った。
「カケル様!・・大和は・・大和はようやく鎮まりました。」
そう言って、顔を上げたのは、レンだった。涙ぐんでいる。
「レン様、・・よく知らせてくださった。皆、元気でしょうか?」
カケルの顔を見て安心したのか、レンは返事も出来ず、その場に座り込んでしまった。
「よほど急いで来たのだろう。おそらく、少しも休む事無く走り続けたに違いない。少し、休ませたほうが良かろう。」
摂津比古がそう言うと、何人かの女人が現れて、レンを奥の部屋に案内した。
「概ね、レンより聞いた。物部も蘇我も倒れたようじゃ。どうやら、平群一族のヒビキが采配を振るい、磯城宮を手中にしたようだ。イコマノミコトも供に居るそうじゃ。もはや、戦は起こるまい。これでようやく大和も静かになる。」
葛城王がそう言ってカケルを見た。カケルは、様子を理解し頷いた。
「だが・・これからだな。今、大和の国は束ねる者が居らぬ。平群のヒビキでは、再び、豪族が力を持ったと思い、民は簡単には力を貸さぬだろう。」
摂津比古が言うと、カケルが言った。
「ヒビキ様にはそのような野心は無いと思いますが・・。」
「たとえ、野心が無くとも、皇族が居らぬようでは、やはり民は従わぬであろう。・・葛城の皇君が大和へ戻り、新たなる宮にて世を治める事を民は待っておるに違いない。しかし・・今、難波津へ都を移したばかりだからなあ・・。」
それを聞いていた葛城王が言う。
「大和は、倭国の要。都を難波津へ移したといっても、やはり古より皇族の住まいは大和。いずれは、大和へ都を戻さねばならぬことは承知しておる。・・おお、そうだ。カケル、そなたが余に代わり、大和の王として治めてはくれぬか。」
葛城の皇君の言葉に、カケルは驚きを隠せなかったが、摂津比古は賛同した。
「いずれ、葛城王の跡継ぎとして、皇となるのは、カケル様に違いない。良きお考えです。」
カケルは答えた。
「私は、王になる身ではありません。それに、葛城皇の跡継ぎとしての資格もありません。しかし、葛城の皇君の臣下として、大和が安寧に治まる事は我が望みです。臣下として存分に働きましょう。」
それを聞いて、葛城皇が言った。
「良かろう。・・・そなたを国造(くにのみやつこ)とし、大和へ遣わす。良いな。」
カケルは承諾した。

3-21宮殿.jpg
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シラネアオイ

おはようございます。
PCの方を更新されたのでしょうか?!
by シラネアオイ (2012-07-17 09:13) 

苦楽賢人

シラネアオイ様、コメントありがとうございます。

PCの更新は少し先になりました。が古いパソコンが突然復活しまして・・・再び、ちまちまと始める事になりました。

少しお休みいただいたので、お話の筋がちょっと変かもしれませんが・・直木賞を狙っているわけではありませんので・・ご容赦下さい。

引き続き、お気楽な調子で続けて参ります。よろしくお願いします。
by 苦楽賢人 (2012-07-17 21:52) 

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