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5-11 アスカケの道 [アスカケ第5部大和へ]

11.アスカケの道
皐月の一日、平城の皇君の即位式が、平城宮で執り行われた。
それまでばらばらだった神器が、平城宮に揃い、盛大な即位式となった。
難波津や明石、美濃や伊勢、西海からも、カケルやアスカとともに、今日まで歩んできた者達が集まった。荘厳な式の後、広間では宴が催された。余りの客の多さに、宴の席は広間に収まらず、宮から大門までの通りにも、俄かに席が設えられた。
カケルとアスカは、その席を一つ一つ回り、挨拶をして回った。
「平城の皇君様、お初にお目にかかります。美濃の長ヤクマでございます。此度の祝いに珍しきものを持って参りました。さあ、つれて来い。」
美濃のヤクマが引き出してきたのは、大きな黒馬であった。
「美濃の隣、木曾一族が皇君への忠誠の証として献上したいと申し、我らが引き連れてまいりました。いかがです、見事なものでしょう。」
アスカは、馬を見て、阿蘇で過ごした日々を思い出していた。風のように丘を駆ける馬の背に乗り、阿蘇の里を走り回った日々、あのままあの地で二人で暮らすことを夢見ていた頃が懐かしかった。
「皇君、乗ってみますか?」
カケルがふっと言った。これには、美濃のヤクマが驚いた。
「馬に乗れるのですか?・・・それはきっと木曾一族も喜ぶでしょう。」
躊躇うアスカを見て、カケルはさっと馬に跨った。周囲から驚きと賞賛の声が上がった。
「さあ・・少し、昔を思い出し楽しみましょうぞ。」
カケルはそう言うと、そっと手を差し伸べた。アスカが手を差し出すと、カケルの強い腕力で一気に馬の背にアスカの身体を引き上げる。
「大和を一回りしてくる。日暮れには戻る。」
カケルはそう言い放つと、馬の腹を蹴った。馬は一啼きすると、一気に駆け出した。
周囲に居た者達は、突然、二人が宮を出て行ったのに慌てて、大門辺りまで追いかけたが、すぐに見失ってしまった。
「おい、船を出せ、追いかけよう。」
そう言ったのは、モリヒコだった。モリヒコはハルヒの手を取ると、二人で船に乗り、大沼に出て、カケル達の馬を探した。
大和は、道普請が進んでいて、一巡りする事ができた。
カケルは、平城宮を出て、春日の里、布留の里、石上宮、磯城宮、畝傍の砦まで一気に駆け抜けた。アスカは、カケルの背にもたれ、風のように走る馬上で、特別な感覚に包まれていた。
九重のモシオの村でカケルと出会い、長い旅を続けてきた。その間、ずっとカケルの背を見続けてきていたようだった。九重では多くの里を巡った。阿蘇ではほんの僅かだが、落ち着いた暮らしをしていた。瀬戸の内海では、幾度も命を落としそうになりながらも寄り添い、多くの人の助けを受けた。難波津では、父との再会を果たし、終にこの大和の地で国母となった。あのモシオの里で、カケルと出会わなければきっと今もあの村でやるせない日々を過ごしていたに違いなかった。走馬灯のように、過ごした来た日々が思い出され、何故か涙が溢れてくる。アスカはカケルの身体に回した手にぐっと力を込めた。
「アスカ、怖いか?ゆっくり走ろうか?」
「いえ・・大丈夫・・・風が心地良いわ・・。」

これより後、皇君となったアスカは、三日に一度はカケルの操る馬の背に揺られ、大和の里を回り、民の暮らしを見て回った。そして、何か困った事があれば、すぐに手立てを施した。そのうちに、民たちも皇君の巡行を心待ちにするようになっていた。
アスカとカケルは、偉大なる皇君と素晴らしき摂政として崇められ、倭国に知れ渡った。
大和はますます隆盛を極め、倭国の多くの里から人が訪れるようになり、難波津も西海の国々の玄関口として大いに栄えた。

即位から15年。赤子だったタケルも、「アスカケ」へ出る年となった。
周囲の者は、皇子が旅に出る事を反対したが、幼い頃から父カケルの話しを聞き育ったタケルは、父以上のアスカケを手に入れたいと願い、17の年に大和を旅立った。アスカケの伴には、サスケが選ばれた。二人は、伊勢、美濃を回り、北国を一回りした後、出雲を目指した。そして、カケルに負けぬほどの多くの伝説を作り、再び、大和に戻ってきた。
アスカは、息子タケルが大和へ戻るとすぐに、皇位を譲った。

皇位を退いたアスカのために、カケルは、畝傍の砦を改修して、飛鳥宮とした。
二人は、平城の宮を出て、飛鳥宮へ入ると、しばらく静かに暮らした。
カケルが還暦を迎えた年の始め、アスカが切り出した。
「カケル様・・・九重へ行ってみませんか。」
「九重か・・・遥か遠くなったが・・・もはや、戻ることもなかろうと思っていたのだが。」
「大和は安泰。タケルもしっかり皇君の勤めを果たしております。懐かしき御方にもお会いになられたら如何でしょう。・・邪馬台国もきっと素晴らしき国となっておりましょう。」
「そうだな・・・この先、これまで世話になった方々へお礼をせねばなるまい。行ってみるとするか。」
「ええ・・是非にも・・・。」

冬の夜空に煌々と月明かりが降り注いでいる。カケルは、遠く西の空を見上げ呟いた。
「まだまだアスカケの道は続くようだ・・・。」

月明かり.jpg
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