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33.キラとフローラ [AC30第1部グランドジオ]

「あら、フローラは眠ったみたいね。」
ベッドサイドに戻ったガウラは、フローラの様子を見て言った。
「ええ、やはり、まだ体力がないのでしょう。」
「そうね・・狭いライブカプセルに長い間閉じ込められていたんですもの・・それにしても、どれくらい長い間居たのかしらねえ・・・。」
「ライブカプセルは、100年以上耐えられるものですから・・・。」
「そうね・・・いつ生まれてどうやってここまで来たかなんて・・彼女には全く分からないでしょうね。たとえ覚えていても、それは、もう遠い遠い世界のことかもしれないんですもの。ライブカプセルじゃなくて、タイムカプセルよね。」
キラは、今になってフローラが置かれている状況に気づき、胸を痛めた。
「これからしばらくは私が面倒を見るわ。コムブロックに行けば、みんなにどんなひどい言葉を浴びせられるか判らないもの。大丈夫よ、きっと、いつかみんなも理解してくれるはず。…それより、キラ、あなたは大丈夫?」
ガウラが労わるように言った。
「ええ・・ガウラさんが皆に話してくださったので、大丈夫です。・・また、明日、来ます。」
キラがそう言ってベッドから離れようとした時、眠っていたはずのフローラが、キラの手を強く掴んだ。
キラはいきなりの事で驚いて、フローラを見た。
フローラは、淋しげな眼をしてキラを見ていた。
「大丈夫だよ・・フローラ、ガウラさんは信用できる。きっと君を元気にしてくれるよ。」
キラがそう言っても、フローラはキラの手を離そうとはしなかった。
「まあ、いいわ。今日は、キラもここに残って・・ベッドは幾つも空いてるんだから・・。」
ガウラはそう言うと、隣に置かれたプリムのベッドを、ハンクとアランに言って、部屋の隅へ動かした。
アランもハンクも、フローラの様子を気にしながらも、ドラコに飲み込まれてしまったプリムが一向に回復しないのを心配していた。
「アラン、ハンク、あなたたちも疲れたでしょう。もう帰りなさい。」
しかし、プリムの容態は依然として回復するようには思えなかった。むしろ、徐々に麻痺が広がっているように思えた。
「でも・・プリムの奴、何だか・・」
ハンクが言いかけたところを、アランが止めた。
「大丈夫さ。きっと良くなるさ。」
アランはハンクの肩を抱くようにして、ホスピタルブロックを後にした。

キラは、フローラの傍に残る事にした。
「随分、気に入られてしまったみたいね。」
ガウラが少し茶化すようにキラに言った。
キラは戸惑っていた。
「ここへ連れ帰る時も、僕の背中にしか乗ろうとはしなかったんです。どうしてでしょうか?」
「さあ・・わからないわね。・・きっと、何か・・彼女の心に触れるようなものがあったんでしょう。」
「そんな・・」
「私、疲れたから休むわね。・・奥のセルに居るから、何かあったら起こして。」
ガウラはそう言うと、キラをフローラの傍に残して、さっさと奥へ入ってしまった。
フローラは静かに寝息を立てている。
だが、右手でしっかりとキラの手を握って離さなかった。仕方なく、キラはベッドの脇のイスに座った。
キラはふと、ガウラとの会話を思い出していた。
どれくらいの時間、彼女はあの狭いライブカプセルの中にいたのだろう。10年、20年、いや100年・・・もっと長くかもしれない。もう生まれた場所はすっかり変わっているに違いない。そして、戻る事もないのだ。こんなにも幼いにもかかわらず、なぜ、オーシャンフロントから逃げて来なければならなかったのだろう。命が助かったとしても、誰一人知る人のないこの場所で、彼女はどんなふうに生きていくのだろう。
余りにも過酷な運命に置かれている事を改めて想像し、急に胸が痛くなった。そして、静かに眠っているフローラの額にそっと手を当てた。少しひんやりとしていた。
キラは、長い時間、彼女の寝顔を見つめているうちに、うとうとし始め、そのまま眠って知った。

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