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54.目覚めたフローラ [AC30第1部グランドジオ]

キラたちが旅立ちの準備を進めている間、ガウラは、フローラの世話をした。
フローラは、ぼんやりとした意識の中で、朝と夕に目覚め、食事を摂ると再び眠りに落ちる事の繰り返しだった。そして、目覚めるたびに、ぐんぐんと成長をしていくのが判った。
ハンクは、プリムが少しでも早く普通に動けるよう、リハビリに協力していた。
こうして、長い長い極寒の季節がようやく終わりを告げようとする頃になった。
「さあ、準備は整ったな。」
「ああ、明日には出発できそうだ。」
二人がそう決めた日に、フローラが、はっきりとした意識を持って、目覚めた。
フローラがここに運ばれた時はまだ10歳程度の幼い少女だった。しかし、今は、立派な女性の体格に成長していた。ほんの数か月の間に、5年、いや10年近く成長したように見える。
ガウラがフローラのバイタルチェックをしていると、フローラが叫んだ。
「キラはどこ?キラを連れてきて!」
フローラが、はっきりとした意志を持って初めて口にした言葉だった。
旅立ちの準備をしていたキラが、CPXとともにすぐにやってきた。

「フローラ、目覚めたんだね。大丈夫かい?」
ベッドの脇に立って、キラは優しく声を掛けた。まともに会話をするのは初めてだった。フローラは、キラをじっと見つめたまま、小さく頷いた。
その表情は、浜辺で初めて見た時とは別人だった。あの時は、あどけない表情が残る少女に過ぎなかった。だが、目の前のフローラは、明らかに大人の女性であった。
「体の方は良いみたい。急激な成長も止まったわ。もう大丈夫よ。」
ガウラがほっとした表情で答える。
「そうだ・・僕はアランと・・CPXと・・その・・明日、旅に出るんだ。しばらくは戻れないだろう。」
フローラは明らかに不安な表情を浮かべた。
「・・ああ、大丈夫さ、君がここでちゃんと暮らせるように、みんなにお願いした。ガウラ先生もいるし、ハンクもいる。君をちゃんと守ってくれるから、安心して・・。」
キラは、フローラの変貌に少しドギマギしながら言った。ただ、ガウラが以前に、体は成長しても知能はどうか判らない、もしかしたら10歳のままかもしれないと言ったのを思いだし、言葉を選びながらだった。
「私も連れて行って下さい。」
フローラは、落ち着いた声で、言い出した。
「いやダメだよ。・・とても危険な旅なんだよ。・・無事に戻れる保証はない。ここに居なきゃだめだ。」
キラは反対した。
聞いていたガウラも言った。
「まだ、目覚めたばかりでしょ。まともに歩けるかどうかも判らないし、足手まといになるだけよ。危険すぎる。きっとキラは無事に戻ってくる。・・ね、ここでキラたちの帰りを待っていましょう。」
「嫌です。一緒に行きます。」
フローラの意志は固いようだった。
すると、CPXがフローラの前に転がり出た。
「フローラ様、覚えておいででしょうか?CPX4915です。」
白いボール状のCPXをフローラは、CPXの事を思い出せないのか、じっとしばらく見つめていた。
すると、CPXがいきなり大きく膨らみ、卵状になって、フローラを包み込んだ。そして、何度か、青白い光が点滅した。中から、フローラの呻くような声が聞こえた。
5分ほどその状態が続いて、光がぼんやりと赤く変わると、徐々に萎み始め、フローラを覆っていた膜のようなものが糸状になり、するすると縮まると、CPXはもとの状態に戻った。
「フローラ様にこれまでの事を全てお教えしました。もう大丈夫です。」
フローラは、大粒の涙を流していた。
「僕たちは、ここに住む人たちの未来を拓くために旅に出るんだ。判ってくれるね?」
キラが訊くと、フローラは小さく頷いた。

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