SSブログ

1-27 三度目の思念波 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

ふと、亜美は思いついた。
佐原氏も、上村氏も、下川氏も、いずれも周囲からの評価は悪くない。むしろ、善人の部類に入ることが共通している。社長や議員や医師という社会的にも比較的高いポジションにも居る。問題を抱えているという情報もほとんど上がっていない。なにか、そのことが重要な共通項のように思えてきた。そして、それは、過去に犯した罪を悔い改めて、生き直そうと決意した結果なのではないかとも感じていた。
「では・・」と亜美が切り出そうとした時、目の前のレイが急に頭を抱えた。亜美は、昔、レイにあった時、同じような光景を見たことを思い出していた。
「うう・・・。」
レイは随分苦しそうな表情を浮かべている。
「レイさん、大丈夫?」
そっと肩に手を置き声を掛ける。
「感じる・・思念波を・・酷い苦しみの色・・・。」
レイが小さな声で答える。
そこへ、一樹が戻ってきた。
「一樹!レイさんが・・・。」
亜美は一樹を呼ぶ。
「レイ!」
レイは、そのまま、机にうつ伏して気を失ってしまった。一樹はレイを抱え上げ、「亜美、院長室へ連れて行こう」と言ってエレベーターホールへ向かった。

院長室に入ると、一樹はレイをソファに横たえさせた。
「酷い苦しみの色を感じるって・・・。」
亜美は横たわったレイの脇に座り、レイの手を握っていた。
「思念波はかなり強かったんだろうな・・・。また、辛い思いをするようになるのかな・・・。」
一樹は向かいのソファに座り、レイの顔を見ている。初めてレイに会った時、幼気な少女のように見えたのを思い出していた。突然、署に現れ、事件が起きていると訴えた時、意味が解らず、しばらくは信用できなかった。だが、いくつかの事件を経て、それは、決して彼女が望んで得た能力ではなく、むしろ、その能力のために苦しんできたこと、そして、そのために途轍もなく残酷な事件が起きた事。ほんの数年前の事だが遥か遠くに感じていた。そして、思念波を感じる能力は失われたと思っていた。
暫くすると、レイが目を覚ました。
「すみません。」
そう言って、レイが身を起こす。
「大丈夫か?」
一樹は、それしか、声が掛けられなかった。
「ええ・・もう大丈夫です。」
「恨みの思念波だったの?」
亜美が訊く。
「ええ・・きっとそう。前に感じたものと同じでした。ただ、気のせいかもしれないけど、何か少しずつ、強くなっている様な・・・うまく言えないけれど・・・悲しみから恨みのようなものに変わってきている様な気がするの。・・・そして、少女から大人の女性に・・・こんなことは初めて・・。」
レイは思い出すようにゆっくりと話す。
「自殺に追い込んで復讐を遂げたのなら、徐々に弱まってもおかしくないよな。」
一樹が訊く。
「判らない・・自殺と思念波が本当に関係しているのか・・何か違うような気がする・・」
レイが答える。
「でも、佐原氏の時は、ほぼ同時にそれを感じたわけよね。」
「ええ」
「でも、上村氏の時はズレてる。今回の思念波は、まだ、何も起きていない。・・そうか・・恨みを晴らすこととはつながっていないかもしれないか・・・。」
一樹と亜美はますます混乱してきた。
これまでの捜査でも、自殺との直接的な情報はほとんどなく、周辺情報ばかりで、調べても自殺から遠ざかるような情報ばかりだった。思念波も、まったく別のものを示しているように感じられた。
「いったい何が起きているんだろう・・。」
事件の捜査は進展しているというより、混乱の渦の中にどんどんはまり込んでいるような気がしてきた。

「でも、病院の中に、強い恨みを持つ人物がいるのは確かね。そして、それは佐原氏の自殺との関係ははっきりしている。上村氏や下川氏との関係も重要でしょうけど、もう一度、佐原氏の自殺の件に戻ってみた方が良いんじゃないかしら。」
亜美が切り出した。
「確かに、まずそれをはっきりさせた方が良さそうだ。」
一樹が立ちあがった時、レイが言った。
「あの、一つお願いがあるんです。佐原さんが自殺を図った場所へ一緒に行ってもらえませんか?もしかしたら、今感じた思念波の波長で、何かわかるかもしれません。」
「構わないが・・レイさんは大丈夫か?」
「ええ・・これは私の病院で起きた事件ですから・・責任があります。もし、院内の職員がかかわっているなら、当然責任を取らなければなりません。私にできることをしっかりやりたいんです。」
レイの決意は一樹も亜美も理解できた。
すぐに、亜美は、署長に連絡をした。電話口では、署長の戸惑う声が聞こえたが、亜美は半ば強引に説得した。
4/9

nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント