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2-15 決着 [アスカケ外伝 第2部]

タケルが姿を見せると、チヤギの周りを手下が守るように固める。
「私は、ヤマトの皇子タケルです。このたび、この地の戦を収めるため、ヤマトから参りました。」
チヤギとは初対面である。
「おのれが・・ヤマトの皇子か!」
チヤギは少し狼狽えている。
「渥美や知多では、ヤマトが攻めて来るなどと言い、ありもしない戦騒ぎを起こし、互いの国を惑わせましたね。そのために、多くの民が傷つきました。」
タケルは敢えて穏やかな口調で問う。
「何を言うか!ヤマトの軍船が郷を襲ったのだ!ヤマトは悪しき国。穂の国を狙っておったではないか!」
「あの軍船は、チヤギ様。あなたが用意したものですね。放浪する者を集め、ヤマトの軍に仕立て、貴方の命令で郷を襲ったと、リュウキが白状しました。」
「ふん、リュウキなどと云う者、知らぬわ!」
「あの船に掲げられていた大和の旗印。あれは、イサヒコ様の父がヤマトを離れる時持たれていた物。貴方は、イサヒコ様の父や母を殺し、旗を奪った。それが証拠です。」
「イサヒコの父、母の事など知らぬ。アリトノミコトの仕業であろう。我には関係のない事。」
チヤギは知らぬ事と突っぱねる。
「では、ヒサ姫様の事は如何ですか?」
「ヒサ姫?・・アリトノミコトの妻か・・あれは自ら命を絶った。蛇の呪いを受けて居ったからな。」
「その話さえ、あなたの作り事でしょう。」
石巻の長エジツが一歩前に進み出て、懐から小さな金属の欠片を取り出した。
「これが・・ヒサ姫の亡骸の傍にあった。これは、神職の身につけている金具の欠片。お前が、神職を使ってヒサ姫を殺した証拠!」
「知らぬ!」
ヒサ姫の死は、設楽の荘の者達も知っていた。蛇の呪いを受け、自ら命を絶地、それを恨んだアリトノミコトが、兵を集め、蛇神を祀る伊那国攻めを行った時、多くの兵は、設楽の荘の男達だった。伊那国へ向かう最中、多くの社を焼き払い、郷を襲ったものの、病により敢え無く撤退した、無意味な戦であったという記憶が残っていた。ヒサ姫の死は自殺ではなく、チヤギが神職に命じて殺したとなれば、チヤギへの信頼も消えてしまう。アリトノミコトも騙されたということになる。
「まだ、しらを切るのですか?・・・ならば、貴方は一体何者ですか?」
タケルが訊く。余りにも漠然とした質問にチヤギは戸惑った。
「我は、砥鹿の社の神官チヤギである。・・全く・・意味が判らぬ事を聞くな!」
「そうですか。だが、本当は、甘樫の郷に居られた、イワヤノミコト様でしょう?」
タケルは、イサヒコの父が、チヤギを見た時に口にした名を思い出したと聞いていた。そして、それをサスケに確認していた。大和争乱の最中、甘樫の地を本拠としていた物部氏に仕えていた者の中に、同じ名の者がいた事は判っていた。
タケルの言葉を聞いていた兵たちはざわついた。
神官は代々一子相伝の職。大和の甘樫の者が神官を務めるなどあり得ない。もしそれが本当であるなら、チヤギは、砥鹿の社を、前の神官から奪い取ったということになる。
「もはや、誰もあなたの言葉など信じませんよ。」
タケルが言う。
「皆の者、騙されるではないぞ!・・これが、ヤマトの皇子の術なのだ。・・怪しげな使うのだ。騙されるではない!」
チヤギが声を荒げる。しかし、兵たちは冷ややかにチヤギを見ている。
「ええい!こやつらを退治せよ!」
ついに、チヤギが逃げ道を失ったかのように号令した。周囲を守っていた男達が一斉に剣を抜き、タケルに襲い掛かる。
タケルは、さっと飛び上がり、兵たちの中に下りた。
「皆様、手出しは無用です。怪我をしてはなりません。」
タケルは兵たちにそう言うと、再び、飛び上がり、手下の男一人を蹴り倒した。サスケ達も剣を構えている。気付くと、社に集まった兵たちの中に、チヤギの手下が紛れていて、周囲の兵たちを襲い、斬り掛かっている。兵と言っても、甲冑に身を固めただけで、剣を満足に使える者は少ない。手下たちは相当手慣れた者のようで、次々に、逃げ惑う兵を襲う。
「ミヤ姫!」
タケルが叫ぶ。それは、獣人への化身の合図であった。ミヤ姫は鏡を握り締め、祈る。光が漏れ始めると、タケルの剣も呼応して光を放つ。
「ぐるるるるー。」
タケルの体が一回り大きくなり、腕や足も太くなり、獣人に変わった。
獣人タケルは、剣を高くかざす。剣から出る強い光は、館にいた郷の長達にも判った。光は、兵たちの中で剣を振りまわす男達の眼を一瞬で焼き、その場で男たちは蹲る。
「物の怪になったか!」
チヤギは獣人タケルを見て叫ぶ。
タケルは光を放つ剣を大きく振る。強い光と風が起こり、チヤギを守っていた男達は跳ね飛ばされた。
「さあ、チヤギ、いや、イワヤノミコト、観念せよ!」
この声は、太く吠えるように聞こえた。
「何を言うか!」
チヤギはまだ諦めていない。そして、倒れた手下から剣を奪い、振りまわしながら逃げようとする。
「成敗!」
タケルは、剣を振り下ろす。チヤギの体は真っ二つに割れ、その場で果てた。
その後、社に居た兵たちは、館に居た郷長たちに促され、静かに引き上げていく。

こうして、伊勢国や尾張、知多、渥美、三河を巻き込んだ戦も無事収まり、それぞれに新しい国作りが始まった。

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