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3-8 ゴチョウの軍 [アスカケ外伝 第3部]

飯山砦をでたゴチョウの軍は、大蛇の軍船に乗り、中海から能代海へ目指し進んでいった。二つの海を繋ぐ水路の南側には、郷が広がっている。
「あれが、かつての出雲国の都です。今の王が遷都を命じられたので、今は、港と小さな郷が残る程度ですが・・・。」
水先案内をしているヒョウゴが、ゴチョウに説明する。
港には小さな船が多数着いていた。人影も見える。賑わいとまではいかないが、人が暮らしている事は判った。
「ここを押さえれば、出雲の軍船は出て来れぬようだな。」
ゴチョウが呟く。
「王が遷都されたのも、実は、それが一つの理由です。ここを封じれば守りも固くなる。言い換えれば、ここを敵に取られれば、出雲国全てを押さえられるに等しいのです。遷都先の杵築は、能代の海と外海との両方に地の利があります。いずれ、西国への号令するために善き場所だと考えられたのでしょう。」
ヒョウゴが説明する。
「ならば、まずここを押さえねばな。幸い、出雲軍は居らぬようだが。」
「いえ、それは止めた方が良いでしょう。出雲の軍はこの対岸にある、山口の港辺りに隠れているはずです。すでに我らの動きは知られているかもしれません。」
ヒョウゴは舳先から右手を指さしている。
そこには入り組んだ山と深く切れ込むように幾つもの入り江が見える。山口の港は、その先、楽山を回り込んだ辺りだった。山の頂上辺りにも見張台も見えた。
「怪しまれぬよう、真っすぐ、能代の海へ入ります。その先に小さな島があります。そこに船を着けます。」
ヒョウゴの案内で船は能代の海に入り、小さな島の陰に留めた。そこには幾つか小舟があり、分かれて、郷の様子を探りに向かった。
ゴチョウは、元の都山代の郷へ向かった。島からすぐ近くの海岸に小舟をつけて、陸に上がる。浜沿いを郷へ向かう。
港が見えてきた。まばらだが、人が行き交っている。兵の姿はない。郷の中に入ってみた。皆、何事も起きていないように普段の暮らしをしているようだった。ただ、時折、誰かにつけられているような気がした。郷の家並みを抜け、港の入り口には行ったところで、背後から女が一人近づいてきた。女は短刀をゴチョウの背に当てて、小さく呟く。
「静かにしてください。」
女はそう言うと、ゴチョウの手首を強く握り、後ろに回すと締め上げる。そして、そのまま、港の脇道に連れて行き、一軒の家に押し込んだ。
そこには、剣を構えた数人の男と、女がもう一人待っていた。
ヒョウゴは、腰の剣を取り上げられて、板の間に座らされた。
「手荒な真似をして申し訳ありません。見慣れぬ御方でしたから、もしや、伯耆の国から来られたのではないかと思いまして。」
剣を構えた男の脇に居た女が口を開く。その口調や身なりから、出雲の兵とは思えなかった。
ヒョウゴは、正直に答えるべきかどうか判らず口を閉ざしていた。
「ヤマトの皇子がヤマカを倒されたというのは本当ですか?」
再び女が口を開く。どうやら、敵ではなさそうだった。ヒョウゴは小さく頷いて答えた。そこにいる者は皆、ヒョウゴの返答に喜ぶような顔を見せる。どうやら、味方と考えても良さそうだとヒョウゴは思い、口を開く。
「私は、ヤマトの皇子タケル様に付き従い、丹後、宮津から参ったヒョウゴと申す。大蛇一族征伐の軍の将をしておる者です。」
ヒョウゴの答えに、さらに、皆、喜んでいる。
「では、ヤマトの軍が来ているという事ですね。」
確かめるように、女が訊く。ヒョウゴは小さく頷いた。
「我らは、ヤガミ姫様をお守りして出雲の都から逃れてきた者です。姫様は、大蛇の魔の手から逃れようと伯耆の国へ向かう途中、船から身を投げられました。しかし、まだ、生きておられると信じ、我らは機会を窺っていたのです。・・ヤマカが倒されたという報せを知り、その時は近いと思っておりました。」
その女はそう言いながら、涙ぐんでいる。
「姫様の消息はご存じあるまいか?」
剣を納めながら、男が訊く。
「いや・・われらも飯山砦に着いたばかり。ヤガミ姫様のことも今初めて知ったところ。だが、もし生きておられるなら、きっと、トキヒコノミコト様のもとに居られるのではないか。」
ヒョウゴが言うと、
「トキヒコノミコト様とは・・伯耆の国を大蛇一族から守られたという御方の事ですか?」と、女が訊く。
「はい。タケル様と同様に、都から来られた御方。今は、大神山の砦で大蛇一族の軍と対峙されておられます。」
そこまで聞き、皆は安堵したのか、座り込んだ。
「私は、スイと申します。貴方を連れてきたのは妹のレン。私と妹は姫様の侍女でした。そして、この者達は、姫様の衛士役です。」
自己紹介して、これまでの経緯をヒョウゴに話して聞かせた。
「タケル様のもとへ参りましょう。」
ヒョウゴは一通り話を聞いて、皆を飯山砦へ連れ帰る事にした。
来た道を戻って行く最中、驚く光景を目にした。
四隻の軍船が、悠々と水路を進んでいた。船縁には多くの兵の姿が見える。
「急ぎましょう。」
ヒョウゴは、船に戻ると、すでに皆、船に戻っていた。
「大蛇の大軍が水路を出て行った。このままでは、飯山砦が危ない。」
船では、皆、慌てて支度をしていた。

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