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4-4.駐在 [峠◇第1部]

駐在は、本署の資料室にいた。朝の役割分担に沿って、祭の事故の資料を探していた。
何十と設置された資料棚。だいたい30年位前というだけでは探しようもなかった。それでも一つ一つ調べていた。昼頃までかけて探したが、見つからなかった。諦めかけた時、後ろから声をかけられた。
「そこで何をしてるんだい。」
別にやましい事をしているわけではなかったが、駐在はちょっとびくっとして振り返った。そこには、資料室長の武井が紙コップに入ったコーヒーを持って立っていた。署のみんなからは、タケさんと呼ばれていた。もう定年間近で、数年前から資料室にいる。
「すみません。ちょっと調べたい事があって・・・」
「なんだ。ええと君は、玉浦村の駐在所にいる・・ええっと・・」
「はい。山本と言います。」
「おお、そうだった。確か、お父さんも警察官で、今は教官をされていたんじゃなかったかね。」
武井は、少しずつ思い出しながら続けた。
「はい。あと3年ほどで退官になる予定ですが・・」
「そうか、私の2つほど後輩だったな。元気かね。」
昔を懐かしむような言い方だった。
「ええ、でも、最近はほとんど顔をあわせていないのでわかりませんが・・」
「ところで、ここで何を調べようとしていたんだい。」
「はい。30年位前に玉浦で起きた事故の事です。」
「ああ、あの事件か・・」
そう言って、何か奥歯に物が挟まったような言い方をした。
「え?今、事件って。事故じゃないんですか?」
「ああ、すまんすまん。一応、事故判断されているが、私はそうは思えないんだ。実は、あれは、私が玉浦の駐在所に勤務していたときに起きた事件で、結局、関係者や目撃者から聞き取った話だけで、物証がなく、祭りの最中に起きた不幸な事故と判断されたんだ。」
「そうだったんですか。」
「そうか。ここ数日に起きた、玉穂昭、玉城祐介、須藤啓二の3人の事故との関連を調べているんだな。」
山本は、いきなり、目的を言い当てられて少しあわてた。
「武井さん、なぜ、そんなに詳しくご存知なんですか?」
「いやいや、実は、玉浦で起きた事件と今回の事、気になっていたんだよ。あの時の復讐のように思えてね。」
「実はまったく同じ事を言ってる人がいるんです。」
「ほう、村の外の人かい?」
「ええ、なぜわかったんですか?」
「いやね。あの事件も村の外から来た男が被害者だったし、事件と当事者が玉穂、玉城、須藤の3人だったからね。偶然にしては出来過ぎている。その人は、なんていう名前だい?」
「ええと・・幸一・・福谷幸一と言ってました。」
「ふーん。」
「あのう。被害者の方の名前は?」
「佐藤健一といっていた。亡くなった方は、東京に住んでいてね、まだご家族は存命のはずだ。それに、玉浦に来たのは、玉谷の息子の友達だとかで、夏休み中、遊びに来ていただけだった。」
「え?玉谷?今、そんな家ありませんよね。」
「ああそうか。君は知らなくてもしょうがない。玉谷家は、あの事件から1年くらい後に、全焼の火事を起こしてね。皆、亡くなってしまったんだよ。いや、正しくは、息子は火事ではなく、行方不明だったかな。娘は火事の後、投身自殺した事になっている。」
「ええ!!祭りの事故だけじゃなく、その後、火事や自殺もあったんですか。知らなかった。」
「まあ、村の人はそういう話はしたがらないからね。」
「それも祭りの事故と何か関係あるんですか?」
「いや、それはわからない。火事自体に不自然なところは無かった。娘は1年くらい前から、心を患っていたらしくて・・ただ、自殺かどうかは・・・遺体が見つからなかったので、行方不明といったほうが良いだろう。」

怜子たちとの約束は一通り判ったと山本は思い、資料室を出ようと
「ありがとうございました。大筋、わかりました。それでは・・」
というと、武井室長が、
「すまないが、君。今度、その、福谷さんだっけ?ここに連れてきて貰えないか?」と返した。
「え?良いですけど。まさか、容疑者としてではないですよね。」
「馬鹿言うなよ。ちょっと知りたい事があるだけだよ。それに、今回の事件、まだ何かあるように思うからね。村の人間じゃない方が判る事もあるんだよ。」
「え?まだ事件は続くと言う事ですか?」
「それはわからないが、すべてが関連したものだとすれば、もっと悲劇は起きると思う。それに、3人の事故には不審な点が無いわけでもないから・・」
「そうですか。判りました。それじゃあ。」
とドアを開けた時、武井氏はもう一言、
「玉水さんの娘は無事なのか?」と質問してきた。
山本は迷いながらも、この人なら良いだろうと思い、
「実は、昨日、崖から突き落とされたんです。福谷さんが見つけて無事でしたが。」
「そうか、やはりな。無事で良かった。でも気をつけたほうがいい。無事と判れば、次はどんな方法で狙ってくるか判らないからな。当分は、玉水の娘さんから目を離さないようにな。」
そう言った武井氏の目は、鋭い刑事の目になっていた。
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