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4-6.相談 [峠◇第1部]

翌日には、みな、ケンの喫茶店に集まっていた。
店の一番奥にある丸机を取り囲むように座り、それぞれの得た情報を報告した。
30年近く前の事故の内容は、駐在がほぼ整理した。そして、一連の事故は、その時の事故の復讐だろうとほぼ皆一致した。
ただ、判らない事は、犯人がいない事だった。村の人間には復讐する動機がない。

「やはり犯人は、幸一さんしか当てはまらないよ!」と和夫がふざける様に言った。そして、
「何か隠してる事はないですか?」と駐在も続けた。
「お前ら、も少し真剣に考えろよ!」とケンがみんなの頭を叩いた。

「じゃあ、怜子ちゃんが突き落とされそうになったのはどうしてだろう?」駐在が言い出した。
「そうだな。怜子ちゃんの家は、事故の加害者には入っていないからな。」ケンが答える。
「祭の事故を調べようと言い出したのは誰なんだい?」と幸一。
「誰だって言われても。怜子じゃないの?」和夫が怜子に振った。
「ううん。最初に調べようと言ったのは、実は、啓二なの。」怜子は意外な答えを返した。
「へ?あの無口で自分の事しか考えていない啓二が、何故?」
ケンは啓二をあまり快く思っていないようだった。
「ほら、私たちがまだ中学生だった頃、啓二のお父さんが漁に出て行方不明になったでしょ?何だか、その数日前くらいから、酒を飲むたびに同じ事をわめいていたらしく、どうも祭の事故の事と関連があるんじゃないかって啓二が思ったようなの。」怜子が啓二のいきさつを話した。
「え?須藤のおじさんの事故も祭りの事故と関係があるのかよ。」
和夫はもう何だかわからなくなってきたような声をだした。
「いえ、それがよくわからないから調べてみたいって・・・」

ケンが「和夫、お前からの情報は?」と続ける。
「いや・・・何も聞き出せなかった・・というか・・・お袋は何も知らないんじゃないかな。」
「お前、お袋さんが怖くて何も聞いてないんじゃ・・」ケンが突っかかった。
「いや、話はしたんだよ。でも、剛一郎さんが来て、お袋が機嫌を悪くしてね・・・昔の一族の話は聞いたんだけど・・」和夫は、玉元の家の事は触れずに、村の4つの家は一族だった事を報告した。
「そんなの、みんな知ってるさ。もともと、一族で、にしきやはこの村の一番古い一族の末裔ってね。でも、その跡継ぎがおまえじゃあな!」ケンが茶化すような言い方をしてきた。
和夫は、自分の家が玉元家の名前を勝手に名乗った事を知っているだけに、何もいえずに居た。

「ねえ。祐介さんのお兄さんの言葉、どういう意味だと思う?」
怜子が思い出すように、その言葉を繰り返す。
《お兄は殺された、お姉は死んだ、赤子は何処じゃ》

「怜子。」そう、幸一が話し出したとき、和夫やケン、駐在は顔を見合わせた。
「おい!怜子って呼び捨てはまずいだろ?どういうことだよ!」
和夫が食って掛かった。
怜子は、和夫の反応を見るなり、
「もう!いいじゃない。小さい事は気にしないで、ね?」
そう言いながら、幸一に目配せをするので、和夫は更にすねてしまった。
「怜子さん。その、祐一さんの世話はいつからしてるんだい?」
幸一は、改めて言い直した。
「そうね。私は、中学生になってから。その前は、タバコ屋のおばあちゃんだったと思う。まだ足腰しっかりしていたんで、玉城の奥様が頼んでいたそうよ。」
「そうか。祐一さんには兄も姉もいない。ひょっとしたら、お世話をしてくれる人のことかなって思ったんだが、タバコ屋のおばあちゃんがお姉さんと言うのは無理があるよな。」
幸一はつぶやくように考えこんでしまった。
「もう、悩むよりも、直接、おばあちゃんに訊いてみましょう。」
相談は一旦終了して、タバコ屋に行く事になったが、ケンは喫茶店、和夫は店の手伝い、駐在は仕事に戻るというので、幸一と怜子で行く事になった。
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