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4-11.知らせ [峠◇第1部]

幸一が、玉林寺の前まで来ると、門の前に、和夫とケンが待っていた。
そして、幸一を見つけると、大声で叫んだ。
「祐介の意識が戻ったぞ!」
和夫の声は弾んでいた。
「どこ行ってたんだよ。さっき、祐介の親父さんから、祐介の意識が回復したって連絡があった。これからすぐ病院へ行こう。」
ケンは、さっさと自分の乗用車のドアを開けて乗り込んだ。
「ちょっと待ってくれ。すぐ着替えてくる。」
幸一はそう言って、寺へ入った。

寺の玄関に住職が立っていた。
「さっきから、和夫とケンがお待ちかねじゃったが・・何かあったのかい?」
「ええ。祐介さんの意識が回復したらしいんです。これから着替えてすぐに病院に行きます。」
「おお、それは良かった。すぐに様子を見てくるがええ。」
幸一は、一礼して部屋へ行き、着替えを済まして玄関先に戻った。
住職もどこかへ出かけるようだった。
「ご住職もお出かけですか?」
「おお、ちょっとな、東方の薬師堂近くの家で、年季供養の相談じゃ・・」
「そうですか。それじゃあ、行ってきます。」
そう挨拶すると、幸一はケンの車に乗り込んだ。

「怜子は?」
幸一はケンに尋ねた。
「ああ、さっき電話したんだけど、留守だったから、史郎に伝言を頼んどいた。その内に来るんじゃないか。」

そう話していると、ケンの車の後ろからクラクション。怜子の白い乗用車がくっついて走っていた。
「ちっ、まずいな。」
ケンがバックミラーを見ながら、舌打ちする。
「どうした?」
幸一が尋ねる。
「いや、怜子は、自分の前に車がいるのが大嫌いなんだ。ひどく煽るんだよな。」
ケンがこぼすように言う。
「運転する時は、親父さん以上に怖いからな。」
和夫が大げさに答える。
「いや、運転する時だけじゃないと思うよ。」
幸一の言葉で、車の中は笑いがこぼれた。

祐介の回復の知らせは、みんなの凍えた心を溶かしたようだった。
峠道を2台は連なって、病院へ向かった。

病院に着いた4人は、急いで病室に向かった。途中、看護師に、『静かに』と注意されたが、逸る気持ちが抑えきれない。ケンは、エレベーターがなかなか来ないので、痺れを切らして階段を駆け上がった。
4階の病室前に着いたとき、4人とも息を切らしていた。病室の前には、祐介の父と駐在が居た。
駐在に声を掛けようとした時、病室のドアが開いて、刑事らしき男が二人出てきた。そして、祐介の父に何やら一言いうと帰って行った。祐介の父はそのまま病室に入っていった。駐在が直立不動・敬礼して見送った。

「おい!駐在!」ケンが声をかけた。
「やあ、みんな。早かったね。」と駐在は応えた。
「どうなんですか?」幸一が尋ねる。
「いや、一時的に意識は回復したようです。ですが、まだ、意識混濁の状態らしくて・・」
「さっきのは刑事さん?」怜子が尋ねる。
「ええ、一応、意識が回復したので事件の状況を聞き取れないかと本署からいらしたんですが、まだ、そういう状態ではないので・・」
「そう、それで、面会は出来るの?」怜子は中の様子を知りたかった。
「ダメなんです。今、面会謝絶。何だか、意識が回復したのは良い傾向らしいんですが、その分、全身打撲のショック反応が強くて、不安定な状態らしいんです。今、医者が付きっ切りで容体を診ているところです。」
皆、意識回復という知らせで元気になっているのかと期待した分、落胆した様子を隠せなかった。

幸一がふとさっきの駐在の言葉を思い出して
「さっき、事件っていったよね。事故じゃなくて事件という事になっているのかい?」
駐在はちょっと慌てた。職務上の秘密にすべき事かもしれないと思い、返事に困っていると、
「おい、どういうことだよ。俺たちにも秘密にする事か?」
と、ケンがやや脅すような口調で詰め寄った。
「いや、ここではちょっと・・」と駐在は応えた。
「それなら、ケンの喫茶店に行きましょう。」と怜子が提案し、皆、承諾した。
ちょうど、そこへ、祐介の父が病室から出てきた。
「あら、おじ様、雄介さん、意識が回復してよかったですね。」
と怜子が挨拶した。
祐介の父は少し難しい顔をして、「ああ」とだけ返事をした。
「どちらへ?」と聞くと、
「ああ、ちょっと剛一郎と相談があってな。村へ戻る事にする。」
そういうと、すたすたと廊下を歩いて立ち去った。
皆も、駐在を引っ張って、ケンの喫茶店に行く事にした。

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