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4-12.タケさん [峠◇第1部]

ケンの喫茶店は病院から、それほど遠く無いところにあり、店に入るといつもの奥のテーブルに陣取った。
駐在を真ん中に、警察で、今、何が進められているのかを詳細に聞くことになった。
駐在は、自分だけでは困る、無理だといい、本署にいる武井さんを呼ぶからと言い、電話した。
待つ間、ケンがみんなにコーヒーを煎れた。
ここ数日、とにかく、いろんな事がありすぎた。平穏だった村が恐ろしい村へ変わり、楽しく夜の市場で飲み明かした日々が遠い日のように思われた。コーヒーの香りに包まれて、皆、同じ思いをしていた。

15分ほどして、武井さんがやってきた。
Tシャツにジーンズ姿、とても警察官とは思えない服装で、薄くなった頭の汗を拭いながら登場した。
駐在だけが、テーブルから立ち上がり、敬礼した。武井はその姿を見て、『止せ、止せ』というようなジェスチャーをしてみせた。
「こんにちは、武井です。皆、タケさんと呼んでくれています。よろしく。」と皆に挨拶した。
そして、皆を見回した後、
「ああ、君が幸一君だね。山本君から話は聞いている。」と幸一に向かって挨拶した。
「どうも初めまして。福谷幸一です。今回、この村に来て次々にいろんな事が起きて・・」
「まあ、そう慌てなくても。まあ座ろう。」
武井はそう言ってから、ケンに「コーヒー、砂糖とミルクたっぷりでな」と注文した。

武井が状況を説明した。

これまでの3件は事故と判断されたが、怜子の事故を聞き、やはり単純な事故ではなく誰かが意図的に起こしている事を確信したこと。そして、事故の再捜査と26年前の事故の因果関係を調べるように、署長に直談判したことを話した。
「いやあ、実は、今の署長は、26年前の事故の捜査の一員だったんだよ。当時、物証が無く、責任者が事故と最終判断したが、署長も納得できていなかったそうだ。それで、今回の事故についても、疑問をもっていたらしい。まあ、山本君が玲子さんの件を教えてくれなかったら、そのままだったかも知れないがね。」
と説明した。
ちょっと、駐在は得意そうな顔をしていたが、誰も気づかなかった。

「それで、どうなんです?犯人はわかりそうなんですか?」幸一が尋ねた。
「いや、今のところ、新しい情報はない。若い刑事たちは署長命令なんで、何とか進展させたいと躍起になっているようだが・・・」と武井。
「武井さんは何か掴んでいるんでしょう。」幸一が再度尋ねた。
「やはり、君は鋭いね。今回の件でも山本君が動いていたのも、君からの提案だったらしいね。」
駐在はさっきの得意顔が皆に見られなくてよかったと心の隅で思って、コーヒーを飲み干した。
「いや、あれから、事故調査書を見返してみたらいくつか不審な点が見つかった。・・」と武井は続けた。

昭の事故では、シートベルトをしていなかった事と足元に握り拳ほどの石があった事。他にも、突っ込んだはずなのに後頭部に打撲の跡があったこと等、単なる事故にしては疑問を持たざるを得ない点があることだった。
そして、祐介の事故では、運搬機はまだ動かす時期ではない事と、土手を落ちていく前に飛び降りる事が可能にもかかわらず、そのまま落下している事だった。意識を失った状態で落下したものと考えるほうが自然だという点だった。
さらに、啓二の火災事故は、幸一たちが推理したとおり、船の炎上の仕方が尋常でない事と、泳ぎの達者な啓二が行方不明という点はやはり不自然だという事だった。
そして、何よりも、26年前の事故の当事者3人の息子が都合よく事故に遭っている事が、祭りの事故かそれに関する恨みを持つ者の復讐だと考えるのが自然だという事だった。

「じゃあ、昭も祐介も啓二も、事故を起こす前に意識が無かったか、すでに殺害されていた可能性があるという事ですか?」
幸一の発言で、皆、息を呑んだ。
しばらく間があって、
「そうなんだ。そう考えるのが自然だろう。」武井が確定した。
「でも、犯人は?村の人なの?不審者といっても・・・」と怜子が質問しかけた時、はっと気づいた。
「ねえ、大久保海岸の不審な男の事は?」と怜子が言った。
武井は、すでに知っているかのように
「ああ、あの男か。もう10年位前からあそこに住み着いている。今回の事件では、不審な事はない。」
「え?武井さんは知ってらしたんですか?」と幸一が驚いた。
「ああ、訳有って、あそこに隠れ住んでいるらしい。理由はどうしても言えないと口を割ろうとしないが・・」
「じゃあ、あそこにいろんなものを届けていたのは武井さんですか?」
「いや、私は、時々顔を見に行く程度だ。抱えている理由を何とか聞き出したいと思ってね。」
「では、誰が?」と幸一が質問しかけた時、喫茶店の電話が鳴った。

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