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5-1.玉祖神社 [峠◇第1部]

玉城祐志は、祐介の病院から、タクシーを拾った。
「玉浦まで・・」
無愛想にそう言うと目を閉じた。祐介の意識が戻りつつある事に安堵しているというよりも、何か気がかりな事があるように、時折、眉間にしわを寄せる表情をしていた。
峠道を抜けたところでタクシーを停めた。そして、ひとり、神社の参道を登っていった。
晩夏の参道は、鬱蒼とした森になっていて、まだ、午後を回ったところだというのに薄暗い。蜩の声だけが響いている。中の鳥居をくぐり、本殿の前で祐志は声をかけた。

「おい、剛一郎、どこだ?こんなところに呼び出して、相談って何だ。」
返事は無かった。祐志は、剛一郎から相談があるからと呼び出しの伝言を受け取っていた。
「おい、いないのか?」
祐志が辺りを見回し、鳥居のほうへ身を向けた時、本殿の柱の影から、男が出てきて、背後から、祐志の口を塞ぎ、交い絞めにして、そのまま、本殿に入っていった。
そして、用意したロープで祐志を後ろ手に縛り上げると、床に転がした。
本殿の中は薄暗く、顔は良く見えない。
「どういうことだ?一体誰だ!こんな事をして!」
祐志は床にうつぶせに転がったまま抵抗しようとした。
「祐志!俺だ、覚えてないか?」
男はそういうと祐志の腹を蹴るようにして、転がし、仰向けにさせた。
祐志には、聞き覚えのある声だが、転がされたショックで、よく判らずにいると、
さらに男は、
「順平だよ。お前たちのせいで、家も両親も妹もすべて失った順平さ。ようやく復讐のときが来た。お前たちが26年前に仕出かした恨み、晴らさせて貰う。」
祐志は、順平が生きていた事に驚くと同時に、一連の事件の犯人とその理由が理解できた。そして、
「待て!順平。まさか順平だったとは・・。気づかなかった・・。」
「そうさ。この村を出て26年。お前たちのせいで俺の人生は狂ってしまった。人相だって変わるさ!」
「あれは、事故だった。俺じゃない、あれは事故だ。」
祐志は罪を逃れようとした。
「うそを言うな!お前たちが寄って集って、健一を嬲り殺しにしたようなもんだろう。」
「いや、そうだ。確かにここで酒を飲んで殴ったかも知れん。だが、やりたくてやったわけじゃない。」
観念したかのように祐志が話す。
「嘘だ!」
「ああ、確かに、ここで、健一君をみんなで酒を飲ませては殴りつけた。だが、それは、和美ちゃんと別れさせるため、剛一郎がやれと言ったんだ。」
「何故、止めようとしなかった。」順平は責める。
「最初は嫌だと言ったんだ。だが、あいつには、逆らえなかった。逆らえば、俺がまたやられる。」
「そんな・・・」
「それに、あいつ、健一君は、滅法酒が強かった。俺たちのほうがのびそうだったんだ。それに、死んだのは川で溺れたからで、事故だったじゃないか。」
この期に及んで、まだ、罪を認めようとしない祐志に逆上して、順平が叫ぶ。
「まだ言うか!お前たちのせいだ。誰だって、泥酔状態で川に放り込まれれば溺れちまう。お前たちが殺したのと同じだ。」
順平の怒りを静めようと、祐志は、
「いや違うんだ。なあ、順平、俺の話を聞いてくれ。確かに、前日の夜、ここで酒を飲み、散々殴り倒した。でも、あいつは強かった。本当に、それ位じゃなんともなかったんだ。それに、川に飛び込んだ時、健一君は真っ先に水面に顔を出そうとしたんだ。」
「じゃあ、なぜ,溺れた?」
「司だ。あいつは村一番潜水が達者だった。だから、上がろうとする健一君の足を掴んで引っ張ったんだ。それで、急に慌てたのか、バタついたと思ったら、そのまま流れに飲みこまれたんだ。」
「じゃあ、司が溺れさせたと言うわけか。」
「そうだ。だから、俺は無実だ。・・・・」
「だめだ。司はもう死んでいる。死人に口無し。お前の話は信用できない。」
「いや、司は生きてる。罪を悔いて隠れ住んでいるんだ。」
「なんだと・・・」
「大久保海岸に行ってみろ!男が隠れて住んでいる。あいつが司だ。
「そうか・・・あいつが・・・」

そこまで話を聞くと、
「わかった。あいつはこの後じっくり復讐する。まずはお前からだ。」
と言い、本殿の棚に向かっていった。

棚には、近く始まる祭に向けて、村の衆が寄贈した清酒の樽や瓶が並べられていた。
そこから数本を手にとって、栓を抜いた。それから、祐志に馬乗りになった。
頬を鷲摑みにして、無理やり、口を開けさせると、そこに酒を流し込んだ。
ほとんど吐き出しそうになるが、鼻をつまみ、飲み込ませた。
何本も酒瓶を開け、飲ませ続けた。床一面に酒が零れていった。
それでも構わず続けた。祐志の意識が遠のくと、顔を殴り、目を覚まさせ、また続けた。
3度ほど意識が遠のいては戻された。そして、もはや、自分がどういう状態なのかわからないくらい、酒に塗れたところで、男-順平-は、懐から錆びた五寸釘を取り出した。
この釘は、焼け落ちた玉谷家の屋敷から、順平が拾い上げ隠し持っていたものだった。
それを、祐志の心臓の真上に立てた。
祐志は、何度かばたばたと抵抗するしぐさを見せたが、全身酒まみれで正気を失っている状態では、抗う事などできなかった。
それから、順平は、持っていた酒瓶を金槌代わりにして、五寸釘の頭を思い切り打ち付けた。
1度目ではそれほど入らない。祐志は前身を走る激痛で飛び上がるほど海老ぞりになるが、馬乗りになった順平が強く抑える。
2度目に打ち付けた時、心臓に到達したのか、祐志はぐうと言ったきり、動かなくなった。
それでも、順平は、釘の頭が肋骨の中にめり込むほど強く打ち続けた。26年間の恨みを全てぶつけるかのように打ち付けた。

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