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5-2.遺体発見 [峠◇第1部]

ケンが電話を取ると、武井を呼んだ。
「武井さん、何とかっていう刑事から。」と、なんともぞんざいな取次ぎをした。
武井は受話器を取ると、
「そうか、わかった。すぐに向かう。いや大丈夫だ。そのまま現状保存しておいてくれ。」と切った。

皆のほうを向くと、武井は鋭い表情に変わっていた。そして、
「悪いが、玉祖神社まで送ってくれないか。」
怜子が立ち上がって、「また、何かあったんですか?」と訊いた。
「そうだ。最悪の事態だ。もっと早く動いていれば・・・」と言った。

怜子の車で、武井と駐在と幸一が現場に向かった。和夫とケンは後で行く事にした。

制限速度など無いかのように、怜子の車はスピードを上げる。
峠道のヘアピンカーブもタイヤを鳴らしながら駆け上がる。そして、神社の大鳥居の前に車を止め、そこから3人は境内へ急いだ。

本殿にはすでに立ち入り禁止のテープが張られていて、そこに、刑事が二人立っていた。
「この中です」と指差し、武井と駐在が入っていった。幸一と怜子も続こうとしたが、刑事に制止されてしまった。しばらく待っていると、駐在が、怜子と幸一を中に入れるように促した。

怜子と幸一が言われるまま入ると、そこには、横たわった祐介の父-祐志-の姿があった。
そして、その遺体の周りには、何本かの日本酒の瓶が転がっていて、本殿の中は酒のにおいが充満していた。
死因は、心臓を貫いた釘によるもので、ほぼ即死だった。
刑事の話によると、午後、武井の指示で祐志を病院から尾行していた。タクシーで帰宅中に、神社の前で降りた。後をつけようとしたが、静まり返っている中、気づかれる危険があったので車中で待機していた。1時間以上出て来ないので、不審に思い、神社の中へ入ったが姿が見えなかった。ただ、本殿から酒のにおいがしたので、中に入ってみるとすでに息絶えた状態だったという。この間、参道では誰にも会っておらず、犯人につながる遺留品は殺害に使われた五寸釘以外にはないという。
「この殺害方法を見ると、そうとう恨みが濃いとしか思えないな。」
武井が言う。
五寸釘は心臓を貫いて、背中にまで達していたという。息絶えてからも何度も何度も打ち付けた後があり、祐志のあばら骨は何本か粉砕しているくらいの折れ方をしているらしい。

「きっと、祐介君の意識が回復した事を犯人は聞いて、復讐を急ぎ始めたに違いない。」と武井が言う。
「え、それじゃあ、まだこれから続くと言う事なの?」と怜子。
「そうだ。祭りの事故に関わる人が狙われる。」武井が答える。
「ですが、武井さん、当事者は、玉穂忠之氏、玉城祐志氏、須藤司氏の3人でしょう。祐志さん以外は随分前に亡くなっているわけですから、もう誰も居ないんじゃないですか?」と幸一が武井に訊いた。
「いや・・・それはどうかな。・・祭の事故の当事者はそうだが、そこまでの経過やその後の事を考えると、村全体に深い恨みや悲しみを持っているとも考えられる。それに、犯人らしき人物はまだ隠れているわけだし、何をたくらんでいるのは確かだ。誰が狙われるのか、見当もつかないが・・・」
「そうですか。」
「そうだ、幸一君の身も危ない。」
「どうしてです?」
「犯人は、誰かに罪を着せる事を考えるかもしれない。君を殺して犯人に仕立てる事も考えるだろう。くれぐれも気をつけてくれ。私はもう少し現場検証に付き合うから、もう帰ったほうが良い。」
と、武井は言った。現場検証が終わるまで時間がかかるからと、武井は、怜子と幸一を先に帰らせた。
遺体が運び出された。司法解剖のため、運ばれて行った。

幸一は、とりあえず寺に戻る事にした。
怜子は、玉城の家の事が心配だし、祐一の世話もあると言って玉城家へ向かった。
幸一は、寺に着くと住職は不在だった。ほどなくして、ケンと和夫がやってきた。

「なんだい、あれは?」
開口一番、ケンが不平そうに言った。
「関係者だって言っても、中に入れてくれないんだぜ。」和夫も続いた。
幸一が、玉城祐志の殺害の状況等、見てきた事を二人に話した。
話を聞きながら、和夫の顔色が青ざめていったのがわかった。
「いやあ。見ないほうが良かったかもな。今晩眠れないや。」
和夫がほっとした表情で言いながら、続ける。
「結局、祐介が命を取り留めたら、親父が死んじまうなんて・・・」
「なんか、よっぽどの恨みでもあるんじゃねえか?和夫、お前は大丈夫かよ?」
ケンがほろっと言った。
和夫は、祖父の記録にあった忌まわしき先祖の事を思い出して、口をつぐんだ。
そんなやり取りをしていると、住職が帰ってきた。
「おや、3人集まってなんじゃ?」住職は少しほろ酔い加減だった。
「みな、すまん。すまん。夕方、香林寺のご住職に呼ばれてな、葬式が続くので相談がてら、つい一杯やっておった。不謹慎と思うじゃろうが、坊主は死人には慣れておる。はっはっは。」と軽口を叩いて、部屋に入ってしまった。
皆、呆気にとられていた。
「じゃあ、俺、帰るよ。」「何かあったら連絡くれよな」そう言って、ケンと和夫が引き上げた。


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