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7-2.操り糸 [峠◇第1部]

幸一の一言に、怜子は背筋が寒くなる思いがした。
もうすべて終わってほしいと願い、これまで起こった事はすべて夢物語にしてしまいたかった。

「どうして?こんな事がまだ続くって言うの?」と怜子。
「ああ、そんな気がするんだ。」
と幸一はそう言って、昨夜、寺へ帰ったときの様子を怜子に話した。
「僕が、寺には着いた時、まだ、明かりが灯っていたんだ。不思議に思って、本堂に入ってみると、血まみれで住職が横たわっていた。咽喉を切られ出血がひどかった。そして、すぐ脇には、武井さんが気絶していた。武井さんはいきなり殴られ気を失ったと言っていた。住職が肉親の弔いがしたいから寺に寄ってくれと頼んだのを聞き入れてたらしいんだ。」
「じゃあ、やっぱり、住職は自殺したということになるんじゃないの?」
「うん、武井さんの話ではそういうことになるんだ。」と幸一は答え、更に続けた。
「でもね、僕の部屋が物色された痕があったんだ。確かに誰かが寺の中で何かを探していたようなんだ。」と幸一。
「警察が、遺書とかを探して散らかしたわけじゃないの?」
「いや、警察が来る前に、そうなっていたんだよ。それに・・」
と幸一は、ジーンズのポケットから、3通の封筒を取り出して怜子に渡した。
「これは、昨夜、本尊の裏手の隠し部屋で見つけたんだ。中を見てごらん。」と幸一が促した。
封をあけ、中の便箋を取り出し、怜子が目を通した。

【復讐の時は来たれり。穂の若き命の果てる時、長き怨みを解き放つべし】

怜子の顔色が青くなった。そして震えながら、
「これって、昭の事故のことを指しているのよね。」と怜子は幸一に確認した。
「そうなんだ。そして、昭の事故をきっかけにして復讐を始めようという意味にとれるよね。」

2通目を開いて
【城崩れるも、まだ怨み消えず。古き船、海の藻屑へならしめん】
「これは、祐介の転落事故と、啓二の船の沈没事故のことなのね。」「そうだね。」

3通目を開いて
【君が使命。古き穂は身を朽ちて、船の錨は海底へ、濁りし水は泡と帰すべし】
「これが、玉城の叔父様と啓二のお父さん、そして私のお父さんの事なのね。」
「そうなんだ。それも、事故が起きてからじゃなく、その前に住職に暗示・・いや、指令を出すような意味合いを持っているように感じるんだ」と、昨晩、いろいろと考えた挙句の答えを話した。

「そう考えると、一連の事故や事件の引き金を引いた人物が別に居ると言う事になるんだ。」と幸一。さらに、
「そして、その人物が住職を殺害したと言う可能性も・・」と続けた。
幸一の話を聞いていた怜子が、
「ねえ、おかしいわ。ここには私の事が出ていない」と言った。
「そうなんだ。怜子のことが出ていない。きっと、怜子だけはもともと殺すつもりはなかったんだ。だから、怜子を崖から突き落としたのは偶発的な事だったと思う。」と幸一が言った。
「あの時、幸一さんが見つけてくれなかったらどうなっていたか。それに・・・」と怜子は、あの夜の事を思い出し口に仕掛けたが、急に口を閉ざした。

その様子を察して幸一が
「きっと、この手紙の主は、怜子が玉谷家の和美さんの娘だと知っていたと言う事かもしれない。だからね。昭くんや祐介、啓二を襲ったのは、住職ではないと思うんだ。」と推理した。
「でも、祭りの事故に関わった人たちは皆亡くなったわけだし、火事の事だって・・・」と怜子が否定した。
「そうなんだ。でも、確かにこの手紙は存在する。これまでの復讐劇を操ってきた人物が居るはずなんだ・・」と幸一は苦悩しながら言う。
怜子もしばらくその手紙を開いたまま、考え込んでいた。
そして、何かひらめいたように
「ねえ、にしきやのおかあさんは何か知らないかしら?皆、もともと、玉元一族だったわけだし、あのお母さん、この村の生まれで何でも知ってるから・・」と言った。
二人はにしきやへ向かうことにした。

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姥桜のかぐや姫

昨日から峠を読みはじめていますが
ドラマの展開が気になりむさぼるように読んでいます
詠み人をこんなに惹きつける実にすばらしい作品ですね
今日も引き続き読ませていただきます。

by 姥桜のかぐや姫 (2011-02-01 07:33) 

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